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一章
#35 ある不器用な騎士の物語30
しおりを挟むその日、カレンス王国の王都カレンスは歓喜の歓声に包まれた。
《魔物集団暴走》を見事退けたその次の日、王国が誇るカレンス王国騎士団の面々は王都の中央通りを隊列を組み進んでゆく。民衆は騎士団を労い、誇り、称え、全ての賛辞を声高らかに叫んでいた。
王都の中央通りを誇らしげに歩き、歓声に応え、笑顔の影には散っていった仲間達を想う。自身達が生きて戻って来られたのは全て彼等の力無くしては不可能だったと改めて心に刻む。
決して忘れない為に。その想いを繋げていく為に。これからもこの国を守護する巨壁と成る為に。仲間達の想いと共にしっかりと歩んで行く。
王都は《魔物集団暴走》を退けたその日の内に総出で戦後の処理を迅速に行った。戦死した勇士達を弔い王都にいる全員が揃って祈りを捧げ見送った。彼等こそ命を賭けて恐怖に立ち向かった《英雄》達だと嘆き、悲しみに涙した。
そして現在、見事《魔物集団暴走》を退け生還した騎士団のパレードが行われている。それを民衆の人垣を避ける様に少し離れた場所で見守る少女が一人。
「沢山の命と覚悟、生き様というものを見させて頂きました。人とはこんなにも強く、美しく、尊いものなのですね。決して英雄譚や物語では語られない、多くの想いを見させて頂きました。本当にありがとうございます」
小さな手を胸の前で組み亡くなった英雄達と生還した英雄達へと祈りを捧げる。
その閉じられた瞼からは一筋の涙が頬を伝って落ちる。先の戦闘に於いて本物の覚悟と勇気と生き様を見届け、自身の無力さを思い知った。その強く確固たる信念を忘れぬ様に強く心に刻み込む。
「マリーちゃん、美味しいと評判の串肉を買ってきたよ。こっちで一緒に食べよう」
「リードさん......。すいません、ありがとうございます」
「こういう時はね、皆で騒いで見送った方がいいんだよ。ほら、亡くなった騎士達も、いつまでも皆に泣かれてちゃ安心して天の国へと行けないだろう?」
はい。と差し出された串肉を受け取り、マリーはリードの横へと腰掛ける。
「リードさんも、改めてご苦労様でした。あの時は驚いて泣いてしまいましたが、改めて考えてみると当然の事だったのかも。と思い至る次第です」
「別に気にしてないよ。確かに、僕は余りにも死を多く見過ぎて無頓着になっているのかも知れない。マリーちゃんには少し酷だったよね、ごめんね。配慮に欠けていたよ」
「此方こそすいませんでした。改めて、本当にありがとうございます。リードさんのお陰で沢山の命が守られ、ラヴェルさんも生還する事が出来ました」
「それは彼等自身の強さがあっての事だよ。僕に出来るのはあくまで手助けのみだ」
笑顔で話すリードを見詰め、前日の《魔物集団暴走》終結直後の事を思い出す......。
◆◇◆◇◆◇◆
「漸く終わったのですね」
「お疲れ様ですマリーさん。送魂の義、確かに見届けさせて頂きました。やはり貴女は素晴らしい。それほど綺麗な魔法は私の長い人生の中でも見た事がありません。正しく天よりの使いが成せる神事。とでも言いましょうか」
「そ、そんな事はありません。全ては受け入れて下さった主神様あっての事です。私はただお願いをしただけに過ぎませんので」
「それでもです。普通送魂の義とは、何年も神に祈りを捧げ其の身すら神に捧げた高位の神官が漸く成せる業。それでも、あの数の魂達を一度に全て昇らせる事等出来る者などこの世におりません。貴女はもっと自身の力を知るべきです」
顔を俯かせ、今しがた送った魂達を想うマリーは涙を堪える様に強く瞼を閉じる。どうか安らかに。と、ささやかな祈りを込めて両手を組む。
「ふぅ、漸く終わったね。ご苦労様マリーちゃん。それにメルも」
「ついでの様に言ってくれますね、リードちゃん。貴方もご苦労様。その成を見ると、少しは役目は果してきた様ですね」
「少しは、じゃないよ。全く、本当にヒヤヒヤしたよ。もしかしたら負けるんじゃないかってね。元に、ラヴェル君が吹き飛ばされた時周りの騎士達を引き連れて乱入しなきゃ彼死んでたよ。まぁ、僕が生前妻の《パーシ》に贈った《携帯用小型結界発動陣》が刻まれた《短刀》を持っていてくれたお陰かも。まあ、本当に無事で良かった」
やれやれ、と疲れた顔を浮かべるリードは血塗れで、その姿を見たマリーは驚きリードに詰め寄る。
「リードさん......? その格好は一体......? 何処からその鎧兜を調達したのですか?」
「うん? ああ、これは既に倒れた騎士の鎧兜だね。これを着ていれば怪しまれずに確実に手助けを出来るからね。途中で拝借してきたんだよ。お陰ですんなり騎士達の中に紛れ込めた訳だね」
「倒れた騎士さんから剥ぎ取ったのですか!? なんて罰当たりな!」
「ちょ、いや言い方が不味いね。けど、そうするしか堂々と手助けなんて出来ないじゃないか。まさか、まだ懸命に戦っている騎士から奪い取るなんて事は出来ないだろう?」
「それでもです! それでも......っ、何も思わないのですか!? 戦いの果てに倒れ伏した人の物に手を付けるなど、それが《勇者》のする事なのですか!?」
涙をその瞳一杯に溜めてマリーは叫ぶ。そのマリーを優しく包む様に自身の胸元へと優しく引き寄せる。
「マリーさん。確かに貴女のその優しく清らかな心では到底理解も許容も出来ない事かも知れませんね。しかし、私達は余りにも多くの死をこの目と心に宿し今まで歩んできました。その中で、こういう手段を已む無く取る場面も決して少なくはありませんでした。少し配慮に欠けていた事をリードに変わり謝罪します。なので、どうかリードを責めないであげて下さい。あの場合、この手段が尤も効率的だった事は分かって下さい」
「あー......その、マリーちゃん。ごめんね、少し配慮に欠けていたよ。ごめん、僕が悪かった」
マリーはその後も暫くリエメルの胸元で泣いていた。心の中では理解出来ても、いざそれを目の当たりにするとやはりすんなりとは受け入れられない事の様だった......。
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