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命の境目
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彼が自身の身体に受けた傷を視界に捉えると、他の箇所からも出血や切り傷が徐々に浮かび上がっていた。何が起こったのか分からないといった様子でツクヨの瞳孔が開く。
同時に彼の身に迫る空間の歪みが、傷を負ったツクヨの身体を通過すると、新たな傷が次々に刻まれていく。
「ぐぅッ・・・!?」
乱打を受けるように後方へ押し出されていく中、必死に抗おうと手にしていた不思議な力を放つ剣で応戦するも、不意を突かれたことにより負傷した傷が、剣を持つ腕に力を入れさせないようにしていた。
迫り来る見えぬ斬撃。これは間違いなく先程まで彼を追い詰めていた蛇女の魔法、かまいたちを模した風の刃と同じ。しかし、その相手はつくよが今まさに真っ二つに両断したはずだった。
勝敗は決した。誰もがそう思っていた。
「お前は、虫の身体を千切ったことはあるか?」
「・・・・・?」
風の刃が止み、突如として聞こえてきた切り捨てた筈の蛇女の声。だがその内容は突拍子もなく、今のツクヨには彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「声も上げず、争っているようにも見えず。ただ弄ばれるだけのちっぽけな存在の奴らの身体を、まるでどこまで生きていられるか確かめるように、足や触覚、羽根など胴体に付いている部位を引き千切り並べていく。次第に弱まっていくその姿を見て、最後に頭を胴体から引きちぎる。最早動いているのかどうかさえ分からぬ達磨になった虫けらを見て、“付属品“ではなく本体を千切れば死ぬのかという疑問が新たに生まれる」
人によっては体験したことがあるのではないだろうか。
幼き頃に、蟻や蚊などの生き物を捕らえ、その身体を千切ったり潰したことが。個体のサイズが大きい種類になればなるほど、そのような感情すら生まれ得ることなく叩き潰したり、殺虫剤などの間接的なもので命を奪ったことは誰しも経験することだろう。
「次の個体では、手足を千切る前に身体を千切ってみよう!そう思うようになる。そしていざ実際に千切ってみると、なんと奴らは身体を引きちぎられても動いておった。種類の違いもあるやも知れぬが、すぐに絶命することはなかった。ならば其奴らは、どことどこを切り離せば死を迎えるのだろう。幾つもの個体を使って実験してみたが、明確な基準は妾には分からなかった・・・」
「何の話をしている・・・?」
虫の中には身体の節々に神経の塊のようなものがあり、各々が神経の伝達をすることで身体を動かしているものもいる。それらの生き物には脳がなく、例え身体を千切られてもすぐに死を迎えることはなく、動いているように見える。それはまだ切り離された部位に神経が残っているからだろう。
「虫では妾には生きているのか死んでいるのか分からぬ・・・。そこでもっと分かり易い個体で実験を行うことにした。人間や獣人といった、意識を持つ生き物でな」
「ッ!?」
ツクヨはその言葉を耳にした時、先程まで目の前の蛇女が口にしていた理解できぬ残酷に感じたものを、自身と同じ人間で試したのかと思い身のけもよだつような恐怖に襲われた。
蛇女は意識のある生き物を使って、死に至るまでの様子を研究していたようだ。同時に、虫のように身体を千切られてもすぐには死なない生き物もいることを知り、その能力を別の生き物に流用できないかどうかを研究していたようだった。
「同族のラミア達も使って、妾はその虫けらの素晴らしい力を別の生き物に与えることに成功した!つまりその能力を身につけた者に、一瞬の死は無いということじゃ」
切り離された蛇女の下半身。尻尾にあたる部分はみるみる様子を変え複数のラミアとなって分裂し、新たな個体として幾つもの命に分かれた。そして彼女の上半身は、切り離された断面部から再び蛇のような尻尾が生え始め、彼女自身が少し大きめのラミアのような個体となって、再び活動を再開し始めたのだ。
「なッ何!?身体を真っ二つにされてもまだッ・・・!」
「幾度となく繰り返せる便利なものではないが、たかが身体が引きちぎられようと妾は死なぬ。万策尽きたのなら、再び妾の元へ戻れ。お前は他の“人間達“とは違うらしい。それにその剣、それはこの研究所のものじゃ。返してもらうぞ」
姿形は小さくなったものの、体勢を立て直した蛇女の軍勢に対し、ツクヨは満身創痍の状態。如何に彼の手にしている剣に未知なる能力があろうと、肝心のそれを扱う人間がボロボロでは真価を発揮できない。
「勝手に盛り上がってんなよッ・・・!」
そこへ、複数のラミアを相手にしていたアズールが現れ、小さくなった蛇女に飛びかかる。依然として蛇女だけは他のラミア達とは違い、複数の腕を持つという一目で分かる違いがある。
当然その違いは実力差にも反映されていた。小さくなったことにより身軽になった蛇女は、飛びかかるアズールを寸前で躱し、逆に彼を尻尾で絡め取り縛り上げたのだ。
「チッ・・・!動きが速くなってやがるッ!?」
「質量が減れば当然じゃな。それで?弱くなったとでも思うたか?」
強化状態にあるアズールの身体は、今の蛇女と同じくらいの大きさになっている。筋肉量では明らかにアズールが優っているが、蛇女はそれを軽々と持ち上げ動きを封じる。
同時に彼の身に迫る空間の歪みが、傷を負ったツクヨの身体を通過すると、新たな傷が次々に刻まれていく。
「ぐぅッ・・・!?」
乱打を受けるように後方へ押し出されていく中、必死に抗おうと手にしていた不思議な力を放つ剣で応戦するも、不意を突かれたことにより負傷した傷が、剣を持つ腕に力を入れさせないようにしていた。
迫り来る見えぬ斬撃。これは間違いなく先程まで彼を追い詰めていた蛇女の魔法、かまいたちを模した風の刃と同じ。しかし、その相手はつくよが今まさに真っ二つに両断したはずだった。
勝敗は決した。誰もがそう思っていた。
「お前は、虫の身体を千切ったことはあるか?」
「・・・・・?」
風の刃が止み、突如として聞こえてきた切り捨てた筈の蛇女の声。だがその内容は突拍子もなく、今のツクヨには彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「声も上げず、争っているようにも見えず。ただ弄ばれるだけのちっぽけな存在の奴らの身体を、まるでどこまで生きていられるか確かめるように、足や触覚、羽根など胴体に付いている部位を引き千切り並べていく。次第に弱まっていくその姿を見て、最後に頭を胴体から引きちぎる。最早動いているのかどうかさえ分からぬ達磨になった虫けらを見て、“付属品“ではなく本体を千切れば死ぬのかという疑問が新たに生まれる」
人によっては体験したことがあるのではないだろうか。
幼き頃に、蟻や蚊などの生き物を捕らえ、その身体を千切ったり潰したことが。個体のサイズが大きい種類になればなるほど、そのような感情すら生まれ得ることなく叩き潰したり、殺虫剤などの間接的なもので命を奪ったことは誰しも経験することだろう。
「次の個体では、手足を千切る前に身体を千切ってみよう!そう思うようになる。そしていざ実際に千切ってみると、なんと奴らは身体を引きちぎられても動いておった。種類の違いもあるやも知れぬが、すぐに絶命することはなかった。ならば其奴らは、どことどこを切り離せば死を迎えるのだろう。幾つもの個体を使って実験してみたが、明確な基準は妾には分からなかった・・・」
「何の話をしている・・・?」
虫の中には身体の節々に神経の塊のようなものがあり、各々が神経の伝達をすることで身体を動かしているものもいる。それらの生き物には脳がなく、例え身体を千切られてもすぐに死を迎えることはなく、動いているように見える。それはまだ切り離された部位に神経が残っているからだろう。
「虫では妾には生きているのか死んでいるのか分からぬ・・・。そこでもっと分かり易い個体で実験を行うことにした。人間や獣人といった、意識を持つ生き物でな」
「ッ!?」
ツクヨはその言葉を耳にした時、先程まで目の前の蛇女が口にしていた理解できぬ残酷に感じたものを、自身と同じ人間で試したのかと思い身のけもよだつような恐怖に襲われた。
蛇女は意識のある生き物を使って、死に至るまでの様子を研究していたようだ。同時に、虫のように身体を千切られてもすぐには死なない生き物もいることを知り、その能力を別の生き物に流用できないかどうかを研究していたようだった。
「同族のラミア達も使って、妾はその虫けらの素晴らしい力を別の生き物に与えることに成功した!つまりその能力を身につけた者に、一瞬の死は無いということじゃ」
切り離された蛇女の下半身。尻尾にあたる部分はみるみる様子を変え複数のラミアとなって分裂し、新たな個体として幾つもの命に分かれた。そして彼女の上半身は、切り離された断面部から再び蛇のような尻尾が生え始め、彼女自身が少し大きめのラミアのような個体となって、再び活動を再開し始めたのだ。
「なッ何!?身体を真っ二つにされてもまだッ・・・!」
「幾度となく繰り返せる便利なものではないが、たかが身体が引きちぎられようと妾は死なぬ。万策尽きたのなら、再び妾の元へ戻れ。お前は他の“人間達“とは違うらしい。それにその剣、それはこの研究所のものじゃ。返してもらうぞ」
姿形は小さくなったものの、体勢を立て直した蛇女の軍勢に対し、ツクヨは満身創痍の状態。如何に彼の手にしている剣に未知なる能力があろうと、肝心のそれを扱う人間がボロボロでは真価を発揮できない。
「勝手に盛り上がってんなよッ・・・!」
そこへ、複数のラミアを相手にしていたアズールが現れ、小さくなった蛇女に飛びかかる。依然として蛇女だけは他のラミア達とは違い、複数の腕を持つという一目で分かる違いがある。
当然その違いは実力差にも反映されていた。小さくなったことにより身軽になった蛇女は、飛びかかるアズールを寸前で躱し、逆に彼を尻尾で絡め取り縛り上げたのだ。
「チッ・・・!動きが速くなってやがるッ!?」
「質量が減れば当然じゃな。それで?弱くなったとでも思うたか?」
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