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21)前世と今を繋ぐ因縁
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「あ、見えた」
ディアは中央に見える大樹に手をのばした。薄暗い部屋を見回す限り全ての壁に本が埋まっている。この図書館の中央にある木には絶対に何かの秘密があるとディアは睨んでいた。
「どこかにスイッチボタンがあるはずよね」
たぶん、一目につかない上の方にある可能性があると踏んだディアはよいしょと木に登りだした。螺旋階段の5階まできた頃にようやくスイッチらしき操作盤が見えた。よいしょと枝に座り、葉っぱに隠れていたボタンをぽちっと勢いよく押してみると音が聞こえた。
「あら?」
ガタンというと音ともに木が動いていく。木らしくない機械的な動きをする大樹が揺れ、座っていられなかったディアはガクンという音と共に滑り落ちた。
「きゃぁああああ!」
真っ逆さまに堕ちると思い、目を瞑ったが思っていた衝撃はこなかった。あれと思いながら恐る恐る目を開くと、スピカの細い目とかちあった。ホッとしたのもつかの間で、その目の鋭さから彼が怒っていることは明らかだった。
(あ、コレ、怒ってる‥‥‥)
「ディア?」
「ご、ごめんなさい。よくここがわかったね?」
「まぁこれまでのことを考えたらわかるだろ。ったく、危ない所だったんだぞ」
そっと頬にキスしながらディアを立ち上がらせるスピカの動作に目を逸らしたディアは小さな声で謝った。謝罪は受け入れるとため息をついたスピカは大樹の方に視線を向けた。
「しかし、大樹がエスカレーターになっていたとはな」
「これ、下に続いていますね」
「当然行くよな?」
「愚問ですわね」
それでこそ我が寵姫と唇を吊り上げたスピカの懐を肘で突き飛ばしたディアは大樹の中へと入っていった。腹を押さえながらもスピカはぶつぶつと文句を言っていたが無視である。
「随分長いわね」
「だが、下降していることは確かだな」
「そうですね…‥‥あ、止まる?」
「ああ。止まったな。さて、一体どこに繋がってるのかね」
覚悟を決めた二人は頷き合って大樹から出た。あたりを見回すと、神殿のようにも見える。しかし、ディアたちが驚いたのは神殿の外に見える景色だ。
「魚が泳いでるってことは」
「水の中か!」
神殿の柱の合間は透明のような仕切りがあり、その奥にたくさんの魚が見えた。光に揺らめく水面がはるか上に見える。ディアとスピカは端から端まで歩いたが、ひたすら歩いても続く神殿の廊下。
「見えない仕切りのお陰でおぼれずに済んでるってことか」
「でもなんでこんな神殿があるのかしら」
「――考えられるとしたら、やはり、女神セイレーン様だと思うのだが」
スピカの言葉にディアははっとなった。それならば、魔力を動かせばあるいはと思い、魔力を出してみる。すぅと深呼吸するのと同時に、身体に力が集まってくるのを感じた。
「ディア、大丈夫か?」
「はい。うん、大丈夫です。スピカ様、あっちに呼ばれているような気が」
心臓の音がうるさい。頭の中で何かが語り掛けてくる。
『こっち、こっちに来て』
『待っていた。君を。新たなる聖女であるモーント王国の姫』
『早く、時間がもうない。我らの聖女をどうか、お願いーーーー』
(我らの聖女? 新たなる聖女?)
導かれるままについたのは少し広めの空間。目線を少し上げると、キョダイな歯車や様々な機械が複合的に組み立てられているのが見えた。
「なんなの、あの機械は」
「ディア、あれを見ろ!」
突然のスピカの声に驚いたディアは振り返った。一番奥に立っていたスピカの隣に立ったディアは真正面を見降ろし、驚愕した。
そっと座り込み、目の前にある棺を覗き込む。手を伸ばしてみると透明のガラス蓋の感触で指がひやりと冷たく感じた。
目の前にいる女性はスピカの髪の毛と全く同じオレンジの髪をしていた、正妃とよばれるあの人ともよく似ているし、化粧からも気高さを感じさせる。
服装も見るからに高貴なる皇族の衣装。だけれど、棺におさまっている姿は人間味を感じない。まるで人形のように目を瞑っていて、寝ているようにも死んでいるようにも見える。
「‥‥‥間違いない、母上だ」
直感で感じたのだろう、スピカは強く拳を握りしめていた。しかし、ディアはそれどころじゃなかった。確かに目の前に居るのはスピカの母親なのだろう。でも、なぜか、ディアは別の女性が脳裏に浮かび、肩から力を抜いた。
ああ、そうだ、思いだしたよ。
『あいこ、ちゃんとご飯を食べるのよ』
『うるさい、お母さんなんてダイキライ・・・・・!!』
『逢子、そういうことを言っちゃダメでしょう!』
『もういいっ!』
『逢子!』
そうだ、私は海城 逢子。
行方不明になったお母さんを探していた時に、川でおぼれていた子を助けようと飛びこんで。それからの記憶がないってことは多分私は死んだんだろうな。
ああ、今になって全部思い出すなんて。でも、思い出したからこそ、気づくことができた。
「こんな、形で再会するなんて」
この目の前にいる女性は確かにスピカの母かもしれないけれど、この人は私にとっても深いつながりがある人でもある。
「前世のお母さん‥‥‥」
「え?」
「――――この世界にいたんじゃ、散々探しても見つからないの当たり前だよ」
ずるずると崩れ落ちる。涙で目の前がぼやける。
思いだしたのはお母さんがいつも言っていた口癖。
差し伸べられる優しい手が大好きだった。
逢子、私の大事な娘。
『逢子。アナタの名前は出会いを大事にするようにとつけた名前なの』
それに、あなたが私のところに来てくれて嬉しかったのよ。だから、出逢ってくれてありがとうっていう意味も込めたわ。
だからね、私にとってあなたはどんなことがあっても大事な娘なの。
私のところに来てくれたからには絶対に守ると決めたわ。例えあなたが怒っても、泣いても、離れたいと言ってもずっとあなたの母親で居続けるつもりよ。
そう言って抱きしめてくれたお母さんだったけれど、大きくなるにつれて忙しくなって、なかなか時間も合わなくてすれ違いが多くなった。
ケンカもすることが増えて。あの日もちょうどケンカして飛び出した。
それでもいつもお母さんはごめんねって謝って抱きしめてくれた。あの日もそうやってきっと最後は抱きしめてくれると信じて疑わなかった。
でも、あの日からお母さんはいなくなってしまった。
私のせいだ。私が飛び出したからお母さんは車から消えてしまった。
ずっと探してたけれど、会えなくて。寂しくて。
何度も何度も声を張り上げて呼んだのに現れなかった人。
それが、生まれ変わってこんな形で出会うことになるなんて。
「お母さん……なんで、今になって‥‥‥!!」
ディアは中央に見える大樹に手をのばした。薄暗い部屋を見回す限り全ての壁に本が埋まっている。この図書館の中央にある木には絶対に何かの秘密があるとディアは睨んでいた。
「どこかにスイッチボタンがあるはずよね」
たぶん、一目につかない上の方にある可能性があると踏んだディアはよいしょと木に登りだした。螺旋階段の5階まできた頃にようやくスイッチらしき操作盤が見えた。よいしょと枝に座り、葉っぱに隠れていたボタンをぽちっと勢いよく押してみると音が聞こえた。
「あら?」
ガタンというと音ともに木が動いていく。木らしくない機械的な動きをする大樹が揺れ、座っていられなかったディアはガクンという音と共に滑り落ちた。
「きゃぁああああ!」
真っ逆さまに堕ちると思い、目を瞑ったが思っていた衝撃はこなかった。あれと思いながら恐る恐る目を開くと、スピカの細い目とかちあった。ホッとしたのもつかの間で、その目の鋭さから彼が怒っていることは明らかだった。
(あ、コレ、怒ってる‥‥‥)
「ディア?」
「ご、ごめんなさい。よくここがわかったね?」
「まぁこれまでのことを考えたらわかるだろ。ったく、危ない所だったんだぞ」
そっと頬にキスしながらディアを立ち上がらせるスピカの動作に目を逸らしたディアは小さな声で謝った。謝罪は受け入れるとため息をついたスピカは大樹の方に視線を向けた。
「しかし、大樹がエスカレーターになっていたとはな」
「これ、下に続いていますね」
「当然行くよな?」
「愚問ですわね」
それでこそ我が寵姫と唇を吊り上げたスピカの懐を肘で突き飛ばしたディアは大樹の中へと入っていった。腹を押さえながらもスピカはぶつぶつと文句を言っていたが無視である。
「随分長いわね」
「だが、下降していることは確かだな」
「そうですね…‥‥あ、止まる?」
「ああ。止まったな。さて、一体どこに繋がってるのかね」
覚悟を決めた二人は頷き合って大樹から出た。あたりを見回すと、神殿のようにも見える。しかし、ディアたちが驚いたのは神殿の外に見える景色だ。
「魚が泳いでるってことは」
「水の中か!」
神殿の柱の合間は透明のような仕切りがあり、その奥にたくさんの魚が見えた。光に揺らめく水面がはるか上に見える。ディアとスピカは端から端まで歩いたが、ひたすら歩いても続く神殿の廊下。
「見えない仕切りのお陰でおぼれずに済んでるってことか」
「でもなんでこんな神殿があるのかしら」
「――考えられるとしたら、やはり、女神セイレーン様だと思うのだが」
スピカの言葉にディアははっとなった。それならば、魔力を動かせばあるいはと思い、魔力を出してみる。すぅと深呼吸するのと同時に、身体に力が集まってくるのを感じた。
「ディア、大丈夫か?」
「はい。うん、大丈夫です。スピカ様、あっちに呼ばれているような気が」
心臓の音がうるさい。頭の中で何かが語り掛けてくる。
『こっち、こっちに来て』
『待っていた。君を。新たなる聖女であるモーント王国の姫』
『早く、時間がもうない。我らの聖女をどうか、お願いーーーー』
(我らの聖女? 新たなる聖女?)
導かれるままについたのは少し広めの空間。目線を少し上げると、キョダイな歯車や様々な機械が複合的に組み立てられているのが見えた。
「なんなの、あの機械は」
「ディア、あれを見ろ!」
突然のスピカの声に驚いたディアは振り返った。一番奥に立っていたスピカの隣に立ったディアは真正面を見降ろし、驚愕した。
そっと座り込み、目の前にある棺を覗き込む。手を伸ばしてみると透明のガラス蓋の感触で指がひやりと冷たく感じた。
目の前にいる女性はスピカの髪の毛と全く同じオレンジの髪をしていた、正妃とよばれるあの人ともよく似ているし、化粧からも気高さを感じさせる。
服装も見るからに高貴なる皇族の衣装。だけれど、棺におさまっている姿は人間味を感じない。まるで人形のように目を瞑っていて、寝ているようにも死んでいるようにも見える。
「‥‥‥間違いない、母上だ」
直感で感じたのだろう、スピカは強く拳を握りしめていた。しかし、ディアはそれどころじゃなかった。確かに目の前に居るのはスピカの母親なのだろう。でも、なぜか、ディアは別の女性が脳裏に浮かび、肩から力を抜いた。
ああ、そうだ、思いだしたよ。
『あいこ、ちゃんとご飯を食べるのよ』
『うるさい、お母さんなんてダイキライ・・・・・!!』
『逢子、そういうことを言っちゃダメでしょう!』
『もういいっ!』
『逢子!』
そうだ、私は海城 逢子。
行方不明になったお母さんを探していた時に、川でおぼれていた子を助けようと飛びこんで。それからの記憶がないってことは多分私は死んだんだろうな。
ああ、今になって全部思い出すなんて。でも、思い出したからこそ、気づくことができた。
「こんな、形で再会するなんて」
この目の前にいる女性は確かにスピカの母かもしれないけれど、この人は私にとっても深いつながりがある人でもある。
「前世のお母さん‥‥‥」
「え?」
「――――この世界にいたんじゃ、散々探しても見つからないの当たり前だよ」
ずるずると崩れ落ちる。涙で目の前がぼやける。
思いだしたのはお母さんがいつも言っていた口癖。
差し伸べられる優しい手が大好きだった。
逢子、私の大事な娘。
『逢子。アナタの名前は出会いを大事にするようにとつけた名前なの』
それに、あなたが私のところに来てくれて嬉しかったのよ。だから、出逢ってくれてありがとうっていう意味も込めたわ。
だからね、私にとってあなたはどんなことがあっても大事な娘なの。
私のところに来てくれたからには絶対に守ると決めたわ。例えあなたが怒っても、泣いても、離れたいと言ってもずっとあなたの母親で居続けるつもりよ。
そう言って抱きしめてくれたお母さんだったけれど、大きくなるにつれて忙しくなって、なかなか時間も合わなくてすれ違いが多くなった。
ケンカもすることが増えて。あの日もちょうどケンカして飛び出した。
それでもいつもお母さんはごめんねって謝って抱きしめてくれた。あの日もそうやってきっと最後は抱きしめてくれると信じて疑わなかった。
でも、あの日からお母さんはいなくなってしまった。
私のせいだ。私が飛び出したからお母さんは車から消えてしまった。
ずっと探してたけれど、会えなくて。寂しくて。
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