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四冊目
にじゅう•たいが
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乗馬を終えた俺達は少し離れた場所にある蕎麦屋に行くためにバス停へと向かう。
俺がハーフだと云うことを知らなかったムク犬。
俺のルックスで近づいてくる奴らならすぐに勘づくし、自分から言うことでもねぇからと考えてみれば話した事はなかったな。
この事を初めて知ったムク犬は、驚愕と少しの寂しさを感じさせる顔で俺を見てきた。
俺と仲良くなれたと喜んでいたから知らなかったことがショックだったようだ。
ムク犬にショックを受けさせた事を申し訳なく思う反面、ムク犬は俺の外見ばかりを見ているんじゃないと言うことに喜びを覚える。
そしてその顔をみてチャンスだと思った俺は予てから思っていたことを実行に移した。
だいたい九条も熊谷も下の名前どころか愛称呼びだと言うのに、俺の事はずっと名字呼びのまま。
これはムク犬のポチ意識のせいなのかも知れないが、俺がおまえになって欲しいのはペットじゃなくて恋人なんだよっ!
そんな内心の叫びはおくびにも出さず、あくまでさり気なさを装って『大雅』『椋』と呼び合う事に成功した。
まあ、呼び捨てにはして貰えなかったが、ムク犬の小さな口から発せられる『大雅くん』の響きは思った以上に心地よく耳を擽った。
俺も想いを込めて『椋』と呼び返す。
少しだけ近づいたムク犬との距離に嬉しさを抑えられずに頰を緩めていると、いつの間にか隣りに熊谷がきていた。
「王子~、ニマニマしてるとこ悪いけど午後からはパートナーチェンジだからねぇ」
そんなにニヤついていたか…!くそっ、ヘンなとこ見てるんじゃねえ!
「…ああ、わかってるさ!」
八つ当たり気味に熊谷に言葉を返したが、なんでコイツが指示だしてんだよ!
さっきの乗馬で九条がしゃしゃり出てこなかったのはひとつの取り決めをしたからだ。
俺と九条は二人で絡むとどうしても冷静さを失いがちになる。それでまた昨日のような事を起こす訳にはいかないと、ひとつの取り決めをした。
…何故か熊谷の仕切りで。いや、可笑しくねえか?!
押し掛けて来た手前、譲歩はするがアプローチを止める気はサラサラない九条との折り合いをつける形が、ムク犬の傍に行くのを交代制にすると云うもの。
納得はいかないが、またヒートアップしてあんな事を起こしたくはないので渋々了承した。
だが、釈然としない!!九条が退けばそれで済むことじゃねえのかー?!
「大雅くん!バスがきたよー!」
ムシャクシヤする気持ちはムク犬の俺を呼ぶ声で飛んでいった。バスの中で楽しそうに今から向かう蕎麦屋の事を話すムク犬を見て、コイツが楽しく過ごす為なら理不尽なルールも飲んでやるかと思った。
昼食を終え、観光客向けの店が立ち並ぶ通りへと移動した。ここでは買い物を楽しむことになってる。
乗馬なら俺の格好良いところを存分に見せられるし、ムク犬に教えることでポイントを稼げると思い乗馬を取ったが、買い物の方が恋人っぽくねぇか?
くそっ!失敗したか…。
「ムクはなんか見たいもんあるか?」
「う~ん、そうだねぇ。家族へのお土産を探したいな、あとここにしかない食材とか見てみたいかも!」
「よしっ!じゃあ色んなとこ見てみようぜ」
「うんっ!」
愉しげに会話をする九条とムク犬を視界に収めつつ俺は小西と連れ立っていた。
桜木は卯月と、牛島はバンビと、熊谷はシマリスと、あちこちの店を覗いている。
なんでペア行動になったかっつーと、調理部以外のメンバーが固まっていると騒ぎになってしまうからだ。俺達がインディーズアイドルだなんて噂が出回ってるらしく、行く先々で騒ぎになり追っかけみたいな奴らまで出て来た。
それで仕方なく分散するようにしたんだが、団体でならペア行動でもまだムク犬の傍に居れたのに、なんでこうも次から次へと邪魔が入るんだよ?!
「宍倉くん~。不本意なのは分かるけど仏頂面してるとむっくんが怖がるよ~」
ムク犬が九条と組むと当然残るのは俺と小西で、その小西がフンワリと俺に注意をしてきた。
「っ…!えっと…、小西は気付いてたりするの?その…、俺の椋への気持ちとか…」
更衣室でのムク犬のカモネギ発言にやんわりと反対していた小西に、気になっていた事を聞いてみる。
「あはは。この中で気付てない人なんてむっくんとシマくらいだと思うよ~。って云うか体育祭であれだけ露骨にアプローチしているんだから今更でしょ~?」
あ~、そりゃそうか。本人にはまっったく届かなかった体育祭での捨て身のアプローチは全校生徒が見てたんだもんなあ。
「だから僕もちょっとだけ協力したげようかと思ってね。むっくんの恰好可愛いでしょ?」
今日のムク犬コーデはコーラルオレンジのタイトなパーカーにアイボリーのパンツで淡く纏められていて勿論可愛い。
「え?あれ小西の仕業なの?」
「そう。宍倉くん、本当はむっくんと二人で避暑地に来たかったんでしょ?でも駄目だったから調理部ごと誘ったんだよねぇ」
見透かされてる…。
「そこまで頑張った宍倉くんにお邪魔虫なりのせめてものご褒美って言うか、お礼がわりにねー。おねーさんもむっくんに着て欲しがってたから、可愛くコーディネートしたむっくんの写真を撮っておねーさんに送ってるんだぁ」
宍倉くんもいる?と小西が携帯を取り出して聞いてきたので速攻で頷いた!アドレスを交換し写真を送ってもらうと、そこにはここ数日のプリティーファッションなムク犬の写真が何枚も収められていた。なんとシッポ付ウェアの写真まである!
あまりの可愛いさにだらしなく頰が緩むのが分かるが止まらない。
「…宍倉くんは本当にむっくんが好きなんだねぇ」
そんな俺の姿に少し呆れを含みながら笑っている小西。
…コイツは親友に男がアプローチしてるのに気にならないのだろうか…。
「小西は俺が椋に近づくの反対じゃないのかい?その、男同士だし…」
「僕はむっくんがそれを望むんならそう言うのは気にしないよ~。むっくんが付き合いたいって思うんなら、宍倉くんとでも九条くんとでも応援するよ」
九条への応援は余計だが、ムク犬と仲の良い小西の協力が得られるのは大きなアドバンテージだ。九条への応援はしなくていいからなっ。
「有難う!色々予定通りに行かなくて正直ちょっと焦ってたんだけど、小西にそう言って貰えて心強いよ」
「どう致しまして。宍倉くんの気持ち、むっくんに届くといいねぇ」
そう言いながら小西はフンワリと笑った。
俺がハーフだと云うことを知らなかったムク犬。
俺のルックスで近づいてくる奴らならすぐに勘づくし、自分から言うことでもねぇからと考えてみれば話した事はなかったな。
この事を初めて知ったムク犬は、驚愕と少しの寂しさを感じさせる顔で俺を見てきた。
俺と仲良くなれたと喜んでいたから知らなかったことがショックだったようだ。
ムク犬にショックを受けさせた事を申し訳なく思う反面、ムク犬は俺の外見ばかりを見ているんじゃないと言うことに喜びを覚える。
そしてその顔をみてチャンスだと思った俺は予てから思っていたことを実行に移した。
だいたい九条も熊谷も下の名前どころか愛称呼びだと言うのに、俺の事はずっと名字呼びのまま。
これはムク犬のポチ意識のせいなのかも知れないが、俺がおまえになって欲しいのはペットじゃなくて恋人なんだよっ!
そんな内心の叫びはおくびにも出さず、あくまでさり気なさを装って『大雅』『椋』と呼び合う事に成功した。
まあ、呼び捨てにはして貰えなかったが、ムク犬の小さな口から発せられる『大雅くん』の響きは思った以上に心地よく耳を擽った。
俺も想いを込めて『椋』と呼び返す。
少しだけ近づいたムク犬との距離に嬉しさを抑えられずに頰を緩めていると、いつの間にか隣りに熊谷がきていた。
「王子~、ニマニマしてるとこ悪いけど午後からはパートナーチェンジだからねぇ」
そんなにニヤついていたか…!くそっ、ヘンなとこ見てるんじゃねえ!
「…ああ、わかってるさ!」
八つ当たり気味に熊谷に言葉を返したが、なんでコイツが指示だしてんだよ!
さっきの乗馬で九条がしゃしゃり出てこなかったのはひとつの取り決めをしたからだ。
俺と九条は二人で絡むとどうしても冷静さを失いがちになる。それでまた昨日のような事を起こす訳にはいかないと、ひとつの取り決めをした。
…何故か熊谷の仕切りで。いや、可笑しくねえか?!
押し掛けて来た手前、譲歩はするがアプローチを止める気はサラサラない九条との折り合いをつける形が、ムク犬の傍に行くのを交代制にすると云うもの。
納得はいかないが、またヒートアップしてあんな事を起こしたくはないので渋々了承した。
だが、釈然としない!!九条が退けばそれで済むことじゃねえのかー?!
「大雅くん!バスがきたよー!」
ムシャクシヤする気持ちはムク犬の俺を呼ぶ声で飛んでいった。バスの中で楽しそうに今から向かう蕎麦屋の事を話すムク犬を見て、コイツが楽しく過ごす為なら理不尽なルールも飲んでやるかと思った。
昼食を終え、観光客向けの店が立ち並ぶ通りへと移動した。ここでは買い物を楽しむことになってる。
乗馬なら俺の格好良いところを存分に見せられるし、ムク犬に教えることでポイントを稼げると思い乗馬を取ったが、買い物の方が恋人っぽくねぇか?
くそっ!失敗したか…。
「ムクはなんか見たいもんあるか?」
「う~ん、そうだねぇ。家族へのお土産を探したいな、あとここにしかない食材とか見てみたいかも!」
「よしっ!じゃあ色んなとこ見てみようぜ」
「うんっ!」
愉しげに会話をする九条とムク犬を視界に収めつつ俺は小西と連れ立っていた。
桜木は卯月と、牛島はバンビと、熊谷はシマリスと、あちこちの店を覗いている。
なんでペア行動になったかっつーと、調理部以外のメンバーが固まっていると騒ぎになってしまうからだ。俺達がインディーズアイドルだなんて噂が出回ってるらしく、行く先々で騒ぎになり追っかけみたいな奴らまで出て来た。
それで仕方なく分散するようにしたんだが、団体でならペア行動でもまだムク犬の傍に居れたのに、なんでこうも次から次へと邪魔が入るんだよ?!
「宍倉くん~。不本意なのは分かるけど仏頂面してるとむっくんが怖がるよ~」
ムク犬が九条と組むと当然残るのは俺と小西で、その小西がフンワリと俺に注意をしてきた。
「っ…!えっと…、小西は気付いてたりするの?その…、俺の椋への気持ちとか…」
更衣室でのムク犬のカモネギ発言にやんわりと反対していた小西に、気になっていた事を聞いてみる。
「あはは。この中で気付てない人なんてむっくんとシマくらいだと思うよ~。って云うか体育祭であれだけ露骨にアプローチしているんだから今更でしょ~?」
あ~、そりゃそうか。本人にはまっったく届かなかった体育祭での捨て身のアプローチは全校生徒が見てたんだもんなあ。
「だから僕もちょっとだけ協力したげようかと思ってね。むっくんの恰好可愛いでしょ?」
今日のムク犬コーデはコーラルオレンジのタイトなパーカーにアイボリーのパンツで淡く纏められていて勿論可愛い。
「え?あれ小西の仕業なの?」
「そう。宍倉くん、本当はむっくんと二人で避暑地に来たかったんでしょ?でも駄目だったから調理部ごと誘ったんだよねぇ」
見透かされてる…。
「そこまで頑張った宍倉くんにお邪魔虫なりのせめてものご褒美って言うか、お礼がわりにねー。おねーさんもむっくんに着て欲しがってたから、可愛くコーディネートしたむっくんの写真を撮っておねーさんに送ってるんだぁ」
宍倉くんもいる?と小西が携帯を取り出して聞いてきたので速攻で頷いた!アドレスを交換し写真を送ってもらうと、そこにはここ数日のプリティーファッションなムク犬の写真が何枚も収められていた。なんとシッポ付ウェアの写真まである!
あまりの可愛いさにだらしなく頰が緩むのが分かるが止まらない。
「…宍倉くんは本当にむっくんが好きなんだねぇ」
そんな俺の姿に少し呆れを含みながら笑っている小西。
…コイツは親友に男がアプローチしてるのに気にならないのだろうか…。
「小西は俺が椋に近づくの反対じゃないのかい?その、男同士だし…」
「僕はむっくんがそれを望むんならそう言うのは気にしないよ~。むっくんが付き合いたいって思うんなら、宍倉くんとでも九条くんとでも応援するよ」
九条への応援は余計だが、ムク犬と仲の良い小西の協力が得られるのは大きなアドバンテージだ。九条への応援はしなくていいからなっ。
「有難う!色々予定通りに行かなくて正直ちょっと焦ってたんだけど、小西にそう言って貰えて心強いよ」
「どう致しまして。宍倉くんの気持ち、むっくんに届くといいねぇ」
そう言いながら小西はフンワリと笑った。
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