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しおりを挟むレオンは、現共和国では『共和国筆頭騎士』と『国民代表議員』の二つの称号を持っています。
革命軍の英雄だった彼は、その前――――旧フォンセ王国では、騎士団長を務めていました。兄の親友でもありました。
そして、わたしの婚約者でもあったのです。
レオンはわたしの五つ年上で、兄と同い年です。わたしは昔から彼が好きでした。王侯貴族にしては珍しく、レオンとわたしは惹かれあってから婚約をするという、少し逆転した順序で婚約者になりました。レオンレオンと、彼にわたしがまとわりついていたのもあるのでしょうが……レオンがわたしの手を握って、
『俺も、君が好きだ』
『共に生きる名誉を授かることを、どうか許してほしい』
と、そう言ってくれた時は――――本当に、天にも昇りそうな気持ちでした。
この婚約をわたしが最初に報告したのは、妹、ローズにでした。
普通はお父様とお母様、その後でお兄様。そして最後に妹、と行きそうなものですが。わたしは、それでも最初にあの子に報告したかったのです。よくお兄さまに「お前はローズに甘すぎる」と言われるぐらいには、わたしはちいさな自分のかわいい妹が大好きでした。
妹のローズは、わたしの五つ年下。11歳でした。
婚約が決まったのは今よりももう少し前なので、あれはまだあの子が一桁の頃だったかもしれません。
「あのねローズ、お姉さま、あなたにいわなくちゃいけないことがあるの」
「?なあに、お姉さま!」
ローズは嬉しそうにわたしの膝の上にどかりと座ってきました。
「ふふ、もう、レディでしょう、ローズ」
「だぁって、レディの前にお姉さまの妹だもの」
「ふふ…………」
わたしと同じ銀色の髪を梳いてやりながら、せわしなく振り返ってくるローズの耳に口を寄せます。じつはね、あなたに新しいお兄さまができるの。きょとんと、やっぱりわたしと全く同じアメジストの瞳を瞬かせたあと、ローズは口を開きます。
「もしかして…………っ!」
「ふふ、そう!レオンと結婚するの。だから、」
「お姉さま、よかったわねーーーーーっ!!!!」
「わ、っ!」
振り返ったローズが、勢いよくわたしに抱きついてきました。凄まじい勢いだったので、そのままソファに倒れ込んでしまいました。咄嗟に、ローズを抱きしめます。なんとか抱えられてほっとしました。あまり危ないことはしてはダメよと苦言を呈そうとして、
「えへ、えへへ、えへへ」
…………あんまりにも、嬉しそうに笑っているものですから。
毒気を抜かれて、怒る気がなくなってしまいました。そんなことだから、ローズに甘いと言われてしまうのですけれど、こんなにかわいいのだから仕方がないのです。
「ふふ、どうしてローズが嬉しそうなの」
「だぁって、お姉さまが嬉しそうなんだもの!ローズ、お姉さまが嬉しいのが一番、うれしいの!」
「ローズ……」
「お姉さま、だってもう、ずっと、ずーっとレオンのこと好きだったものね!」
「ちょ、ちょっと、ローズ!声が大きいわ!」
いくら周知の事実といえ、言われると気恥ずかしいものがあります。
お兄さまの親友として初めて会った時から、わたしは彼のことが好きでまとわりついていました。
わたしが彼のことを好きなのと同じように、彼がそう言ってくれたこともたまらなく嬉しいものでしたが、大きい声で言われてしまうととても気恥ずかしいのです。
「えへへ。だってうれしいの。ローズ、お姉さまがいっちばん、だいすきだから。レオンが旦那さまになるからって、ローズのことを忘れてしまったら、拗ねてしまうんだから」
「ふふ、忘れないわ。むしろ、レオンのことを忘れてしまうかも。お姉さまも、ローズが大好きだから」
ちいさなちいさな妹を抱きしめて、笑います。ローズがわたしに頬擦りをしました。さらさらの銀色の髪の感触、いつもあたたかい体温。うんと小さい頃、この子が赤子の時から変わりません。
「誰が忘れられるって?」
少し拗ねたような声で言いながら、レオンが部屋に入ってきました。ローズを抱きしめたままソファに倒れこむわたしの横に座ります。じいっと、ローズに目線を合わせようとしますが、ローズは口角を上げてにんまり笑いながら、目線を逸らしてわたしに抱きつきます。
「こいつっ!」
「きゃ、あは、きゃっ、くすぐったい、レオン!」
「はは、…ふふ、お返しだ!」
レオンがわたしからローズを抱き上げて、ぐるぐると回しました。まるで、兄が小さな妹を相手にしているようです。彼は一人っ子だったので、昔から弟や妹が欲しいとよく言っていました。二人は嬉しそうに笑っていました。見ていると、なんだかわたしまで、幸せな気持ちになります。……だって、大好きな二人が笑っているのですから、こんなに嬉しいことはありません。
「ローズ」
「なあに?レオンお兄さま」
レオンが破顔しました。
それから彼はわたしに顔を向けて、愛おしそうに――――わたしの頬を撫でるときのように、目を細めました。わたしは、口に手を当ててくすくす笑いながら、しっかり彼の目を見返して、頷きます。
レオンは、抱き抱えたローズに言いました。
「ありがとう。君の兄として、君の大好きなお姉さまの夫として。…絶対に、君たちを守るよ」
ローズは、頷きました。まるで女王さまかと錯覚するほどの威厳を持ったように、しっかりと。ローズが、小指を差し出します。
レオンは少し驚いたようにそれを見た後、自分の小指を差し出して、しっかりと絡めました。
「やくそくね、レオン!」
「ああ、約束だ」
わたしのちいさなかわいい宝物と、わたしの愛しい人が約束を交わしていました。わたしはそれを、眩しいものを見るように見ていました。柔らかな陽の光が差し込んで、愛した人と、愛しい妹がわたしに振り返りました。
――――今でも、何度死のうが忘れがたい。
あれがきっと、わたしの、最後の春でした。
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