処刑された死に戻りの第六王子は故国を捨て、隣国のギロチン皇女と復讐を誓う

サンボン

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裏切られた侍女

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「ギュスターヴ殿下、ようこそお越しくださいました」

 うやうやしく一礼するマリエットに迎えられ、部屋の中に入った。
 もちろん、彼女を説得するために。

 真相・・を、全て打ち明けてもらうために。

「……僕達が来た理由、分かっているよね」
「はい。私に、王国による皇都襲撃の全容を明かせ、ということですよね」
「ああ」

 りんとしたたたずまいで、どこか覚悟めいた表情を見せるマリエット。
 その覚悟は、僕達に全てを明かすためのものなのか、それとも、絶対に秘密を守り抜くという意志の表れなのか。

 僕も、彼女の籠絡には時間がかかると思っていたし、対ブリジットへカードを切るのはまだ先……遅くとも一年後だと思っていた。
 だけど、王国使節団がやって来る以上、事情が変わってしまったのだ。

 『金獅子王』エドワード王があのような容体である以上、万が一王国に知られても、皇国が優位に立ち続けるために。
 たとえエドワード王が不在でも、皇国の屋台骨は揺るがないことを示すために。

 そのために、僕達は決着をつけなければならない。
 この、皇位継承争いに。

「では、お答えしいたします」
「マリエット?」
「私、マリエット=ジルーは、ギュスターヴ殿下にお話しできるようなことは何一つございません」

 ……残念ながら、マリエットは後者を選択したようだ。

「っ!? どうしてですか! あなたは王国に……っ」
「クレア、よせ」
「ですが! ……分かりました」

 詰め寄るクレアを制止し、僕はかぶりを振る。
 何か言いたげだが、アビゲイル殿下にもここは僕に任せてもらうことになっているから、クレアは唇を噛んで引き下がった。

 まあ、マリエットからこんな答えが返ってくることも、予想はしていた。
 どうして彼女が、かたくなに王国に忠誠を誓っているのか、その理由を知っているから。

「マリエット……知っているか? 王国では、君は既に死亡扱いになっていることを」
「……ルイ殿下とフィリップ殿下ですら処刑されたのです。私ごときがこのように生かされているなど、王国は知る由もないでしょう」
「ああ。といっても、仮に皇都制圧が完了しても、王国はマリエットを生かすつもりはなかったみたいだが」

 これは、ルイとフィリップの尋問を行った際に確認しているので、間違いない。
 つまりマリエットは、僕と同じように最初から捨て駒でしかなかったということだ。

「…………………………」

 マリエットは目を伏せ、押し黙る。
 どうやら彼女は、そのことも含めて理解していたようだ。

 でも。

「なら、これは知っているか? 今回の皇都襲撃が失敗したことで、王国はジルー伯爵家への支援の一切を打ち切ったことを」
「っ!?」

 さすがにオマエも、これは知らなかっただろう?
 王国は最初から、約束・・なんて守るつもりはなかったんだよ。

 マリエットが自分の命を捨てる覚悟で、僕に付き従って皇国まで来て、皇都襲撃に加担した理由……それは、病で床にせる弟の延命治療のため。

 このことは、ルイとフィリップの尋問に加え、情報ギルドにも調べてもらって裏を取ったから間違いない。

「……残念だが、服用していた特別な薬も供給が打ち切られ、マリエットの弟は、もう……」
「あ……あああああ……っ!」

 僕の言葉を受けたマリエットは、絶望の表情を浮かべ、床に崩れ落ちる。

 マリエットが王国と交わした契約には、おそらく皇都襲撃が失敗したとしても、弟への延命治療は継続的に支援することを約束していたのだろう。
 だけど、あの私利私欲にまみれた下劣な王国が、そんなことを守るなんて絶対にあるはずがないんだ。

 そのことを、僕は誰よりも知っている。

「マリエット……これでも君は、王国に忠誠を尽くすのか? もはや、守る者はこの世にいないというのに」
「ううう……うわあああああ……っ」

 何度も床を叩き、マリエットは号泣した。
 オマエの気持ち、誰よりも分かるよ。

 一度目の人生・・・・・・で聖女に、王国に裏切られ、あの日・・・のアビゲイル皇女の言葉さえも最後まで聞くことを許されなかった、この僕には。

「あああああ……“ジョルジュ”……ジョルジュ……ごめんね……ごめんねえ……っ」

 マリエットは嗚咽おえつを漏らし、弟の名を叫んでは何度も謝罪を繰り返す。
 僕達はそんな彼女が現実を受け入れるまで……悲しみに折り合いをつけるまで、ただ見つめていた。

 そして。

「…………………………許さない」

 一時間は経過しただろうか。
 今もなお肩を震わせるマリエットが、ポツリ、と呟いた。

「マリエット……?」
「許さない! 私のジョルジュを殺した、あの王国を! 必ず弟を守るって……約束するって言って騙した、あの男・・・をッッッ!」

 勢いよく顔を上げたマリエットの表情を、一度目の人生・・・・・・を含め、僕は知らない。
 怒りと憎しみ、悲しみ……それら全てを表しているような、まるで復讐の悪魔が乗り移ったような、そんなかおを。

「マリエット……君の言う、『あの男』とは?」
「ジャン……ジャン=デュ=ヴァルロワですッッッ!」
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