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16)ディアの疑問
しおりを挟むディアは自分が狙われる可能性を考慮していなかったわけではない。むしろ、そうだろうなとしか思わなかった。
――今のところ貴族だけの可能性が高いみたいだけれど。
何しろ、スピカ様を狙っているという王妃殿下は私に好意的だし、陛下にいたっては、飛行機のことで盛り上がったこともあってものすごく息が合うお方だ。話が分かる人に悪い人はいないとスピカに言ったら叩かれたぐらい花畑になったことは否めないが。
そんなこんなで、ディアはアリア様とともに狙われたあの日をきっかけに社交界に出ることになった。なんでそうなるのとスピカに訴えた所、貴族に対し、聖女であることを知らしめて刃向かえないようにしておくべきだと返されてしまった。確かに言ってることは正しいかもだけれど、私は苦手なんだよね・・・・社交パーティー・・・・・。
「はぁ」
スピカに合わせてオレンジの花を入れた黄色のドレスをまとい、彼の手を取って階段を下りる。それだけでもう胃がキリキリ痛むディアだったが、当の手を引いてくれているスピカは慣れたもので平然としていた。
「大丈夫だ、ディア」
「・・・・・・・信じますよ、そのセリフ」
「ああ」
さすがは王太子。ずらっと列ができるのも気にも留めず対応を続けている。しかも私の自己紹介なんてもう何度目になるかわからない。それなのに顔色一つ変えずに無駄にキラキラしているあたりがさすがだ。
(わたしなんてもう足もガクブル、顔もひきつりそうだというのに)
そんなことを考えていたその時、あたりがざわついたのに目を向けると、王妃殿下が立っており、周りにいた貴族が慌てて道を開けている。まさかの接触にスピカも目を見開いていたがすぐに王妃への応対に切り替えていた。
「どうされましたか」
「――――愚か者め。ディアよ、わらわのお茶に付き合うがよい」
「え、ええ?」
いきなり腕を掴まれ、引きずられたことでスピカと引き離されたディアは慌てふためいたが王妃は扇を仰ぎながらベランダの方へと向かっている。いきなりディアの手が離れたことに呆然としていたスピカだが、さすがに追いかけるのは貴族の列に対しても失礼だと思い直し、やむなく対応に当たっていた。そして、王妃はというと、ベランダにあった椅子に座りだした。
「あのう?」
「遠慮せずに座りや。まったくあれは相変わらず気が利かぬな」
扇で向かい側の椅子を指さす王妃の言葉にディアはほっとしつつ、言葉に甘えますと座った。正直、助かったと思ったのは否定しない。王妃の傍にいつもいるメイドがそっと紅茶といくつかのケーキを差し出してきたのに目を輝かせた。
「これ、もしかして最近はやりというモンブランケーキですか?」
「そのとおりよ。最近ようやくクリというものを輸入できたゆえシェフに作らせたのじゃが、そなたが知っておるとは思わなんだ」
「えっと、その、異世界のお菓子に興味がありまして」
「ああ、そなたは聖女であったな。であれば、異世界からきたのかはたまた転生とやらかどちらかであるならば知っていて当然であるか」
「王妃様はどうしてそういうことに詳しいのですか」
「何故と聞かれたのは初めてじゃ。ふふっ・・・・・幼き頃、我が姉が色々とおとぎ話のように教えてくれたのじゃ。特にスイーツやお姫様の話をようせがんで聞いたものよ」
「お姉様というのは正妃と言われている方ですよね。意外でした」
「何故じゃ?」
「なんというか、寵を争うみたいなイメージがあったので姉妹で仲が悪かったのかなと」
「ああ、なるほどな。だが、仲は悪いどころか良好だったよ。だからこそ、姉の死はショックであったわ」
「・・・・・王妃様」
「だからこそ、わらわは外聞も恥もかき捨ててここに来たのじゃ」
「どういうことでしょうか」
いぶかしく思ったディアが問うと、王妃は一度扇を閉じたかと思うと立ち上がってディアの耳元で囁いてきた。
「ディア、そなたに一つ忠告ぞ。 ここではスピカ以外誰一人として信じてはならぬ。さもなくば我が姉のように消えるであろうよ」
「それはどういう!」
思わず王妃の顔を見るが、王妃はそれ以上何も言わなかった。扇を再び口元に掲げ、目線を会場の方へ向けた。
「・・・・・・名残惜しいがあれがきたようじゃ。ふふ、久方に姉を思い出すほど楽しい時間であったぞ」
王妃のいうとおり、スピカがやってきたのが見えたディアはこれ以上は無理だと悟って言葉を飲み込んだ。静かに礼をとり、彼女が消えたのを見送っているとスピカから話しかけられたディアは王妃に言われたことをそのまま口にした。
「本当にあの人がそういったのか?」
「そうですよ。心当たりは?」
ベランダで話したことを告げると、スピカは少し迷いながら口にした。
「まぁ、ある意味間違ってはないな。確かに正妃の死については多くの謎が残っている」
「―――どういう意味ですか」
「まず、死因が不明。もともと病気がちな人だとは聞いていたけれど、病死という扱いにもならなかったとも聞いた。そして葬式こそは行ったが、その後に死体が盗まれたらしく父上が憤慨していた。そして一番の謎というのが俺だ」
「え?」
「父上と正妃の仲はそれもう仲睦まじいもので、それこそ側室など入る隙などなかった。それが、正妃の葬式の後すぐにあの人が赤ん坊の俺を連れてきたそうだ」
「え・・・・・・」
「しかも、父上はそんな俺を自分の子と認めたもんだから当時は大騒ぎだったらしい」
「・・・・・そうなんだ」
「最初は俺を疑うやつもいたそうだが、DNA鑑定によって正式に二人の子だと立証されたことが決めてになって王太子になり、あの人は王妃に収まった。だから、未だに貴族では俺を疑うやつもいる。まぁ、王妃の手前そうそう口に出すやつはいないけれどよ」
思わず敬語すら投げ捨ててしまうほどの中身だったが、ディアはふと気づいた。
「DNA鑑定って、この国にもあるんですね?」
「モーント王国からの輸入品の一つにキットがあって、それを利用したそうだ」
「それは当然、王様を通してお願いしたんですよね?」
「だと思うぞ。それがどうかしたか?」
「だとしたら、検査したのは父様かな・・・・・ぶつぶつ・・・・・よし、スピカ様、行きましょう」
「え、どこに?」
「私の里帰りについてきてくださいね」
はぁ?と目を見開いたスピカをよそにディアはうんうんと頷いた。訳が分からないスピカをよそにディアは何かを考えているようだ。それを見たスピカはため息を深くついた。
「まぁ、何かを考えてるんだろうからそれは止めないけれど、ひとまず今はパーティーを頑張ってくれ」
「うう・・・・・せめて座らせてくださいよ! 王妃様もそれで配慮して座らせてくださったんですからね!」
「―――すまん。そのあたりも気を付ける」
約束ですよとわめいたディアは怒りのままに会場へと戻ろうとしていた。慌ててその後を追ったスピカを遠くから見ていた王妃はふぅとため息をついた。
「まったく世話が焼ける・・・・・・」
「王妃よ、どうしたのだ」
「なんでもございませんわ」
しれっと口にする王妃を見た王はクククと笑いながらお酒を飲みほした。彼もまたスピカを見ては思うことがあったのだろう。目を細めていた。
「―――さて、あの子たちはどうでるのだろうね」
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