【R18】王太子と月の末娘の結婚事情

巴月のん

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15)ディアとアリア(下)

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「ただいまーーーー」

アリアの元気な顔と裏腹にスピカの呆れる顔とザンが怒りに震える顔があまりにも対照的だと思った。実際、ザン様はアリア様に対して怒ってるし。

「自分の立場を考えなさい。君はこの俺の妃で誰にも代えられない唯一無二の宝だっていう自覚があるんですか!」
「ラティス、かわりに説教を受けてよ」
「ダメに決まってますッス。いいからおとなしく説教を聞いてください」

ラティスが必死にドアを開けられないようにしている。アリア様が逃げようとしているからだ。その様子を見ていたディアはぽつりと呟いた。

「大事にされてますね」
「―――ディアも大事だぞ!」
「ああ。うんわかってます。そういうことじゃないんで」
「・・・・・・・・いや、多分わかってない、分かってねぇ」

うあーと頭を抱えたスピカの傍にアメジスが報告ですと声をかけてくる。それに気づいた面々はスピカの元へ集まった。

「あー、やっぱり貴族だな」
「どういう立場のだ」
「俺を王にしたくないやつらの方。しかも王妃派の中でも最もめんどくさい評議員の一人だ」
「ああ、そういやここは我が国と制度が違うんだったな」

スピカの言いかたに納得とばかりにザンが頷く。それを見たアリアは報告書を覗き込んでふーんと呟いていた。

「へぇ。評議会のメンバーでもランクによっていろいろあるのね」
「議会は貴族全員が入るきまりになっているが、その中でももっとも位が高い人間が代表として代表議員になることができる。今はおよそ12人いるはずだ。その中の一人がそいつってわけです」
「ふうん。王妃派ってことはこれは王妃様も絡んでいるってこと?」
「いや、多分王妃は関わっていない。あの人はそういう面倒なことをやらないし、指示すらしないな。やるなら直接俺を殺そうとする人だし」
「母親と言うわりにはあまりにもあっさりしているわね」
「あんな女に情などないからな。あちらも俺には情はないと思うし」

肩を竦めたスピカを見ながらもディアはぼんやりと以前会った王妃のことを思い浮かべていた。本当にそうなのだろうかと。何かの違和感が頭をよぎるが、それでもこれといった明確な考えが思い浮かぶわけではない。ディアはパルに差し出された紅茶を飲みながら、部屋にいる全員を見回した。そしてドア近くにいるラティスが目に入ったのでとことこと近づいて聞いてみる。

「そういえば、ラティスさんは何の力を持っていらっしゃるんですか」
「うわっ、び、びっくりしました。俺のはたんなる魔力感知ですよ」
「魔力・・・・・感知?」
「そうです。この世界では基本的に魔力であふれています。人も物も魔物も、動物も、何もかも。特殊な例はありますが、気配と同様に人間もそれぞれ魔力の質や形が違うんですよ」
「なるほど、アリア様の魔力を追って護衛していたんですね」
「ええ。ディア様の魔力も相当わかりやすかったので助かりました」
「私の魔力はどんな感じ?」
「見事な水色ですね。正確に言えば、海の波の色・・・ですかね。時折深い青にもなるし、白くもなる。アリア様のはピンクですが、二人揃うと圧巻ッスね~。あ、失礼しました」
「ううん。教えてくれてありがとうございます。あれ、どうしたんですか、スピカ様」

きょとんと首をかしげるディアの前でスピカが冷たい視線でラティスを見ている。スピかの目にデジャウを感じたラティスはザンとアリア、そしてディアとスピカを見比べてなるほどと深く頷いた。

「なるほど。スピカ様もザン様と同類のヘタレなんっスね・・・・・ってぎゃーーーーー!」

待って、俺ここでもこんな役割ッスかぁああああーーーーーーー!

ダッシュで扉の奥へ出て行ったラティスとそれを追うスピカの姿が消えたのに啞然としたディアは何が起こったのかわからず、パルやアメジスに聞いたが二人とも無言で首を横に振ったので何ともいえない。アリアとザンに目を向けるも、彼らはただ微笑むだけ。これは誤魔化されているなと思いつつも、どうでもいいかとお菓子を食べ始めたディア。そんな彼女に部屋にいたアリア以外の誰もが思った。

(聖女ってこうも鈍感なのかそれともたまたまなのか・・・・・・・)

ちなみにアリアもお菓子を食べだしたが、とあるクッキーだけはまずいと口にしていた。

ようやくぼろぼろになりながらも戻ってきたラティスと、何かを考え込んでいたスピカにお帰りと口にした面々はひとまずお開きにしたいということで解散となった。

「えぇー。まだここにいたいのになぁ」
「アリア、俺達も仕事があるんだから長居はできない。いい子だから聞き分けなさい」
「ううーーーん。わかったわよ。あ、ラティス、何か遺言はある?」
「・・・・・勝手に殺さないでくださいッス。そうですね、気づいたことといえば、まぁいくつかあります」

ぶーたれたアリアの隣でラティスは指を3本立てて、順番に下ろした。

「一つ目。この城ははっきりいって異常だと思う。まぁこれは王族だったら理解されているかと思いますが」
「それは当然理解している」
「でしょうね。二つ目。噂の王妃様をちらっと見たけれど、似てないッスね」
「えー、スピカ様とよく似てるわよ、あの人。挨拶でお会いしたけれど、私のお土産を見てきらきらと目を輝かせて喜んでいらしたわ」
「見た目の問題じゃないッス。親子であれば魔力も多少なりともどこかで似るもんですよ。事実、王とスピカ様のは似ていました。だけれど、王妃とは・・・・・なんだろう、薄いというか、魔力が交わっているわけじゃないというかね。まぁ、例外的なことがないわけじゃないんで、これは気にしなくてもいいかもしれませんが」
「そうなのか」
「そうッスよ。んで、三つ目。この城は湖に浮かんでいるんスよね。・・・・・・ディア様がいるのと関係あるかどうかわかりませんが、湖の奥にかすかにディア様とよく似た魔力を感じます」

本当にかすかなものなので何かまではわかりませんが。

以上ですと締めくくったラティスが黙ったのを機に、ザンがスピカに向き直った。

「――少しは参考になったか?」
「ありがとう、ザン兄。うん、改めてうちの国が不気味だって感じたよ」
「・・・・・この国は魔力に完全に頼っていないというわりには年々魔力が濃くなっていますしね。そういう意味でも空気がどよんでいる原因もなんとなくわかる気がしますよ」
「ザン兄がいうとおり、工場地帯っていうだけじゃなくて魔力酔いのせいもありそうなんだ。でも、その原因が一切わからなくて困ってるところ。なんとかしたいとは思ってるけれど」
「ふむ。そちらの姫君はここで暮らしているんだろう。何か感じたことはあるかな?」
「・・・・・・・一つだけ」
「あら、一体何かしら」
「ここには図書館に巨大な木がありますよね。その木は自然なものではなく人工物だと思うのですが」
「―――――なんだと?」
「よくできてるのでわかりづらいですが、枝の一つに電子回路が埋め込まれているのを見つけました。逆に言えばあれをどうしても隠さなければならなかったということだと思います」
「なるほど、図書館が好きなディアだから気付けたということか」

唸るスピカをよそにアリアはふむと頷いた。

「じゃあ、この国全体に何か秘密があるのは間違いないってことね。もしかしたら、ディアが聖女に選ばれたのもこの国と何らかの関係がありそうだわ」
「・・・・・アリア様は、私がこの国に来た意味があるとお考えですか」
「そうね。そうでなかったら女神さまは貴方をモーント国に押し込んでいたでしょうし」
「なるほど」
「まぁ、何かあったら遠慮なく連絡を頂戴ね。聖女仲間としても日本人仲間としても力になるわよ」

ウィンクしたアリアにディアははぁと頷いた。

(アリア様はすごいな。凛としているしさっぱりしているし、何より自信に満ち溢れてる)

思わず、自分と比べてしまって落ち込んだディアだが、アリアたちが転移装置で帰るということで慌てて見送ろうと顔をあげた。するとザンと目が合う。それにきょとんとしたディアだが、ザンがアリアの頭を撫でた後口を開いた。

「姫君、アリアとて元からこうだったわけじゃない。騒がしいのは元からだが、少しずつ成長して今の彼女がある」
「失礼な~こんなにお淑やかな私に向かって何をいうんですか」
「ええええ、どこがッスか・・・・・ぎゃーーー!」
「ラティスは黙ってちょうだい」
「では失礼する。ラティス、お前は後から説教だ」
「横暴ッスよ、ザン様――――!」
「ディア、またね~~」

アリアが笑いながら消えていくのを見送ったディアは呆然と手を振っていた。

(あれ、ザン様・・・・・・・・なんで・・・・・え、私、顔に出ていたのかな?)

「どうして・・・・・」
「ほんと、ザン兄って不思議なんだよ。時々心がわかるんじゃないかっていうぐらいものすごく鋭いんだ」
「なんだか嵐が去ったみたいに静かになりましたね。ちょっと寂しいかも」
「・・・・・・少しは気分転換になったならよかったけれど」
「うん。もっとアリア様と話してみたかったな」

不思議なことに話ができたことですっきりしたと思う。多分スピカ様はこうなることを見越してアリア様と会わせてくれたのかも知れない。

(ううん・・・・スピカ様なりに私のことを考えてくださったのかな)

「これからいくらでも会えるだろう。通信もできるようにしておいたし」
「ありがとう、スピカ様」

ようやく笑顔を見せたディアにスピカはほっとして仕事するからと部屋を出て行った。残ったディアはアリアからもらったお土産を目にして喜んでいる。その様子をみていたパルはほっとしたように呟いた。

「多少は落ち着いたようですね。本当にアリア様には感謝ですわ」






余談


扉を閉じたスピカはすぐにアメジスに向き直った。彼もまた心得てるとばかりに深く頭を垂れた。

「アメジス」
「わかっております」
「俺も立ち会うぞ」
「―――よろしいので?」
「我が妃となる婚約者に牙を剝けたからにはそれなりの対応をしなければな」

そう口にしたスピカはピアスを押して、イヤホンを出した。

「――――我が城に命ずる。これより名を挙げたものを見つけ次第、牢屋に投獄。処分は俺が追って下す」

ピピピと音がしたのと同時に城のどこかで作動音が聞こえる。スピかと同様のピアスを持っていた王と王妃もまた気付いていたが薄く笑みを浮かべただけで口にすることはない。
スピカは持っていた報告書を破り捨てるのと同時に、先ほどまでいたラティスと言う男を思い浮かべた。

「―――やっぱりザン兄の部下なだけはある。まさかこの城の特殊性を見破るとはね」
「ですが、彼らとてさすがに気づかれないと思いますよ。まさかこの城全体がAIを有するロボットであることなどと」
「それを知るのは動かす役割を持つ王族とこの城で作られたお前達のようなアンドロイドのみ。いずれはディアも知ることになるだろうが、まだ早いな」
「そのディア様がおっしゃっていたことについてはどうお考えで」
「俺としたことが間抜けにも見落としていた。そうだよな、この城にAIがあるなら、当然バックアップがあって当然だ。つまり」
「図書館の大木こそが第二のAIですね」
「これは後で王に報告としよう。本当にディアが来てから面白いことばかりだな」
「・・・・・貴族たちも焦っているようですね」
「あんなやつらにディアを利用などさせない。それぐらいなら俺が矢面に立ってやるさ」

まぁ、父以外には興味のないあの人のことだから問題ないだろう。
それこそ、父が敵に回らない限りは。

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