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24【弟、お兄ちゃんと指輪交換をする】
しおりを挟むユーリとカイの結婚式――兼、デイビッドを迎え撃つ準備は着々と進んでいき、いよいよ式当日になった。
「ユーリ様。こちらのお花を」
控え室でエドワードが俺の身支度を手伝ってくれて、最後の仕上げに薄いピンクの花を差し出した。
それを胸ポケットに挿して、正面の鏡を見る。
「……うぉ……」
そこには、思わず声が漏れてしまうほどの絶世の美男子が立っていた。
馬子にも衣裳ならぬ美青年に衣裳。鬼に金棒だ。
今日は正式な場ということで、金髪は後ろに撫でつけてあった。
そのおかげでユーリのご尊顔が惜しみなく曝け出されていて、辺り一帯がきらきら輝いている幻覚まで見えてくる。
「リチャード様のお若い頃を思い出します」
「そうか? エドワードの仕立てが上手なんだな」
「畏れ多いお言葉でございます」
いつも以上ににこにこと温かい笑みを浮かべているエドワードは、部屋の時計を確認して頷いた。
「そろそろお時間でございますね」
「ああ」
「私は会場の安全確認をしてまいりますので、少々こちらでお待ちください。
ウィングフィールド様のほうの準備ももう整っているはずですから」
そう言い残して控え室を出ていく。
控え室、って言っても、世界史の資料集に載っていそうな豪華な一室だけれども。
奏が式場に設定したのは、ホワイトハート邸ではなかった。
選ばれた場所は――国を統治する王が住む、宮殿だ。
この国は都の中心に大きな宮殿が築かれていて、王族の人たちはみなここに住む。
王様たちが生活している部屋はもちろん非公開だが、宮殿には招待客をもてなすための空間も存在する。
そのひとつが宮殿の中心をくり抜いて作られた広い庭園だ。
周りをバラの生垣に囲まれ、青々した芝生の上にテーブル席がセッティングされている。
日頃はここでお茶会なんかが催されているそうだが、俺たちはこの庭を式場として使わせてもらう。
庭園へは奏と一緒に入場することになっているので、エドワードに言われたとおり部屋で待機していると、それほど待たずにドアが叩かれた。
「どうぞ」
答えると、ゆっくりドアが開いていく。
開いた扉の向こう側から、黒いタキシードに身を包んだ奏が現れた。
その姿を見て、俺は……息を呑む。
シルクで出来たタキシードは、奏の容姿の魅力を最大限引き出している。サイズがぴったり合っていて、均整の取れた体つきを強調する。
髪は肩の位置で横に結ばれ、いつもの青いリボンで括られていた。
「似合うじゃん」
褒めると、奏は照れたように笑う。
「兄ちゃんには負けるよ」
「そんなことないって。かっこいい」
奏は頬をほんのりと赤く染めて、嬉しそうに近付いてくる。
そして俺の肩に触れると、上から下までを見渡した。
「……ねえ、兄ちゃん。ひとつお願いしてもいいかな」
「何を?」
長い睫毛をまばたかせた奏は、俺の顎を掬って顔を上げさせる。
「今だけ“羽白ゆう”に戻ってくれない?」
「いいのか? ……って、できるのか?」
こいつのことだからもっとツッコミどころのあるお願いかと思ったが、予想外の頼みだったので面食らう。それくらいなら構わないけども。
でもユーリのほうが綺麗だし、この衣裳も似合うだろうに。
しかし奏は頷いて、はっきり断言した。
「俺は“ゆう兄ちゃん”がいいし、できるよ。
と言っても、幻影魔法の一種だけどね。
俺の記憶の中の兄ちゃんをユーリの身体に投射するんだ」
「なるほど。――お前がそうしたいなら、どうぞ」
ん、と顎をしゃくると、奏は喜んで呪文を詠唱する。
「うわ……っ」
ぶわりと下から突風が吹いてきて、髪が巻き上げられる。
全身を風に舐められるような感覚がしたあと、吹き荒れていた風が落ち着いていった。
目を開けて、奏の瞳に映る自分を確認する。
「……ゆうくん」
「おー、俺だぁ。すごいな」
見開かれた瞳の中に、十八年よく見てきた顔が映っていた。
髪型や服はそのまま、顔だけが元の俺に戻っている。
いやぁ、やっぱり本当の俺じゃこの格好はきついなぁ、と笑い飛ばそうとすると――――奏の瞳いっぱいに涙があふれた。
「え? ちょ、なんで泣くんだよお前」
「兄ちゃん」
がばりと抱き着かれて、力いっぱい締めつけられる。
押し潰されそうになって、慌てて奏の肩を叩いた。
「うっ! 苦しい! 潰れるって、奏」
「すき……」
おい、と言いかけた声が引っ込む。
体にじんわりと広がっていく奏の体温を感じながら、高い位置にある頭を撫でた。
「……大丈夫だよ。どんな顔してたって、俺はここにいる」
「うん。……でも、またこの姿を見れて、嬉しい……」
きつく抱き締めていた腕が少し緩んで、見つめ合う。
俺の顔にあちこち触れ、形を確かめるようにして、奏は一粒だけ涙を落とした。
潤んだ目に俺の顔がよく映る。
素の自分が奏とこうしていると思うと、ちょっと恥ずかしかった。
「今日は、色々決着をつけるための式だけど……それだけじゃないから」
そう言うと、奏はポケットから青い小箱を取り出した。
「俺は本当に兄ちゃんと結婚するつもりでここに来たし、必ず幸せにしてみせる」
箱を開けると、中に銀色の指輪がふたつ輝いていた。
「お前……これ」
「うん。結婚指輪」
翼の模様が彫り込まれたリングの中心に、透明な石が嵌め込まれている。
「いつ用意したんだよ。そんな暇あったっけ?」
「まあ、そこは魔法って便利ですよねってことで」
奏は笑うと、そのうちの小さい方を取って俺の左手を持った。
薬指に指輪が当てられ、するすると嵌まっていく。
第二関節の少し下まで降りると、その位置に収まった。
きらりと光るダイヤを眺めていると、今度は右手をそっと握られた。
「兄ちゃんも。もし、嫌じゃなければ……」
そこに奏の分の指輪が入った箱を渡される。
ここに来て急に弱気になる奏がおかしくて、吹き出してしまった。
「分かってるよ。俺もここまでついてきた以上は腹を括ってる。
俺だって、奏を幸せにするよ」
笑って、もう一つの指輪を奏の左薬指に嵌めてあげた。
「……やばい、手が震える」
「違うよ、兄ちゃんじゃなくて俺の手が震えてるんだよ。緊張で……」
「どっちもだろ」
笑い合って、きちんと交換を終える。
それからどちらからともなく顔を寄せて、ゆっくりと瞼を下ろした。
今だけはカイとユーリじゃなく、奏とゆうで。
兄弟、二人だけの部屋で唇を重ねた。
俺にかけられた魔法はその一度のキスで解けて、閉じた目を開くとユーリの姿に戻っていく。
「行こうか」
「……ああ」
俺に向かって手を差し伸べてくる奏。
握った手は、よく知っているあたたかさだった。
――幼い頃は、俺がこうして奏を引っ張ってあげた。覚えている。
俺たちは部屋を出て廊下を渡り、庭園に続く大きな扉を開く。
建物の中から出ると、石畳の通路の上に真っ赤な絨毯が敷かれていた。
奏と手を取り合ってそのバージンロードを進んでいくと、白いクロスが掛けられた丸テーブルの席から招待客たちが拍手喝采で出迎える。
結婚行進曲が流れる中で、ゆっくりと正面まで進んでいった。
一般的な結婚式と違うのは、俺たちの席は向かって右側に用意されていて、真正面には国王陛下と皇后が鎮座しているという点だ。
王様はまさにそれっぽい恰幅の良いおじさんで、お妃さまは花が綻ぶように笑う綺麗な奥さんだった。二人とも頭に金ぴかの冠を戴いている。
二人の前まで来ると繋いでいた手を解いて、王国式の礼をした。
「頭を上げよ」
王の許可を得て顔を上げると、やわらかい表情をしたおじさんが厳かな口調で言う。
「ウィングフィールド伯爵。ホワイトハート子爵。貴公らの未来に、幸があらんことを」
この国では、王様が神父様の代わりを務めるらしい。
奏と合わせてもう一度頭を下げて、自分たちの席に着く。
そこから司会進行役の臣下が口上を始めて、本格的に式が始まった。
原作では、最終回でカイとユマが愛を誓うクライマックスのシーンだ。
が、ここでのユマは客席で涙を流している。
本編ではこの場にいないはずのレジーナもその隣でユマにドン引きしつつ、複雑な表情で俺たちを眺めていた。
「それでは新郎のお二人から、スピーチをお願いします」
司会のお兄さんににこやかに勧められて、まずは奏が立つ。
「はいはいはーい」
公の場とは思えない、ユルーい返事をしてマイクを手にした奏は、客席に向かって笑いかけた。
「本日は私たちの結婚式に参加いただき、誠にありがとうございます。
と、長い挨拶は校長の特権だと思うのでめんどくさいスピーチは省きますが」
何を言うのかと思えば、奏は不敵な笑みを浮かべたまま、会場のある一点を見つめた。
「このユーリ・ホワイトハートは、俺が幸せにします。
俺はゆうだけを愛し、俺がそうするようにゆうは俺のみを愛するに違いありません。
なので、テメーにつけ入る隙はありません」
そう言い放ち、びしりと奏が人差し指を向けた先には――
「エドワード・スミス」
――感情の読めない微笑みを浮かべて佇む、執事がいた。
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