【R18】王太子と月の末娘の結婚事情

巴月のん

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10)嵐がようやく去った

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呆然とした。自分が何をしたのか一瞬解らなかった。

(ただ、自分の身体から放たれた水色のオーラが静まっていくのは解る。…‥考えたくないけれど、これはどう考えてもあの女神の力よね)

ディアがわれに返った時目に入ったのは、深く頭を垂れひざまずくスピカや兵士達。そして周りを見回しているとアテナでさえ両膝をついていた。
そして、オーラが消えたのと同時に誰もがほっとしたように立ち上がった。その様子からして自分が何かしたのかはなんとなく察したが、困惑のほうが大きい。

「姉様、どういうことですか」
「こうなった以上、話すべきですね。ですが、あなたはもう解っているはずです」
「やっぱり私が聖女だからなのね。スピカ様は知っていたの?」
「いや、まったく」
「その割に驚いていませんよね」
「充分驚いている。それだってアテナ様たちが来た時からだ」

その時から予想していたのだと暗に告げたスピカから目を逸らすと今度はアテナがフレイアを見てため息をついた。

「フレイア、聖女の怒りを買った以上、お前をここに置いていくわけにはいかない。まさか一番ディアを気にしていたお前が覚醒させてしまうとは」
「わ、わたくし、そんなつもりじゃ、だって、ディアは」
「父上も言っていただろう。ディアの覚醒はなるべくならば遅いほうがいいと。父上がどんな思いでディアをここに寄越したのか知らないわけではあるまい」

この会話を聞く限り、家族はみんな知っていたということになる。ディアは顔を顰め、自分の拳を握り締めた。

「スピカ様、わたしはどうなるの?」
「変わらないし、ここにいてもらわなきゃ困る」
「それって」
「俺はお前との約束を守る。それ以外に俺ができることなどないからな」
「それなら今までと同じね」
「そう。だから変わらないと言ったんだ」

スピカの眼をじっと見つめた後、ディアはアテナに向って声を張り上げた。

「姉様、私とスピカに教えてください。国で総力をあげてまで秘密にしていたことを」
「……スピカ様」
「ああ、すぐに部屋を用意させる。さすがにこんな部屋ではな」
「……人払いを頼んだつもりだったのだが、そうだな。確かに申し訳ない」
「そこにいるフレイア様にもいてもらいますよ。どうも彼女はあまり理解できてないようだ」
「気遣いいたみいる。念のため拘束はしておこう」

反論もせずに頷くアテナ。スピカはそれを見つめた後、ディアの手を引っ張って廊下へとでた。フレイアのことはアテナに任せれば問題はないだろう。

「大丈夫か、ディア。体の方は?」
「あ、うん。大丈夫…‥って、スピカ様は? 確か、姉様の攻撃を」
「いや、お前が防御してくれたおかげで大丈夫だった。ありがとうな」
「あ、うん……」

ぼんやりとしていると額にスピカのキスが落ちてきた。

「あまり考えこまないほうがいい」
「うん」
「あと、呼び捨てでいいぞ」
「・・・・・・・努力はします」

(あれ、なんとなくだけれどスピカ様との距離が近くなってない?)

そんなことを思ったディアだが、アメジスとパルの誘導によってあれよあれよと別室に押し込まれた。


「は? 私の体質はかなりの特異体質!? え、でも姉さま達だってそうですよね?」
「我々の場合はあくまでも一部です。フレイアとて、右手指以外から炎を出すことはできない。私も左腕でしか解毒できません。だが、ディアの場合は体全体が薬そのものになる」
「・・・・・・・!」
「それも外傷だけではなく体内に巣くう病や内傷を治せる。それを知ったから父上は恐れた。ディアを他の国に攫われることを。そしてその力に目を付けられることを」
「確かにとんでもない力だな」
「――こんなにも早く実践してしまった誰かさんがいたことが誤算ではありましたが、正直モーント王国ではディアを守るのに弱いと判断したのでそちらの話にのったわけですよ、殿下」
「ぐっ……」
「だからこの大国に私を嫁がせたんだ」
「ええ。ディアも満更ではないようでしたから」
「スピカ様とのことはともかく、この国には興味があったので」
「どうしてよ。ずっとうちでいいじゃないの」

ぼそっとフレイアが口にするのを聞いたディアは首を傾げた。

「いや、連れてこられたから」
「逃げればいいじゃないの」
「以前みたいに無理やりならともかくも今回はちゃんとしてくれてるし、第一、親が了承した以上正式な婚礼になる……んですよね?」
「当然だ。でなかったらここに連れて来てない」
「~~~なんでよ」
「フレイアは少し黙ろうか。話が進まない」
「ひっ!」

大人しくなったフレイアを満足そうに眺めたアテナは手ぶり身振りを交えて再び説明しだした。曰く、国に伝わる伝承があると。

『モーント王家に黒き髪に黒き娘が生まれし時、その娘を決して害してはならぬ。類まれなる知識とあらゆる災厄を打ち払う身体を持つその娘が伴侶をきめし時が覚悟の時。伴侶の娘への扱い次第では世界に災厄が訪れる。娘の身体を貪り戦いに投じるならば我ら神が世界へ鉄槌をくだす。逆に、娘に愛情を与え慈しむならば世界に加護を与えよう。モーント王家はそれまで娘にあらゆる知識を、娘が求めるだけの力を与えよ。この世界の運命を握りし娘を預ける対価として、あらゆる知識を、魔法を、兵器を、娘の害にならぬものならばこの世に必要な全てを授けよう。それらを管理し、娘を育てるために癒しの力を有効に使い、世界の中央であり続けるのがモーント王国の役目』

「これを父は笑い飛ばしていたが、ディアが生まれたとたん笑えなくなったと言っていたな」
「聞いてないですよ、そんな伝承。というか、この場合の伴侶って」
「ああ。俺のことになるな」
「ディアに言ったらどうなるかわからなかったからな。そういうわけでよろしく頼むよ、殿下」
「心得た。しかし、これはもう秘匿にするべき内容だな。さすがにこのことは父上には言えないが、ディアが聖女であることぐらいは言っても?」
「まぁ、それぐらいならいいでしょう」
「感謝する」

アテナとスピカがいろいろ話し合っている中、ディアは思いだしていた。スピカに抱かれた時のことを。あの時のスピカの態度はものすごく慇懃無礼だった。多分今のスピカのほうが素なんだろうなとはおもうけれど。そんなことを考えていると褐色肌の腕がぬっとのびてディアを抱き込んできた。

「何を考えていた?」
「あ、なんでもないですよ、スピカ様……いや、本当ですって」
「……まぁいい。それはそうと、フレイア殿には早急に帰っていただきたい」
「もちろんだ」
「お姉様、その男の噂ぐらいはご存知でしょう!!」
「もちろんだよ。だからこそディアに求婚があった時は驚いたがな」
「そうですわ。だから、わたくしが」
「ムリだな。俺はディアだから娶りたいとおもっただけでモーント国の姫の名を利用した愚かな女に用はない」
「はんっ、それはディアの体質を利用したいからでしょう」
「―――姉様、それは言いすぎというものです」
「ディア」
「そもそもこの人とはすでに腹を割って話し合い済みです。それがどんな形であれ契約である以上、私はここにいる義務がある」
「――そう、契約ね。ふふふふふ、聞いたわね、スピカ王太子!」
「ちっ」

なぜかここでフレイア姉様が復活してしまった。しかもスピカ様が崩れおちて頭を抱えだした。あれ?

ディアが思ってなかった展開にきょとんとしているとアテナが素早い動きでフレイアを縛り付けて担ぎ上げた。じたばたするフレイアの声をバッグにアテナはディアに慈愛の笑みを浮かべながら忠告した。――もしここにフレイアがいなければきっと素晴らしい姉妹愛が展開されたのだろうなとアメジスとパルは遠い目になった。

「ディア。君がそこまで言うのならば何も言わないよ。ただ、自分の気持ちを大事にすることを忘れないように」
「おろしてよ、姉様!!」
「はい、わかりました。アテナ姉様、ありがとうございます」
「うん。達者でな。王太子殿下もいろいろとすまなかった」
「……またのお越しをお待ちしております。もちろんその荷物抜きで」
「きぃいいいい、必ずわたくしはもどってくるわよ、覚えていなさい、スピカ!」
「黙れ。もうあんたがディアの姉であろうとなんであろうと敵だ。アテナ様、お気をつけて(訳:そいつを逃がさないでくださいよ)」
「はは、最後に本音が出たね。見送りは不要だ、では失礼する」

珍しく大笑いして去っていったアテナを見送ったディアだが、スピカはずっと後ろからべったりと抱き着いて離れない。

「あの、スピカ様、重いです」
「・・・・・・・・・ディア」
「はいはい」
「今更だけれど結婚は進めていいんだよな」
「もちろんですよ?」
「―――俺個人のことはどう思ってる?」
「嫌いではないです」
「好きとまではいかないってことだな。まぁ、出会いがあれだからやむないとしても・・・・・・」

なぜかぶつぶつと言っているスピカに首を傾げたが、パルがおやつの時間ですよと言った瞬間、どうでもよくなった。ーーーが、その次に続いた言葉にテンションが下がる。

「わ~、ゼリーとかドーナツとかまた出るのかしら」
「あ。あの、もうすでになくなっておりますので、我が国名物のクッキーを」
「あ、やっぱり図書室にいってきます」
「ディア様、お待ちください!! 我が国のおやつもなかなかのものでございますよ!」
「ここの国産デザートが世界一美味しくないことは有名よ! 雑誌の世界スイーツランキングでもかなり酷評されてるじゃないの! なんで料理は発展してすばらしいのにテザートだけが不評なのかわからない!外国からおやつを取り寄せられるならそれを何故研究しないの!」

そう言い残してダッシュで消えていったディアの後ろ姿をみたパルはorzの姿になった。その様子をみていたアメジスがぽつりと呟き、スピカがため息をついた。

「・・・・・・・・行ってしまわれた」
「アメジス、すぐに手配しろ」
「早急に体制を整えます。スピカ様はお食べに・・・・・」
「珈琲だけ頼む。その後は父上のところだ」
「・・・・・お逃げになりましたね(ちっ」


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