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22【お兄ちゃんの花嫁衣裳】
しおりを挟む「お兄さま……お美しいですわ」
「ええ、本当に。それに凛々しくて、すごく格好良いわ」
「奥様のご慧眼、おみそれいたします」
エドワードが持ってきたのは、白いタキシードだった。
ジャケットもスラックスも光沢のある白で統一された、最高級の雰囲気が漂う逸品だ。
骨格がしっかりしていて筋肉も適度についているユーリがそれを身にまとっていると、その場に佇んでいるだけで存在感を放つ。
形は三つ揃えで、中にはダークブラウンのベストを合わせていた。
ネクタイは落ち着いた同系色のものを当てられている。
女装も和装も着こなしてしまう身体だけど、やっぱり教会式で新郎が着るようなこの服が一番似合っている気がした。
「いかがでしょう。
もちろん、ユーリ様が気に入られたものをお召しになるのがよいとは存じますが」
「ああ……このタキシード、いいんじゃないか」
顔も知らないけど、ユーリのお母さんが見立てた衣裳だと言うし。
首を縦に振ると三人も満足げに頷いて、服装はこれで決まりという雰囲気になった。
「こちらの御衣裳でしたら、ウィングフィールド様の服装も合わせやすいと思われます。
式場で紳士が二人、新たな家庭を築く宣言をするというのは、対外的にも見栄えがするでしょう。
……失礼」
言いながら、エドワードが俺の胸元に目を留めた。
すっと手が伸びてきて、胸ポケットに入っていたハンカチを整える。
「ここはもう少し出しておいたほうが、見た目が美しいです」
「あ、ありがとう」
ネクタイといいハンカチといい、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるので照れ臭くなる。まさにお坊ちゃん扱いというか、いっそ新妻のごとく献身的な感じで。
エドワードは今日オールバックではなく、前髪を下ろしていた。
ポケットをいじるために頭を下げた拍子に、その艶やかな黒髪がさらりと零れ落ちる。
隙間から見える目は、伏し目がちになると睫毛が長く、どこかそわそわする心地になった。
「――よいでしょう。これで坊っちゃんの魅力が充分に引き立ちます」
左胸のポケットを軽くぽんと叩いて、エドワードの体が離れていく。
顔を上げた彼は、ふと感情の読めない瞳で俺をじっと見つめた。
「……エドワード……?」
どぎまぎしつつ、しばらく視線を受け止める。
間に耐えかねて名前を呼ぶと、ハッとした様子で目を見開いた。
「――お小さかった坊っちゃんもご結婚される年になるとは、立派になられましたね」
「う、うん」
「相手が彼だという点に関しては若干思うところがなくもありませんが、ユーリ様は本当に素晴らしい」
「あはは……」
奏とそりが合わないのをちらつかせつつ褒め散らかすエドワードに乾いた笑いが零れるが、この格好で喜んでもらえたならひとまず良しとしよう。
「エドワードさん×ユーリ様……いや、ここは“あえての”逆かしら……? じゅるり」
「ユマ、貴女いったん自分の顔を鏡で確かめなさいまし……」
女子二人が楽しげに話し込んでいる前で、エドワードとむずがゆい微笑み合いを繰り広げていると、またもや試着室もとい俺の部屋のドアがノックされた。
「兄ちゃん、入ってもいい?」
「奏か。ちょうどよかった、入っていいぞ」
ついでに新郎にも決まった衣裳を見てもらおう。
返事をすると、「開けるね」と一声かけて奏が扉を開いた。
「なあ奏。どうかな?」
「――え」
「お前が人参を苛めてる間に、当日着る服を考えてたんだけ」
「う゛っ!!!!!!!!」
「は!?」
『ど』と言い終わる前に、奏は左胸を抑えてその場で膝から崩れ落ちた。
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