四本剣の最強剣士~魔王再討伐につき異世界転生~

右助

文字の大きさ
42 / 45

第41話 剣士、押しに負ける【イラスト有】

しおりを挟む
 立ち話もなんだと思い、近くの喫茶店に入り、手近な席に座った後に向かい合うアルムと耳長族エルフの少女。どこから会話を切り出していこうかアルムは黙考するが、その答えが出るよりも早く少女が切り出した。

「そういえば~私達って~まだお互いの名前を知らないよね~?」
「あ、ああ……そうだったな」
「う~んと……四本、剣を持っているからぁ……変態さん?」
「断じて違う。アルムだ、アルム・ルーベン」
「アルムくんかぁ~私は、オリファウン・プテューギカっていうんだ~。名前は長いから~オリファーでいいよ~」





 そう言って少女オリファウンは柔らかい笑みを浮かべた。彼女の笑顔は不思議なもので、見れば何故か肩の力が抜けてしまう。
 それは間違いなく美点だとアルムは胸を張って言える。そういう者の存在はどこの世界になろうがとても貴重なのだ。
 二人は運ばれてきた珈琲に口をつけ、先にアルムから会話が再開される。

「オリファウンは――」
「オリファ~」
「……オリファーは人を探していると言ってたな。どういう奴を探しているんだ?」
「それはね~私と同じ耳長族の子~」

 そこからオリファウンは語り始める。
 一週間前、彼女はシルフィーという友人に会うためこの王都サイファルへやってきた。そして友人の自宅へ行ってみたものの、鍵がかかっていた。留守の可能性を考え、日を改めて何度か訪ねてみても、全く戻ってきた気配はなかったという。
 だんだん不安になってきたオリファウンは意を決し、とうとう鍵を壊し、無理やり家に入ることにした。

「……思ってたより行動力に満ちあふれているんだな」
「えへへ~ありがと~」

 アルムの引きつった顔には一切気づいていないのか、気を良くした彼女は更に続けた。

「それで、家に入ったら~シルフィーちゃんがいなかったの~!」

 代わりに見た光景とは、暴れたとしか思えない物が散乱した家の中だったという。
 そこでようやく事の重大さを察した彼女は王国の治安維持部隊に通報。そして、自分もシルフィーを捜索するため、行動を開始した。

「なるほどな……最近、この王都では女ばかり誘拐される事件が多発しているらしい。もしかしたらそのシルフィーという奴も巻き込まれているかもしれないな」
「そんな、シルフィーちゃんが~……」

 みるみるうちに目に涙が溜まっていくオリファウンを見て、慌ててアルムはフォローに回る。

「……まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたらひょっこり見つかる可能性だってあるんだ」
「……そっか~そうだよね~。ありがとアルムくん~」
「何か手がかりはないのか? 妙なものが落ちていたりとか、何でも良いんだ」

 問われ、彼女は両腕を組んで、考え始める。そして一つだけ思い出した。あの散乱していた部屋で異様だった物がたったの一つだけあったのだ。

「そういえば~……“ザグ、ガグ、リグ”とか書いてあった紙が部屋の真ん中にあったような~?」
「何だと……?」

 その単語には聞き覚えがあった。あの獣人族のガルムが呟いていた言葉と同じ内容。ガルムの件とシルフィーの件は繋がっているのだ。
 これで関係者二人目。ここまで来ると、もはや手を引くことはできないとアルムは、自分で自分にトドメを刺したような感覚に陥った。
 珈琲を一口飲み、喉の渇きを癒やす。この苦味が今の熱くなりそうな思考をクールダウンさせてくれた。

「……情報が足りんな」
「みんなどこに行ったんだろうね~。こんなに行方不明になっているんだから~捕まえておく場所もきっと広いんだろうな~」
「そうだな……ん?」

 オリファウンの言葉でアルムはいかに自分の頭に血が昇っていたか思い知らされた。
 考え方の違いだ。闇雲に探すのではなく、捕まった人が集められていそうな場所に絞って探す。もしかしたら見つからないかもしれないが、適当に探すよりは百万倍マシである。
 方針が決まったアルムはおもむろに席を立った。行動あるのみ、こうしている間にも場所を移されている可能性だってあるのだ。
 お金を置こうと彼はテーブルへ腕を伸ばす。しかし、それをオリファウンが掴んだ。

「また、探しに行くの~?」
「ああ、そうだ。こういうのはさっさと手を打つに限るからな」
「そっか~」

 そして、彼女は一度頷き、アルムにとって頭が痛くなるようなことを言い放つ。

「それなら~私も連れて行って欲しいな~」
「……何だと?」

 彼からしたら、と言いたくなるような言葉であった。この世界に来てから、ずっとこんな調子である。一人でなんとかしようと思ったらいつもこうやって同行者が増えてしまう。
 そして、もはやこういった事態に慣れてしまったアルムは一つの確信があった。

(……ここで頷けばこいつも俺達と行動を共にするようになるんだろうな)

 イーリスといい、ウィスナといい、エイルといい。三度あることは四度目もある。これ以上大所帯になっても扱いに困ってしまうアルムはなんとか穏便に事を進めようと知恵を絞る。

「恐らく荒事になる。その時はお前を守れる自信は無いぞ」
「大丈夫~こう見えて~少しは魔法使えるから~」
「……もしかしたら何日も歩くところに誘拐された人間が集まっているかもしれない」
「私って~体力はある方だよ~?」
「…………ハッキリ言って俺一人で動きたい」
「……あはは、そっかぁ~。少しは助けになると~思ったんだけど~……な」

 オリファウンの頬に一筋の水滴が流れる。アルムは思わず身を硬直させた。外ならまだしも、ここは喫茶店の中。
 すでに客の何組かは自分たちをじろじろと見始めてきた。なんとも居心地が悪い。否、悪すぎる。
 この状況を打破する方法なんて、たったの一つしか存在しなかった。

「はぁ……分かったよ。降参だ」

 ため息をつき、アルムは両手を挙げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...