オネエとヤクザ

ちんすこう

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第四章:The Catcher in the "Lie"

4−4

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 「【禁じられた果実】を一般人に売って稼ぎたいんでしょう。夜の街ってのは薬物売買の温床にするにはちょうどいい……。
 それに【EDEN】は歌舞伎でもピカイチの繁盛店っすから、ここを起点に他の店を合併なり吸収なりして拡大していけば、俺らに気付かれず水面下で彩極のシマを拡げていける」

 「それにしても、わざわざ影武者を立てて身分を隠してまでかしらみずからが働くってのは……」

 奇妙な話ね、と言うミフユに狗山も同意する。

 「ホストなんて、顔売ってなんぼの商売ですからね。
 遥斗ホストとして有名になればなるほど水無月ヤクザの顔を出すわけにはいかなくなって、裏の世界では影武者なしじゃ身動きもとれない状態だったんです。
 うちの稼ぎを奪おうとしたにせよ、効率が悪すぎる。

 半分道楽でやってるのか、何か理由があるのか分かりませんが」

 不自然な点があり、突飛な話に聞こえるが、辻褄は合う。
 竹下の射殺についても、あのとき店にいた遥斗なら撃てたはずなのだ。【EDEN】のオーナーなら竹下を狙撃した後にうまく逃げることもできただろう。

 クスリと性を売ることによる、鳳凰組領域の乗っ取り作戦。

 それが水無月の目的だったのだ。


――ただ、そんなことよりも。


 (アキちゃん)

 その男をひたむきに想っていた彼女が脳裏に浮かんだ。

 事情を知らない狗山は淡々と語るが、二人の関係を間近で見ていたミフユはアキが気がかりでならなかった。

 そんなアキは今日、まだ出勤していない。
 具体的な証拠は何もないにもかかわらず、嫌な予感がした。

 「伊吹ちゃんは、その話をアタシに伝えるって言ってたのね」

 抑揚を抑えた声で問う。
 この話を聞いた伊吹は、どう思っただろう。

 (アキちゃんを心配したに決まってる。あいつは優しいから)

 だから、遥斗とアキの関係を知っている彼本人からこのことをミフユに伝えようとしたのだろう。

 「ええ。明朝に俺のもとに報告が上がったんで、その後に兄貴に電話で報告しまして、そのときに……」

 「それ、何時頃の話?」

 剣呑な口調で尋ねると、狗山はややのけぞって両手を挙げる。『降参』みたいなポーズだ。

 「えっと、ちょっと曖昧なんすけど、まだ朝でした。昼前くらい」

 「来てないのよ。アタシのところには」

 その時間ミフユは眠っていたが、玄関のベルを鳴らされれば目が覚めたはずだ。それに……。

 「もし何かの理由があって、途中で予定を変更したにしろ……携帯に留守電くらい残せるわよね」

 狗山もそれは考えていたようで、不安をちらつかせる。

 遥斗の正体と、欠勤したアキ。伊吹の失踪。

 三つの点が浮かび上がる。


 詳細は分からないにしろ、何かが起きている。


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