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第一章 高校一年生(一学期)

あいすくりーむ(美久里)

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 6月に入ってじめじめとした気候の中、美久里と美奈の姉妹はアイスを食べに街に出てきていた。

「ねぇ……なんでアイス屋に……?」
「だって蒸し暑いしさ、おやつにもぴったりじゃん?」
「だったら、コンビニとかで買って家で食べるのがよくない?」

 そう、美久里は好きでここに来たわけではない。
 美奈の意見に耳を傾けた結果なのだ。
 何故OKしてしまったのかと、美久里は今更ながらに後悔していた。

「えー? こんないい天気の日に外で食べないなんてどうかしてるよ!」
「……もう既に私は疲れと人口密度でどうにかなりそうなんだけど……」

 なぜか意気込んでふんっと鼻を鳴らした美奈を力なく見て、美久里はため息をつく。
 太陽の光と湿気が皮膚を刺激してくる。

 その刺激に涙を流す皮膚をタオルで拭い、街の喧騒から逃げるようにして美久里は日陰に隠れる。

「何してんの、おねえ」
「もう無理だよ……休憩しないとやってられない……」

 美久里と同じ紫水晶アメジスト色の瞳が、美久里の顔をのぞき込む。
 美久里はその視線に耐えられず顔を逸らした。

「あ、でももうすぐだよ! ほら!」

 そう言って美奈が指さした先には、『クリームパラダイス』と書かれたアイス屋さんがあった。
 それは本当に近くて、歩いて一分もかからないほどの場所にあった。
 しかし――

「も、もう歩けそうにないから……一人で行ってきて……」

 汗はびっしょりと全身を覆い、脳は長時間外に置かれた氷のように溶けている。
 こんなんじゃ、歩くどころか立てやしない。

「大丈夫! おねえならできる! ファイト!」
「……はい?」

 美久里がそうやって諦めていると、なぜか美奈に応援された。
 その目はやけに眩しくて、美久里はしぶしぶ立ち上がる。
 そして、フラフラしながらも、アイス屋の目の前にたどり着いた。

「着いたね! おねえやるじゃん!」
「はぁ……やっと着いた……」

 美久里は安寧の地に着いたと安堵した。
 不思議と足に力が入っており、倒れ込むことはなかった。

「ねぇ、何頼む?」
「私は……なんでもいいや……」
「じゃあ、定番のバニラにしよっか!」

 ☆ ☆ ☆

 その後に起きたことは想像がつくだろう。
 美久里はバニラアイスの美味しさと冷たさに体力を回復し、美奈はとても楽しそうに……嬉しそうに顔をほころばせていた。

「また、来ようね!」
「次は……梅雨じゃない時にアイス屋に来たいな……」

 美久里はそう言いつつ、笑顔でアイスを頬張った。
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