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第37話 剣士、情報収集をする
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王都サイファルには多種多様な種族が生活を送っている。耳長族、小人族、獣人族などなどがこの王都には存在していた。
種族別に集まりを作るのが諍いを起こさないもっとも確実な方法なのだが、現サイファル国王である『グラス・イル・サイファル』はあえて様々な種族を迎え入れた。
知識を、視野を、その全てを交流させたいというのが、グラス国王の最も大事にしている考えである。
そんな街中を歩きながら、アルムはシアンから貰った人相書きをぼんやりと眺めていた。
「……獣人族、か。人間と大して変わらないように見えるがな」
浅黒い肌に、狼の耳を持つ男の顔が描かれている。耳以外は特に人と大差ない。だが、こういった特徴が原因で迫害している地域もあるというのだから、アルムは純粋に驚いた。
それはさておき、現在の彼は特に当てもない状態でぷらぷらと歩いているだけに過ぎない。
誰かに聞こうにもしっかり人を選んでいかなければ、それが後々悪い方向へ効いてくるのは間違いない。
当然、最初は真っ先に冒険者ギルドへと顔を出し、聞いて回った。だが収穫なしという予想外の結果になってしまっては、一体どこへ尋ねればいいのか分からなくなる。
「その獣人族とやらが集まっている場所へ行くのが自然、か」
とりあえずの方針を打ち出したアルムは背嚢に入れていた地図を広げる。冒険者ギルドから無償でもらったもので、大雑把にこの町の事が記載されているのだ。
それを読むと、王都の西区間が主に獣人族が生活を営んでいる場所という事が分かったので、ひとまずそこへ赴き、情報収集をすることにした。
「アルムさん! こんにちは!」
前方から大きな袋を抱いたイーリスが律義に頭を下げて来た。その礼儀正しさは素直に認められるアルムは片手をあげ、それに応えた。
「あれ? 今日も何か依頼ですか?」
「頼まれごとをしていてな。依頼、という訳ではない」
「なるほど! う~ん……そうだったんですね」
いつもニコニコとしているイーリスの顔が少しだけ残念そうに曇ってしまった。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、いえいえ! そういう訳では無くて! 今夜ウィスナさんとエイルさんを食事会に誘っていまして、もしよかったらアルムさんも来てくれないかな~って思ってたんですよ」
「もう食事に誘うほどあいつらと仲良くなったのか」
「はい! 皆さん良い人達だからです!」
アルムは薄く笑い、そして考える。仲間からこうして何かに誘われる経験が皆無だった彼にとって、この誘いは非常に魅力的なものであった。
前の世界では誰かと共に行動をすることもなく、ただ淡々と目の前の敵を倒していたあの頃に比べると、なんと彩りに満ちた日々なのだろうか。
「それは何よりだ。……食事か、迷惑でなかったらお言葉に甘えても良いか?」
「やった! ありがとうございますアルムさん!」
「礼を言うのは俺の方だ。それで何時にどこへ向かえば良い?」
「えっとですね――」
彼女から時間と家の場所を聞き、アルムはそれをしかと記憶する。
準備があるということで、イーリスを見送り、アルムは再び歩き出す。その歩幅は少しだけ大きくなっていた。
「……少しだけ盛り上がっているな俺」
思いのほか、こういった約束事というのは心を躍らせるものなのだな、という彼は感動をした。約束事というのは大体、魔族からの熱烈な死闘のお誘いだったので、こうも綺麗な約束があったことを知ることが出来たのは非常に新鮮な経験である。
「そろそろか」
様々な種族が闊歩する街中をひたすら歩いていたアルムは、とうとう西区間に辿り着いた。そこにいる住人たちは皆、耳や臀部に動物的な特徴がある者しかいない。ここは既に獣人族のテリトリー、迂闊な発言は己の身を滅ぼしかねない――、
「なあ、そこのあんた聞いても良いか?」
なんていう不安が一切ないアルムは、手近な獣人族の若者へ声を掛ける。
「あん? なんだよてめえは?」
だが、アルムは運が悪かった。いくら適当に声を掛けたとはいえ、人族で言う不良に近い獣人に接触してしまったのだから。
既に獣人は臨戦態勢。だが、彼は臆せず言葉を続ける。
「この辺で獣人が集まる酒場は無いか? あれば場所を知りたい」
「てめぇ……」
一瞬だった。鋭く伸ばされた手がアルムの胸倉を掴む。その眼光には明らかな敵意が込められていた。
「人族が声を掛けてくるだなんて随分俺も舐められたもんだな」
「……人族だから声を掛けてはいけない理由があるのか? 随分な言い草だな」
「口では何と言おうが、お前達は人族は俺達獣人族を下に見ていると知っているんでな」
「知っている? 誰がそんな事を証明したんだ? 少なくとも、俺はそんな考えになったことは無いのだが」
しっかりと見据えて言うアルム。彼としては一切後ろめたいことが無い故の正々堂々とした物言いに、獣人族の男は少し気圧されてしまった。
「俺は獣人族と喧嘩をしに来たわけじゃない。話を聞きに来たんだ。お前の思うトラブルに発展することは絶対にないから信じてくれ」
「そんなこと……!」
「じゃあお前で良い。こいつを見たことはあるか? あれば、もうそれで俺の用事は終了なんだ」
そう言って、アルムは人相書きを広げて見せた。ここまで見せたのだ少しくらいは収穫があって欲しい、そんな思いを込めて。
その人相書きをまじまじと見る獣人族の男は、表情をどんどん曇らせていく。
「こいつは……ガルム?」
「知っているのか?」
「……ちっ、付いてこい」
想像以上の成果に、アルムは内心戸惑いを隠せなかった。
種族別に集まりを作るのが諍いを起こさないもっとも確実な方法なのだが、現サイファル国王である『グラス・イル・サイファル』はあえて様々な種族を迎え入れた。
知識を、視野を、その全てを交流させたいというのが、グラス国王の最も大事にしている考えである。
そんな街中を歩きながら、アルムはシアンから貰った人相書きをぼんやりと眺めていた。
「……獣人族、か。人間と大して変わらないように見えるがな」
浅黒い肌に、狼の耳を持つ男の顔が描かれている。耳以外は特に人と大差ない。だが、こういった特徴が原因で迫害している地域もあるというのだから、アルムは純粋に驚いた。
それはさておき、現在の彼は特に当てもない状態でぷらぷらと歩いているだけに過ぎない。
誰かに聞こうにもしっかり人を選んでいかなければ、それが後々悪い方向へ効いてくるのは間違いない。
当然、最初は真っ先に冒険者ギルドへと顔を出し、聞いて回った。だが収穫なしという予想外の結果になってしまっては、一体どこへ尋ねればいいのか分からなくなる。
「その獣人族とやらが集まっている場所へ行くのが自然、か」
とりあえずの方針を打ち出したアルムは背嚢に入れていた地図を広げる。冒険者ギルドから無償でもらったもので、大雑把にこの町の事が記載されているのだ。
それを読むと、王都の西区間が主に獣人族が生活を営んでいる場所という事が分かったので、ひとまずそこへ赴き、情報収集をすることにした。
「アルムさん! こんにちは!」
前方から大きな袋を抱いたイーリスが律義に頭を下げて来た。その礼儀正しさは素直に認められるアルムは片手をあげ、それに応えた。
「あれ? 今日も何か依頼ですか?」
「頼まれごとをしていてな。依頼、という訳ではない」
「なるほど! う~ん……そうだったんですね」
いつもニコニコとしているイーリスの顔が少しだけ残念そうに曇ってしまった。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、いえいえ! そういう訳では無くて! 今夜ウィスナさんとエイルさんを食事会に誘っていまして、もしよかったらアルムさんも来てくれないかな~って思ってたんですよ」
「もう食事に誘うほどあいつらと仲良くなったのか」
「はい! 皆さん良い人達だからです!」
アルムは薄く笑い、そして考える。仲間からこうして何かに誘われる経験が皆無だった彼にとって、この誘いは非常に魅力的なものであった。
前の世界では誰かと共に行動をすることもなく、ただ淡々と目の前の敵を倒していたあの頃に比べると、なんと彩りに満ちた日々なのだろうか。
「それは何よりだ。……食事か、迷惑でなかったらお言葉に甘えても良いか?」
「やった! ありがとうございますアルムさん!」
「礼を言うのは俺の方だ。それで何時にどこへ向かえば良い?」
「えっとですね――」
彼女から時間と家の場所を聞き、アルムはそれをしかと記憶する。
準備があるということで、イーリスを見送り、アルムは再び歩き出す。その歩幅は少しだけ大きくなっていた。
「……少しだけ盛り上がっているな俺」
思いのほか、こういった約束事というのは心を躍らせるものなのだな、という彼は感動をした。約束事というのは大体、魔族からの熱烈な死闘のお誘いだったので、こうも綺麗な約束があったことを知ることが出来たのは非常に新鮮な経験である。
「そろそろか」
様々な種族が闊歩する街中をひたすら歩いていたアルムは、とうとう西区間に辿り着いた。そこにいる住人たちは皆、耳や臀部に動物的な特徴がある者しかいない。ここは既に獣人族のテリトリー、迂闊な発言は己の身を滅ぼしかねない――、
「なあ、そこのあんた聞いても良いか?」
なんていう不安が一切ないアルムは、手近な獣人族の若者へ声を掛ける。
「あん? なんだよてめえは?」
だが、アルムは運が悪かった。いくら適当に声を掛けたとはいえ、人族で言う不良に近い獣人に接触してしまったのだから。
既に獣人は臨戦態勢。だが、彼は臆せず言葉を続ける。
「この辺で獣人が集まる酒場は無いか? あれば場所を知りたい」
「てめぇ……」
一瞬だった。鋭く伸ばされた手がアルムの胸倉を掴む。その眼光には明らかな敵意が込められていた。
「人族が声を掛けてくるだなんて随分俺も舐められたもんだな」
「……人族だから声を掛けてはいけない理由があるのか? 随分な言い草だな」
「口では何と言おうが、お前達は人族は俺達獣人族を下に見ていると知っているんでな」
「知っている? 誰がそんな事を証明したんだ? 少なくとも、俺はそんな考えになったことは無いのだが」
しっかりと見据えて言うアルム。彼としては一切後ろめたいことが無い故の正々堂々とした物言いに、獣人族の男は少し気圧されてしまった。
「俺は獣人族と喧嘩をしに来たわけじゃない。話を聞きに来たんだ。お前の思うトラブルに発展することは絶対にないから信じてくれ」
「そんなこと……!」
「じゃあお前で良い。こいつを見たことはあるか? あれば、もうそれで俺の用事は終了なんだ」
そう言って、アルムは人相書きを広げて見せた。ここまで見せたのだ少しくらいは収穫があって欲しい、そんな思いを込めて。
その人相書きをまじまじと見る獣人族の男は、表情をどんどん曇らせていく。
「こいつは……ガルム?」
「知っているのか?」
「……ちっ、付いてこい」
想像以上の成果に、アルムは内心戸惑いを隠せなかった。
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