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第四章:The Catcher in the "Lie"
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言うが早いか、ミフユは床を強く蹴り出して二人の前に躍り出た。
相手が反応できない速度で身を屈めて、水無月の鳩尾を蹴り上げる。
紺スーツの体が吹っ飛んでいく間に、伊吹の拘束を引き千切ってやった。
「伊吹!」
やっと四肢が自由に使えるようになり、すぐ起き上がろうとした伊吹は、しかしこちらに倒れ込んできた。
その身体が異様に熱いことに気付き、ミフユは血相を変える。
「まさか」
「構うな。バランス崩しただけだ」
伊吹はそう言って、支えるミフユの手を押し退ける。だが呼吸も荒く、とても平気そうには見えない。
(EDENのときと同じ)
そういえば囚われていたはずの伊吹に、目立った外傷は見られなかった。水無月の目的が自分の秘密を知る者のあぶり出しにあるのなら、軽い脅しなり拷問なりの跡があってしかるべきだ。
――それが無いとすれば、目には見えづらい痕跡があるのでは。
「薬を使われたの!?」
伊吹は、これには渋々頷く――情報を吐かせる手段としては珍しくないやり口だ。
舌を打つ。
今すぐにでも病院に放り込みたい気持ちだったが、ミフユは唇を噛み尋ねた。
「まだやれるのね?」
伊吹は、この状況で先に逃げろと言われて逃げ出すような男じゃない。
「おう」
案の定頷いて、ミフユの手を離れた。こうなれば、限界が来るまで見守っているしかない。
「もう――もおぉ……無茶はしないでよ」
「……わかってる」
溜め息をつき、仕方なく言い聞かせると伊吹が笑った。
その笑顔にどこか懐かしさを感じていると、床を踏む靴音がしてはっと我に還る。
蹴り飛ばした水無月がゆらりと立ち上がっていた。
ミフユは咄嗟に伊吹を庇いかけたが、伊吹はそれを退けて隣に並ぶ。
「俺は、アキの分まであいつをぶっ飛ばさなきゃならねえんだ」
「……奇遇ね。アタシもなのよ」
二人して身構える向こうで、水無月はふらふらと立った。そして小さく笑ったが――上げられた顔には一切の表情がない。
「不快ですね」
放たれる声は、さっきと変わらない明朗なトーンだったが、どこかぴりついていた。
「僕とお前を同列に語るのか?」
硬い靴音を立てて進みながら、行く道に転がっていたパイプ椅子を蹴り飛ばす。弾かれていった椅子は近くの柱に当たって落ち、けたたましい音を鳴らした。
それを気にかけることもなく水無月は歩いてきて、ミフユたちに対峙する。
「僕は『この自分こそが僕である』と断言しましょう。遥斗は理想なんかじゃない、ただの現実だ。
お前やあのオカマのような――化物と一緒にするな」
殴りかかったのは、伊吹だった。
水無月はすかさず応戦するが、手負いの伊吹に対して苦戦する。ミフユはそんな二人にゆっくりと歩み寄りながら、笑った。
「長いあいだ仮面をかぶり続けて取り方を忘れた?
でも安心しろよ、いくら馴染んでいても溶けてくっつくなんてことはねえから。
所詮、素顔は醜いてめえなんだ。
お前はどこまでいっても遥斗にはなれない。醜い水無月春悟だ。
ただの意地汚い化物だよ」
相手が反応できない速度で身を屈めて、水無月の鳩尾を蹴り上げる。
紺スーツの体が吹っ飛んでいく間に、伊吹の拘束を引き千切ってやった。
「伊吹!」
やっと四肢が自由に使えるようになり、すぐ起き上がろうとした伊吹は、しかしこちらに倒れ込んできた。
その身体が異様に熱いことに気付き、ミフユは血相を変える。
「まさか」
「構うな。バランス崩しただけだ」
伊吹はそう言って、支えるミフユの手を押し退ける。だが呼吸も荒く、とても平気そうには見えない。
(EDENのときと同じ)
そういえば囚われていたはずの伊吹に、目立った外傷は見られなかった。水無月の目的が自分の秘密を知る者のあぶり出しにあるのなら、軽い脅しなり拷問なりの跡があってしかるべきだ。
――それが無いとすれば、目には見えづらい痕跡があるのでは。
「薬を使われたの!?」
伊吹は、これには渋々頷く――情報を吐かせる手段としては珍しくないやり口だ。
舌を打つ。
今すぐにでも病院に放り込みたい気持ちだったが、ミフユは唇を噛み尋ねた。
「まだやれるのね?」
伊吹は、この状況で先に逃げろと言われて逃げ出すような男じゃない。
「おう」
案の定頷いて、ミフユの手を離れた。こうなれば、限界が来るまで見守っているしかない。
「もう――もおぉ……無茶はしないでよ」
「……わかってる」
溜め息をつき、仕方なく言い聞かせると伊吹が笑った。
その笑顔にどこか懐かしさを感じていると、床を踏む靴音がしてはっと我に還る。
蹴り飛ばした水無月がゆらりと立ち上がっていた。
ミフユは咄嗟に伊吹を庇いかけたが、伊吹はそれを退けて隣に並ぶ。
「俺は、アキの分まであいつをぶっ飛ばさなきゃならねえんだ」
「……奇遇ね。アタシもなのよ」
二人して身構える向こうで、水無月はふらふらと立った。そして小さく笑ったが――上げられた顔には一切の表情がない。
「不快ですね」
放たれる声は、さっきと変わらない明朗なトーンだったが、どこかぴりついていた。
「僕とお前を同列に語るのか?」
硬い靴音を立てて進みながら、行く道に転がっていたパイプ椅子を蹴り飛ばす。弾かれていった椅子は近くの柱に当たって落ち、けたたましい音を鳴らした。
それを気にかけることもなく水無月は歩いてきて、ミフユたちに対峙する。
「僕は『この自分こそが僕である』と断言しましょう。遥斗は理想なんかじゃない、ただの現実だ。
お前やあのオカマのような――化物と一緒にするな」
殴りかかったのは、伊吹だった。
水無月はすかさず応戦するが、手負いの伊吹に対して苦戦する。ミフユはそんな二人にゆっくりと歩み寄りながら、笑った。
「長いあいだ仮面をかぶり続けて取り方を忘れた?
でも安心しろよ、いくら馴染んでいても溶けてくっつくなんてことはねえから。
所詮、素顔は醜いてめえなんだ。
お前はどこまでいっても遥斗にはなれない。醜い水無月春悟だ。
ただの意地汚い化物だよ」
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