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最終章 みんなのキズナ

それぞれのさきへ(美久里)

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 雨が降って、より一層地が固まった美久里たちの卒業式がやってきた。
 長かったような、短かったような三年間。
 様々なことがあった。

 その多くは、美しい思い出として記憶に残り続けることだろう。
 いや、逆に記憶に残らないかもしれない。
 だってこれからも、みんなと一緒に同じ道を歩き続けるのだから。

「おーい、美久里ー!」

 朔良が校門前で美久里のことを呼んでいる。
 思えば、朔良に声をかけてもらえたことで楽しい日々が始まったのだった。
 そう思うと、なんだか感慨深い。

「もうみんな待ってますよー!」

 萌花は小さな身体で、大きく手を振る。
 最初は頭のいい優等生としか知らなかったが、色々と面白い子だった。
 これからも変わらず、小さな身体のままでいてほしい。

「美久里ちゃんやっと来たんだ~。遅いよ~」

 紫乃はあくびをしながら、急いできた美久里を見る。
 紫乃を見ていると、なんだかとても懐かしい気持ちになる。
 あの忌々しい記憶に優しい光が差すような。

「美久里もついにここでマイペースキャラになるんすかぁ?」

 葉奈は、息を切らす美久里にペットボトルのお茶を渡しながらからかう。
 掴みどころのない感じの印象だが、根は優しい子だ。
 渡されたペットボトルは飲みかけだけど。

「みくにゃんってば、はなにゃんにそう言われるほどの子だったんだにゃぁ」

 瑠衣は面白そうに微笑む。
 妖艶な出で立ちと幼い中身は、相反しているように見えても相性がいい。
 それにトリコになる子も結構いただろう。

「まあ、少しくらいなら神も許してくれるんじゃないかな」

 柚は優しげな表情で、よくわからないことを口にする。
 柚との出会いは二年生からだったが、キャラが濃くて第一印象が強い。
 美久里は未だにあれを思い出すと赤面してしまう。

「……ここにツッコミ役はいないのね」

 ……そして、いつものメンバーの中に愛杏がいる。
 なんだか複雑な気持ちはあるが、今まで過ごしてきて根っからの悪い人ではないことはわかった。
 愛杏が口を開くたびに身構えてしまうようになったけど。

「この校舎と、みんなと、もうお別れなんだね……」
「なに言ってんだ。あたしらの進路が変わろうと、あたしたちの関係はずっと変わらねぇだろ?」
「そうですそうです! まだみんなと一緒にしたいこと、たくさんあるんですから!」

 桜の花はまだ遠く。だけど、それが芽吹き始めていることは実感できた。

「花火大会行きたいし~、スイパラとかもいいよね~。あと遊園地とか動物園とか~」
「みんな大学進学なのは同じっすし、夏休みとか春休みとか利用して行きたいっすよね!」
「ボクは専門学校行くんだけど」
「そんなことはどうでもいいでしょ!?」

 みんなバラバラになったとしても、美久里たちの関係は形を変えつつ、これからも結びついていくだろう。
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