四本剣の最強剣士~魔王再討伐につき異世界転生~

右助

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第38話 剣士、囲まれる

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 獣人族の男についていくと、そこそこ大きな酒場に連れて行かれた。
 男に促されるまま、店内に入ると、一気に異様な雰囲気に包まれた。当然であるが、どこを見ても、獣人達しかいない。
 一歩踏み出す度に、睨まれる。それはとてもとても感情がたっぷりと込められていた。

「おいウロ! 人間を連れてきてどうした?」
「うるせぇ! 黙ってろ!」

 あの獣人族の男はウロと名乗るらしい。気軽に呼んだら今度こそ殺しに来そうだと察していたアルムは、とりあえず記憶をするだけに留めておく。
 ウロと共にやってきたのは、酒場の一角。四人ほどの獣人達がアルムへ視線を突き刺す。ビビらせる腹積もりだということは分かり切っていたので、彼はとりあえず喉の渇きを癒すべく近くの給仕へ片手を挙げた。

「すまん、水を頼む」

 途端、テーブルを蹴り飛ばす音が酒場中へ響く。テーブルの一番奥に座っていた色白の女獣人が睨みつけてくる。

「あんた、随分度胸があるんだね。……あんたたちはまだ手を出すな」

 狼の耳を持つ女獣人は今にも立ち上がろうとしている取り巻きの獣人を手だけで制する。このやり取りでこのグループのカーストを理解したアルムは、ウロの方へと顔を向ける。

「ウロ、あんたもこの女の手下なのか?」
「気安く俺の名を呼ぶんじゃねえ!! 人間がよぉ!!」

 女獣人がウロを見る。

「あんたが人間を連れてくるなんて珍しいねウロ。この人間がどうかしたのかい?」
「カミルこいつ、ガルムの人相書きを持っていた」
「――っ!!」

 カミルと呼ばれた女獣人の姿が消える。否、瞬く間にアルムの前へと移動し、彼の両肩を掴んでいた。
 カミルだけではない、“ガルム”という名前が出た途端、この酒場内の雰囲気が一気に変わっていた。殺気、とはまた違う、一言で表すのならばこれは強い興味。

「おい人間! ガルムを知っているのか!? あいつはいまどこにいる!?」
「人間ではないアルムだ。まずは水を飲ませてくれ。ここまで来て、割と喉が渇いているんだ」
「知ったことじゃないよ! 今すぐに話さないとあんたを――」

 そこでカミルは言葉を切った。切らざるを得なかった。それほどまでに今、自身が肩を掴む人間の纏う空気が変わったのだ。

「お前達獣人はそうしてすぐに暴力に訴えるのが文化なのか?」
「っ!?」

 人間が一人、あとは全て獣人だけ。例えば、今この酒場内にいる獣人達の気が変わり、一斉に襲い掛かれば物の数秒で、ぼろ雑巾に出来る自信が各々にあった。

 ――この瞬間までは。

 四本の剣を携える男の力に真っ先に気付いたのは、ウロとカミルの二人。
 獣人達のモットーは“力”。弱い者は力のある者に従い、力のある者は弱い者を守る責務がある。それが、弱肉強食とはまた違う獣人達の中に存在する鋼鉄の掟。
 二人の獣人は、口にこそ出さなかったが、四本の剣を持つ男のを本能レベルで正確に感じ取る事が出来た。

「そこのウロから聞いた。人間が獣人を見下すとな。そういう奴らがいるのはまあ、認めるしかない。だが、その全てがそういう考えを持っていると思われるのは心外だ」

 給仕の獣人が持ってきた杯たっぷりの水を一気に飲み干し、アルムは続ける。

「座っても良いよな?」

 座る前に装備を外そうとするアルムを見て、カミルは眉を潜める。

「何のつもりだい?」
「最低限の礼儀だ。少なくとも、俺は武器をチラつかせて情報収集をする趣味はない」

 あっという間に装備を地面に置いた後、席に座ったアルムは改めてウロ達の前に人相書きを広げた。

「聞く前に先に言っておく。俺もこのガルムという奴の事は知らない」
「はぁ? だったら何で人相書きなんかを持ってるんだ?」

 アルムはどこまで情報開示をした方がいいのかと、逡巡する。こちらが何も明かさないで協力してくれるなんてまず考えない方がいい。だが、内容は王国の治安維持部隊が探しているという、実にデリケートなものとなっている。
 ここは上手く話術で誤魔化しつつ、情報を引き出すことが専決だろう――、

「最近、この王都で起きている女性を狙った誘拐事件があるだろう? 治安維持部隊は複数いる犯人の一人として、このガルムを疑っている」
「――!!!」

 そこからは一瞬の展開であった。アルムの首元に突き付けられるは剣、周りを囲む獣人達もナイフや手斧など様々な武器を彼へ近づけていた。
 明確に敵意を抱いた者達が包囲をしても、アルムは顔色一つ変えることはなく、淡々と続ける。

「俺はまあ、ボランティアみたいな立場で今こうして行動をしているんだ。そういう訳だから、ガルムの事を色々と知りたくて、この獣人達の区画に来た」
「この状況が見えてて、まだ続けるだなんてとんでもない命知らずの馬鹿だね。あたしの一言であんたはあっという間に血だるまだっていうのに」
「俺一人を殺したところで、ガルムの置かれている状況が好転するのか?」
「…………何故、少しも動かなかった?」

 それはアルムにとって、愚問であった。こと一瞬で命が散るような戦場を駆け抜けて来たからこその経験と勘がこう告げていたのだ。

「本当にやる奴は有無を言わさずやる、それだったら俺も反撃したがな」

 ゆっくりとアルムは立ち上がる。

「“そんな事をする奴じゃない”、とお前達の眼がそう言っている。だけど、すぐには俺を殺さなかった。……自分達もガルムの今の状況が良く分かっていないからだ」
「ガルムが人攫いだぁ!? 舐めたこと言ってんじゃねえよ! あいつはなぁ!!」
「あいつは? 何だ? 言ってみろウロ」

 ウロの元まで近づき、意趣返しとばかりにアルムは彼の胸倉を掴んだ。

「だから、俺ははっきりとさせたいんだ。お前達も嫌じゃないのか? はっきりさせたくないのか?」
「くっ……!」
「もういい止めなウロ」

 カミルが手を下げると、他の獣人達が皆武器を納めた。そして彼女はそのまま顎で、アルムへ座るように促す。その表情には先ほどのような怒気がいつの間にか消えていて、代わりにとても挑戦的な顔つきとなっていた。

「あんたの気持ちと、言いたいことは分かった。ふん、人間の癖に随分と気合の入った奴だね」
「それは光栄だ」
「座んな。アタシ達もガルムの事は気になっていたんだ」
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