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第二章 高校二年生(二学期)

しんそう(瑠衣)

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『大嫌いな僕をどうか忘れないで』
『ごめんね、端っこでいいから座らせて』

 どこかで聴いたようなフレーズが聞こえてくる。
 いや、頭の中を駆け巡っているといった方がいいか。
 瑠衣の頭の中は黒いものがごちゃごちゃしていて、いつそれが表に出てくるかわからない。

 瑠衣は長い夢を見ていた。
 とても幸せで、どこか儚いような……そんな夢を。
 みんなと出会って、その夢ができるだけ長く続いてほしいと願った。
 だからこそ、“無害で愛想のいい瑠衣”を演じなくてはならない。

 ――みんなに嫌われたくない。
 そんな想いを秘めて、今日も瑠衣はみんなの前に立つ。

「やっほー、瑠衣だにゃー!」
「おー、やほやほー」
「棒読み気味なの隠す気もないのにゃ!?」

 瑠衣はそうツッコむも、あまりショックを受けていない。
 というのも、朔良は瑠衣に対して塩対応なことが多いから。

「ねーねー、さっくにゃーん。瑠衣と付き合う気になったかにゃ?」

 それでもアプローチをやめない。
 アプローチといっても、ただふざけているだけで本気でしているわけではない。
 純粋に朔良の反応を楽しみたいだけだ。

「どこ行くんだ?」
「そっちの付き合うじゃないにゃ!」

 朔良はいつも素っ気ない対応を取る。
 それが楽しくて癖になっている。
 ……自分は変態なのかもしれない、と瑠衣は思った。
 だがまあ、朔良の迷惑そうな顔はなかなか見ものだ。そう考えるとSの方が近いのでは。

「はぁ……ま、瑠衣はそうやって好きに生きてるのが一番だよな」

 好きに……生きる……?
 その言葉は瑠衣にとって最も遠いものだ。
 ずっと演技をしている。嫌われないようにする……ため……に……

「あ……」

 そうだ。なにを勘違いしていたのか。
 これは、今朔良にしていることは、他の誰かにしたら嫌われるかもしれない言動だ。
 朔良だからこの言動に……いや、誰かを優先した時点で嫌われる確率が上がってしまう。

「知ったようなこと言ったから怒ってるか?」
「にゃっ!? そ、そんなことないにゃ! むしろ色々な発見があったというか」
「それならよかった。あたし、結構お前の生き方好きだからさ」

 朔良の言葉を聞いて頬が赤くなったのは、嬉しかったからか“好き”という言葉に反応したのか……真相はまだ、謎のままだ。
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