581 / 1,646
海神の慈悲
しおりを挟む
突如現れたその穴に、思わずシンの名を呼ぶ少年。彼の顔は、先程見たウンディーネの何かに怯えた顔によく似ていた。視線の先を追うと、そこには彼女の話にもあった、リヴァイアサンの体表に空いた小さな穴があった。
だが、シンにはそれが穴と呼ぶにはあまりに小さいと感じた。手帳やノートにメモをしている時に、髪の毛が落ちていると思い、手で払ったりつまもうとした経験はないだろうか。
実際は、いつ書いてしまったか分からないようなただの線だったこと。今まさにシンの前にある光景は、それに近い。穴といえば穴に見えなくもないが、ただ単に真っ黒に塗りつぶされただけのようにも見える。
「これが・・・穴か?」
覗くように近づこうとする彼を呼び止めたのは、ウンディーネだった。直接穴の存在を確認した彼女には、そこにある穴が先程見た文字の羅列が繋がる穴に酷似していることが分かったのだろう。
ウンディーネは指先で小さな水の塊を作り出すと、無言で穴の中にそれを放り投げた。本来であれば、何か物体に当たることで水が弾けるという光景が想像できる。
しかし、穴に落ちた水の塊は、真っ黒なその影に飲まれた途端姿を消し、何かにぶつかるような音もなく彼らの前から、文字通り無くなってしまったのだ。まるで、ウンディーネが止めていなければ、シンがそうなっていたと言わんばかりに。
「消えた・・・!?どこへ通じているんだ?」
「分からないわ。でも一つ確かなことは、体内には通じていないと言うことだけね。それこそ別の次元とでも言うのかしら・・・」
突拍子もない話に、唖然とするシンとヘラルト。だがここで疑問となるのは、何故ヘラルトの前に突然現れたのかと言うこと。少年の行動を思い返してみれば、何かヒントとなるものが見つかるかもしれない。
ヘラルトがリヴァイアサンの背に飛び降りてからしたことと言えば、目の前にある異様な光景を写生したことと、文字を書き起こしたことくらいだろう。新たな穴は、ヘラルトの近くに現れた。彼の何らかの行動が関係しているに違いないと気づいたシンは、彼の写生したスケッチブックと文字の書き起こしを確認する。
「文字を書き起こしていたら、いつの間にか穴がそこにありました。この文字の羅列によって生まれた、ということでしょうか・・・?」
「分からない・・・。だが可能性は高い。もう一度文字を書き写してみよう。それで穴が増えるか、或いは変化があるかを確かめるんだ」
いつ、どうやって出現したのか分からない以上、シンのいう通り行動を再現しもう一度確かめるしかない。シンはヘラルトから筆を借りると、少年の書き写した文字の羅列を、そっくりそのままリヴァイアサンの背に書いていく。
今度は見逃すまいと、ウンディーネとヘラルトはシンの様子に気を配りつつも周囲の変化に目を光らせる。そして、暫くしてシンの文字を書く手が止まる。
しかし辺り変化はなく、穴に変化もない。一度目に書かれた少年の文字の羅列と全く同じに書いたつもりだった。それはウンディーネもヘラルトも確認し、同じであることは確かだった。
だが一体何が一度目と違うのか、それが分からなかった。
「何故だ?何も起こらない・・・。どこか違うところがあったのか・・・?」
「いいえ、それはないわ。文字の形も順番も全て同じ。使った筆も同じだもの・・・。ねぇ、もう一度この子に書かせてみたら?」
「何か変わるでしょうか?正直、僕には違いがあるとは思えませんが・・・」
「ウンディーネの言う通りだ、やってみよう。俺にあってお前にないものがあるのかもしれない。もう一度書いてみてくれないか?」
二人から望まれ、少年は再び筆を手に取り、リヴァイアサンの背にまた同じものを描こうとした。
その時、再び人ではない何者かの声が、彼らに直接語り掛けてきた。大きい声でも力強い声でもない。しかしそれは、ノイズを遮断するイヤホンのように鮮明に聞こえた。
「理解セズ二 ソレヲ 使ウノハ 己ノ身ヲ 滅スコト二 ナルゾ」
「またアンタか!?どういう事だ?」
「言葉ノ 意味ノ ママダ。ソノ者 ガ 描ケバ 再ビ 作動スル。私 ハ 間モ無ク 自我 ヲ 保テナク ナル。 ソウナレバ コノ身体モ 朽チル。大人シク 退ケ。 ソレガ 私カラノ 最期ノ 慈悲ダ・・・」
その声が、今彼らの乗るリヴァイアサン自身の声であることに、気が付いたシン達。何処か悲しく、苦しみのない安らかなその声は、彼らがその場を離れることが最善であると促し、最期であると語った。
死期を悟ったモノのように、その言葉には偽りを感じさせない真っ直ぐさがあった。分かるのではなく、三人ともただそう感じたのだ。精霊であるウンディーネには、それがより一層ハッキリと伝わっていたことだろう。
「引き返せ・・・と、いうことでしょうか?」
「クソッ・・・!待ってくれ!これはこの世の文字じゃないってことなのか!?穴は何処へ通じているッ!?」
黒いコートの男達以外の新たな手がかりになるのではないかと、シンは必死にその声の主に語りかけるが、返事は返ってこなかった。
だが、シンにはそれが穴と呼ぶにはあまりに小さいと感じた。手帳やノートにメモをしている時に、髪の毛が落ちていると思い、手で払ったりつまもうとした経験はないだろうか。
実際は、いつ書いてしまったか分からないようなただの線だったこと。今まさにシンの前にある光景は、それに近い。穴といえば穴に見えなくもないが、ただ単に真っ黒に塗りつぶされただけのようにも見える。
「これが・・・穴か?」
覗くように近づこうとする彼を呼び止めたのは、ウンディーネだった。直接穴の存在を確認した彼女には、そこにある穴が先程見た文字の羅列が繋がる穴に酷似していることが分かったのだろう。
ウンディーネは指先で小さな水の塊を作り出すと、無言で穴の中にそれを放り投げた。本来であれば、何か物体に当たることで水が弾けるという光景が想像できる。
しかし、穴に落ちた水の塊は、真っ黒なその影に飲まれた途端姿を消し、何かにぶつかるような音もなく彼らの前から、文字通り無くなってしまったのだ。まるで、ウンディーネが止めていなければ、シンがそうなっていたと言わんばかりに。
「消えた・・・!?どこへ通じているんだ?」
「分からないわ。でも一つ確かなことは、体内には通じていないと言うことだけね。それこそ別の次元とでも言うのかしら・・・」
突拍子もない話に、唖然とするシンとヘラルト。だがここで疑問となるのは、何故ヘラルトの前に突然現れたのかと言うこと。少年の行動を思い返してみれば、何かヒントとなるものが見つかるかもしれない。
ヘラルトがリヴァイアサンの背に飛び降りてからしたことと言えば、目の前にある異様な光景を写生したことと、文字を書き起こしたことくらいだろう。新たな穴は、ヘラルトの近くに現れた。彼の何らかの行動が関係しているに違いないと気づいたシンは、彼の写生したスケッチブックと文字の書き起こしを確認する。
「文字を書き起こしていたら、いつの間にか穴がそこにありました。この文字の羅列によって生まれた、ということでしょうか・・・?」
「分からない・・・。だが可能性は高い。もう一度文字を書き写してみよう。それで穴が増えるか、或いは変化があるかを確かめるんだ」
いつ、どうやって出現したのか分からない以上、シンのいう通り行動を再現しもう一度確かめるしかない。シンはヘラルトから筆を借りると、少年の書き写した文字の羅列を、そっくりそのままリヴァイアサンの背に書いていく。
今度は見逃すまいと、ウンディーネとヘラルトはシンの様子に気を配りつつも周囲の変化に目を光らせる。そして、暫くしてシンの文字を書く手が止まる。
しかし辺り変化はなく、穴に変化もない。一度目に書かれた少年の文字の羅列と全く同じに書いたつもりだった。それはウンディーネもヘラルトも確認し、同じであることは確かだった。
だが一体何が一度目と違うのか、それが分からなかった。
「何故だ?何も起こらない・・・。どこか違うところがあったのか・・・?」
「いいえ、それはないわ。文字の形も順番も全て同じ。使った筆も同じだもの・・・。ねぇ、もう一度この子に書かせてみたら?」
「何か変わるでしょうか?正直、僕には違いがあるとは思えませんが・・・」
「ウンディーネの言う通りだ、やってみよう。俺にあってお前にないものがあるのかもしれない。もう一度書いてみてくれないか?」
二人から望まれ、少年は再び筆を手に取り、リヴァイアサンの背にまた同じものを描こうとした。
その時、再び人ではない何者かの声が、彼らに直接語り掛けてきた。大きい声でも力強い声でもない。しかしそれは、ノイズを遮断するイヤホンのように鮮明に聞こえた。
「理解セズ二 ソレヲ 使ウノハ 己ノ身ヲ 滅スコト二 ナルゾ」
「またアンタか!?どういう事だ?」
「言葉ノ 意味ノ ママダ。ソノ者 ガ 描ケバ 再ビ 作動スル。私 ハ 間モ無ク 自我 ヲ 保テナク ナル。 ソウナレバ コノ身体モ 朽チル。大人シク 退ケ。 ソレガ 私カラノ 最期ノ 慈悲ダ・・・」
その声が、今彼らの乗るリヴァイアサン自身の声であることに、気が付いたシン達。何処か悲しく、苦しみのない安らかなその声は、彼らがその場を離れることが最善であると促し、最期であると語った。
死期を悟ったモノのように、その言葉には偽りを感じさせない真っ直ぐさがあった。分かるのではなく、三人ともただそう感じたのだ。精霊であるウンディーネには、それがより一層ハッキリと伝わっていたことだろう。
「引き返せ・・・と、いうことでしょうか?」
「クソッ・・・!待ってくれ!これはこの世の文字じゃないってことなのか!?穴は何処へ通じているッ!?」
黒いコートの男達以外の新たな手がかりになるのではないかと、シンは必死にその声の主に語りかけるが、返事は返ってこなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる