【R18】王太子と月の末娘の結婚事情

巴月のん

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23)聖女の復活と新たな再生

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王は戻ってきてすぐに彼女を害した貴族たちを討伐し、眠ってしまったネイティフェラを一番安全な場所である大樹の地下にある神殿へと移して生命維持装置にもなっているこの棺へ入れて、彼女の身を守った。そして生まれたばかりのスピカを守るためにネイティフェルが城で過ごせるように妃にして招き入れたのだ。

「それで俺の母親になったというわけですか」
「うむ。そなたが妻の子どもだとバレるとあやつらが何をしてくるかわからなかったからの」

納得とばかりに頷いているスピカをよそにディアはひらめいたとばかりに手をあげた。

「あ、そうか。ネイティフェル様がスピカ様を襲ったのは貴族から身を守る力をつけさせるためだったんですね!」
「じゃあ毒を飲ませていたのは?」
「毒に耐性をつけさせるためと、お前を守る派閥を作るためだな」

身体が弱い王子であれば自分が後ろ盾になればという野心を持つ貴族はなかなかに利用できる。いざとなれば毒を理由にしていかようにも切り捨てられる。これほど便利な理由もなかろう。

「……王様、スピカ様にお見合いを持ってきたのはわざとですよね。ということはスピカ様に子どもができにくいというのもわざと流した噂ですか?」
「お見合いは異性を利用した攻撃への耐性のためと次代への影響を考えて切り捨てる貴族を選別するためだな。それとスピカに子どもができにくいのは残念ながら本当のことだ。そなたは妻に似て魔力が高いからな」

蓋を開けてみればどれもが息子のことを考えての策略であることがわかる。だからかスピカも何かをいいたそうな顔をしていたが口に出さなかった。納得したディアを前に王は話を本題に戻した。

「ずっと妃とともに色々と試したがやはり目覚めぬ。あの国に頼んで天の女神様にもお願いしたことがあるが、やはりセイレーン様でなければ難しいようでな」

だからそなたがセイレーン様の加護を受けていると聞いた時、希望を持ったのだ。

どうか頼むと再び頭を下げた王を前にディアは恐る恐る王妃の棺と向かい合う形で立って手を伸ばした。

「私の力で目を覚ますかはわからないです。でも、私もできるなら…お母さんと、ううん、スピカのお母様とお話してみたい」

だからどうかお願いです。

ディアは思いを込めて手のひらに力を込めた。すぅと深く深呼吸した時に力が集まるのを感じたティアは祈りを込めるように手を胸の前で組んだ。ディアの身体が水色に染められていくのが目に見えてわかる。スピカと王が空を見上げた瞬間、キラキラとした雨が降り注いだ。

「神殿の中なのに雨とは」
「しかも不思議な色をしておる。コレは一体何なのだ」

スピカの手のひらに雫が落ちたとたん一気に水が溢れ出る。それに慌てたスピカの手からこぼれ落ちるた水が引き寄せられるようにネイティフェラの身体へと落ちていく。そしてネイティフェラの身体が水色の光に包まれ、あっという間に消えた。それに慌てた王が狼狽えながらあたりを見回すが、ディアが祈りを捧げているのみでネイティフェラの身体はどこにもない。焦る王の姿が薄れていることに気づいたスピカは叫んだ。

「どこに消えたのだ!?」
「あ、父上の身体が消えかけて」
「そなたもだ。我らはどこに向かうというのか……」

スピカや王が消え、最後まで残っていたディアはゆっくりと上を眺め、そして、自身も姿を消した。
次にスピカが目を開けてみたものは懐かしんだ場所である城のバルコニーだった。横を見ると王も一緒に立っていた。落ち着こうと呼吸をした時、ネイティフェルが慌てた顔で現れた。

「王、それにスピカ、今までどこにおったのじゃ!?」
「妃か。何を焦っておる?」
「慌てもするわ! 上を見よ、何故姉があのように横たわっておる!?」

上を指さして揺さぶってきたネイティフェルの言うとおり、城の上、すなわち、空上にはネイティフェラが横になっていた。それも棺がなく、水色の光をまとったままで。気づけば、民衆達の声も聞こえてくる。空が暗くなっているのと、突然水色の光があらわれたのだから当然といえば当然なのだが、庭にはやっかいな貴族達も集まっていた。

「これは大騒ぎになるか…兵士たちを動かさねばならぬ」
「そうだ、ディアはどこへ」
「ディアならば、あそこじゃ」

スピカの言葉を聞いていたネイティフェルが城のてっぺんを指さした。城の旗がはためく最上階にある鐘の間にディアが立っているのが見えた。スピカも急いで行こうとしたが、それより早くディアが手を翳した。

「何をやろうとして……」
『聞こえていますか、この国に住まう全ての人たちよ』
「これはディアの声!?」
『これから聖女を通してセイレーン様のお告げが下ります。それを聞いて貴方たちがどう思うかはわからない。でも……セイレーン様にこんなことを言わせたことこそがあなた達の罪だと思います』


ディアは祈りを捧げている間、海の女神であるセイレーンと会話していた。
彼女はこの国の歴史を憂い、加護をなくそうと決めた。お母さんを聖女として転生させて最後となる仕事を与えたのもこの国に対して最後の慈悲のためだったのだと教えてくれた。

「せめて加護を有効につかってくれたならまだ良かったのだけれどもね」

この国は精霊を生み出せる魔素も多く有していたというのに。
いつしか機械に傾倒するあまりに魔法を発展させようとしなかったことで魔素が魔物に変化してしまった。
それどころか、精霊を酷使しているというのに交流の成果だと言い訳し、魔法との融合だと偽り、大国でありながら腐敗していってしまった。

「元は…地上を目指すために精霊と協力して魔法を効率的に使える機械を作ろうとしていたのに皮肉なものです」

そういいながら沈痛な表情をみせていた女神を脳裏に思い浮かべたディアは静かに座り落ちた。

「これが……この大国を見る最後になるのね」

これが空に浮かぶ機械大国ツニャルの終わりとなるなんて誰も想像できないでしょうね。


あちこちで怒号が飛んでいるのは主に城にいる貴族や兵士たちからだ。だが、一般の国民は事態の深刻さを悟ってか不安な様子でひそひそとささやきあっている姿がみられた。
バルコニーから様子を見ていたスピカが再び空を見上げると、光が一気に空を水色へと変えていき、横たわっていたネイティフェラが目を覚ました。

「おお、妻が目を!」
「姉上っ……!」

あちこちで驚きの声が聞こえる中、ネイティフェラは立ち上がり、手のひらから錫杖を取り出した。

『……私が気を失ってからそう長くないみたいですね。今思えば、私が聖女としてこの国に生まれたのは女神様のご意思によるものでした』

――全ての民の脳裏に響く聖女の声は静かで厳かだ。その証拠にさっきまでの怒号が嘘のように静まり返り、誰もが聖女たるネイティフェラの姿を眺めている。

『セイレーン様は私におっしゃいました』

私が貴女を聖女に選んだのは2つの目的のためです。

『私に与えられた使命の1つ目はこの国の王の妻となり、次代の聖女の夫となる子を生むこと。そしてそれは、スピカが生まれたことで達成されました』

(だから、私はこの国に引き寄せられた。セイレーン様の意思により選ばれたスピカと出会うために)


『そして、もう一つはこの錫杖を振り下ろすこと。セイレーン様はおっしゃいました。私の力をもって……セイレーン様の加護を不要としなくなったこの国を元の地であった』


海底へと戻しなさいと。


(海の女神であるセイレーン様の加護があったからこそ……海の中でも生きていけた。だけれど、この国は夢みてしまったのだ。あの空に見える太陽に近づきたいと)

そうして空を目指し、機械を作り、工業を盛んとさせることで大国になっていった。空に憧れたならば、海の加護はいらなくなってしまう。
それでも、セイレーン様はこの国を愛おしんだ。
だけれど、この国は徐々に変わっていった。まるでセイレーン様のことなど忘れてしまったかのように。
魔法を軽視し、自分が遣わした聖女や精霊を蔑ろにしていった。そうなれば、女神としても加護を与えるわけにはいかない。たとえ大事な人達が残した民の子孫がいたとしても慈悲を与えられるほどの優しさはもはやない。

錫杖が振り下ろされたその瞬間、国が揺れ動く。地鳴りが響き、慌てふためく民の叫びを無視して降下していった。そんな中でも異様に冷静だった王族達は呑気に会話を続けている。

「父上が…言っていたことは本当だったんですね」
「だから言ったであろう。この国は元々は海底に沈んでいた国で、セイレーン様の加護によって守られていたのだと」
「―――誰もが夢物語だと思ったこの国の歴史が正しかったことが今証明されましたね」
「これで…あやつらも少しは思い知るといいがな」
「それはこれから解ることかと」

ネイティフェラは下を見下ろしながら、さらに下にあった湖の水をさらに増やそうと錫杖を振り続けている。湖から溢れ出る水流は森を覆い尽くし、さらに空中に浮かんでいた国をも飲み込んでいき、引きずり下ろすかのように空の城を包みこんだ。

「ああっ、水が!」
「太陽が遠くなって…小さくなっていくよ!」
「女神様、この国はどうなるのでしょうか!」
「そんな、馬鹿な、夢物語だと思っていた歴史が真実だったというのか」

誰かが呟いた一言で国民の誰もが思い出した。
この国の歴史を。

かつてはセイレーン様の加護を受けた海底国であり、人魚や魚人を祖先としたツニャル国は
太陽の光に憧れ、文明を発展させていった。
やがて、薄れゆく魔法と精霊の歴史に涙したセイレーン様が加護を与えるのをやめたことで魔素だけが膨れ上がり、増え続ける魔物たちに対抗するために空へ逃げた。


「それが機械大国ツニャルの始まり…」


そして、今、その機械大国が終焉を迎えようとしている。
セイレーン様の加護を失い、
国民を守るはずだった精霊たちも消え、
これから聖女の力によって裁かれるのだ。

これがセイレーン様の最後のお告げになるでしょうと前置きした聖女の声が高らかに響いた。


私はこの国を愛していました。けれども魔法を忘れ、精霊を愛さないのであれば、もう庇護を与えることはできません。

『せめて加護を与える前の世界に戻しましょう。今度こそ私の加護を頼りにせず、再び空を目指してみせなさい。それが私があなた達に与えてやれる最後の慈悲です』


ディアはセイレーン様が言っていたことを思い出しながら、この国の未来を憂いた。これからはもう空に浮かぶ大国を見れなくなると思うと複雑な気持ちになる。


(この国に初めて降り立った時はワクワクしたのになぁ。)


「うーん、これをどう受け止めたらいいのかな。いいように考えるなら、機械作りの自負心からセイレーン様の加護を拒んだ国民達の意思によって海底国ツニェルが復活したっていうふうに記録するとか?」

空を見上げていたディアはいつの間にか隣に立っていたスピカに気づいてもなお呟きを止めなかった。意外だったのは滅びていくさまを目の当たりにしてもなお現実的な王太子の返事。

「いや、それより先に他の国から馬鹿にされるだろうよ。これまで魔法や精霊に頼ることをバカにしていた貴族もいるからな。女神の怒りのせいで海底に再び落とされた大国ツニェルだの機械大国が腐敗した末路だの言われるだろうさ。まずハリボテ大国の崩壊だとか色々揶揄されて笑われる未来を受け止めないとダメだわ」
「ずいぶん現実的だなぁ」

夢がないよと肩を落としながら呟いたディアはスピカの肩に頭を寄せて、改めて沈みゆく国を見守った。


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