World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
620 / 1,646

灼熱の炎と極寒の氷

しおりを挟む
 引火した船体は轟々と燃え上がり、突き刺さった槍を炭へと変える。あまりの熱量に近付くことすらままならなくなったロイクの竜騎士隊は、一度距離をとり様子を伺う。

 「野郎ッ・・・!自分の船に!?」

 炎に覆われたジャウカーンの船は速度を落とし、徐々にエンジン音を小さくする。よもや自ら自爆したとでもいうのだろうか。ロイク含め、竜騎士隊の面々も手をこまねいている。

 すると突然、炎上していたジャウカーンの船が急発進し始め、周囲を取り囲んでいた竜騎士隊の包囲網を突破する。意表を突かれた彼らは、急旋回し火の粉を散らして走り抜けるジャウカーンの船を追う。

 「どういうことだ!?突然加速しやがったぞ・・・!」
 「あれで生きてるとでもいうのかよ!?それ以前に、どうして船が壊れねぇ?」

 隊員達の口にする疑問は最もだった。だが今は、それでもエイヴリー海賊団の本隊を追うジャウカーンを止めなければならない。

 暴走する船に向かって、先陣を切るようにロイクが槍を放つ。軌道は正確、見事な偏差射撃を決めたロイク。槍は炎を貫き、船体へと突き刺さろうかという刹那、矛先から黒く変色し灼熱の炎を纏うと、瞬く間に灰へと化した。

 「ざんね~ん!そんな生っちょろい攻撃じゃぁ、俺は止めらんないよぉ?」

 「冗談じゃねぇぞ・・・。こちとら全力だってのッ!」

 ジャウカーンの挑発とは裏腹に、既に全力で槍を放っていたロイク。しかし、先程の槍による攻撃を観察するに、物理的な攻撃では彼の走りを止めることはおろか、邪魔することすら出来ない。

 他の隊員達がロイクに続き、何度も何度も槍を投擲していくが、どれも船に届くことはなく、鈍色の灰へと変わり散っていく。

 かといって、ドラゴンのブレスではジャウカーンの炎を飲み込むほどの熱量には至らないだろう。下手を打てば彼の勢いを加速させることに繋がりかねない。炎の属性に同じ属性のものを撃つことは危険だ。

 「息巻いて出て来ちまったが・・・どうすればいい・・・?」

 手の内ようがなく、ただ炎に包まれるジャウカーンを追いかける事しかできないロイク。これでは追撃を振り払うという役目が果たせない。船長であるエイヴリーの前で、あれだけ啖呵を切っておきながら、何の成果も得られないのでは部隊長の名に傷がついてしまう。

 「暑苦しい獣が私の道の邪魔をしておるようだな」

 後方から、如何にもプライドの高そうな女性の声がする。ロイクにはそれが誰なのかすぐに分かった。つい先程まで、共に命懸けの巨獣戦を戦っていた戦友、氷の女王シャーロットだ。

 海を凍らせて走る氷の馬車が、ロイクの後ろから近づいていた。

 「貴方も、あの海を抜けられていたか」

 「当然だ。あの程度、凍らせてしまえばどうという事はない」

 会話を交わす彼女は、そのままロイクを追い抜き、そのまま大気に余熱を残すジャウカーンの船の軌跡を辿っていく。

 しかし、一見して氷と炎では相性が最悪。シャーロットが追いついたところで彼を止めることなどできるのだろうか。だが、彼女のその表情からは不思議と敗北する未来は窺えない。

 共に死線を潜り抜けた戦友として、ロイクは彼女に知り得た情報を共有するようにアドバイスする。

 「気をつけろ。奴の炎は普通の炎ではない。何ものをも近づけさせない結界のようになっている。それに、貴方の氷では相性が・・・」

 あたかも、このまま挑んだのでは勝ち目はないといった口ぶりに、シャーロットは鋭い視線を返す。彼女の怒りを買ってしまったかと一瞬たじろぐロイク。だが、すぐに彼女は片側の口角を上げて表情を一変させる。

 「甘く見るなよ?エイヴリーの従者。私の力、その目にしかと焼き付けておくが良い」

 速度を上げて海原を駆け抜けていくシャーロット。氷の上を滑り推進力を得た彼女がジャウカーンの船に近づくと、船を覆っていた炎がその燃え盛る勢いを徐々に弱めていった。

 自身の船に起こる異変に気がついたジャウカーンが、後方を確認する。するとそこには、雪の降る海面を氷漬けにしながら氷の馬を走らせる、高貴な女の姿があった。

 「アンタは確か・・・。ふ~ん、俺の炎に氷で挑もうっての?いいぜぇ、そういう無鉄砲さ。嫌いじゃないねッ!」

 シャーロットの周りに漂う極寒の大気に負けじと、ジャウカーンも火力を上げる。海上には炎の熱気で揺らめく景色と、一部だけ雪の降る極寒の気温に凍りつく海面の景色という、不思議な光景が繰り広げられた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...