悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。

ちんすこう

文字の大きさ
38 / 53

26【奏の推理2】

しおりを挟む

「次元の外からやってきたあなたたちには、世界を変える力がある。
 そして坊っちゃんの運命を変えるなら、入れ替えるべきはユーリ様自身と……ユーリ様を討つと確定している、カイ・ウィングフィールドだというのが私たちの考えでした」

「ならなおさら俺たちが適役だったわけだ。俺は運命がどう転ぼうが、絶対に兄ちゃんを殺さないから」


 断言した奏に、エドワードが同意する。


「復讐を遂げる前にユーリ様を殺されては困る。
 私たちが打ち出した条件に見合ったのは、あなた方だけでしたね。
 後は……なんでもいいのです。
 デイビッドを討つ。

 それができるなら、ユーリ様は己が身に代えてもいいと仰っていた……」


 そう言って、エドワードは唇を引き結んだ。


「本物のユーリとカイはどこにいるんだ……?」


 ずっと気になっていた疑問をぶつけると、微かな声で答えが返ってきた。


「ウィングフィールド様は、おそらくどこかで生きておられます。奏様は私が契約を持ちかけた時点でご存命だったので、二人は生きた状態で位置交換されたのです。
 ですが、ユーリ様は……」

 俺は、ユーリの身体を借りて生まれ変わった。
 それなら、ユーリの魂は俺の身体に入ったんじゃないのか?

「兄ちゃんが元の体のままこっちに来なかったのは、来れなかったからかもしれない、ってことか」
「……どういうこと?」

 というか、俺がユーリの姿にされたのは悪役令息にふさわしくない地味顔だからじゃなかったのか。
 なんて、自虐混じりに言える空気じゃない。
 奏は目を細めて俺から顔を逸らした。

「兄ちゃんの体、落ちたときに潰れちゃったかもしれないから」
「落ちて……」

 さっき見た光景が蘇る。
 あれは、本当に起きたことだったのか。


「――あんたはそれでよかったのか。
 これから俺たちがデイビッドを倒したとして、その後は?」


 強引に話題を変えて、奏がエドワードに問う。


「ユーリの命に代えても、デイビッドを殺せればそれでいいって?」

「……私は、主人の命令に従うだけです。
 それが望みだと言われれば、拒否する権利はありません」


 今度はエドワードが話を切り上げて、俺たちを見つめた。


「あなたがたをこの世界に招いてから、小さな出来事を少しずつ改変してきました。
 その皺寄せが、もうすぐここに集結するでしょう」


 奏が俺を振り向く。
 心の準備ができているかを問われた気がして、頷き返した。
 それを見て奏がエドワードのほうを向く。


「いいよ。俺たちは今日ここに、全ての決着をつけるために来たんだ。
 俺の兄ちゃんは誰にも傷付けさせない。
 俺たちはこの話をちゃんと終わらせて――

 ――それで、新婚旅行に行く」


 奏が宣言したと同時に。


「悪逆非道の冷血漢、ユーリ・ホワイトハートぉおおおお!!!」


 気の抜けるお決まりの罵倒と、つるんとしたおでこが突入してきた。


「私は!! 貴様が一人ぬけぬけと幸せになるなど、承知せんぞっ!」

「……いやなんでお前がここで出てくるんだよ! デイビッドが来るとこだろここは!?」


 俺の渾身のツッコミは聞き入れられず、フレデリックは鼻を鳴らして闘牛のごとく式場に乗り込んできた。
 お前が来たらなんか緊張感ゆるんじゃうだろ?!


「フレデリック……! お前、生きてたのかよ」
「人を勝手に殺すな!」


 いつも通り元気よく叫ぶ男爵さんに辟易する。
 奏から、こいつと対決した後どうなったのか聞くのを忘れてた。すぐ出てこれる程度には元気だったらしい。


「オズワルド公、ちょうどよかった。あんたに訊いて確かめたいことがあったんだ」


 そんな闖入者に、奏は笑みを向けた。


「なんだ、ウィングフィールド!? 貴様に用はない!」

「一番はじめに、あの大階段の前で会ったときの話だよ。
 お前はユーリのことを、『子供も老人も関係なく殺戮を行った悪魔』と罵った。覚えているか?」


 フレデリックはぴくりと眉を跳ねさせる。それから、ふんと鼻を鳴らして嘲笑った。


「もちろんだとも。その男は民を搾取し、私欲を満たす外道だからな」

「東セントレア村の住人を集団処刑する計画が、先日中止になったことは知ってるか?」


 しかし、それを聞いた瞬間フレデリックの顔色が変わる。


「えっ……?」

「あんたはユーリを大量虐殺ホロコーストを起こした戦犯だと言ったけど、そんな事実はないんだ。兄ちゃんは罪もない人たちを殺すなんて絶対にしないからな。

 ――もし計画が予定通りに実行されていれば、ちょうどあのパーティが開かれる前くらいに起きていたはずだけど」

「な、なにを」


 見るからに動揺しているフレデリックに、奏は言葉を突きつける。


「あんた、村で虐殺が起きることを元々知っていたんじゃないか?」


 しんと静まり返っていた客席に、どよめきが走る。


「オズワルド公は、民が苦しんでいるのを見てホワイトハート子爵を討伐しに来たんじゃない。
 子爵を殺すのが目的で、庶民の保護を理由にして乗り込んできたんだ。誰かから前もって計画について知らされてな」


 フレデリックは白い額を真っ赤にして喚く。


「そっ、そんなのは言いがかりだ! 第一、一体誰がそんなことを!」

「それは簡単だ。モーリス伯爵だよ」


 客の中からぽつりと「ユーリ子爵を拉致した、あの……?」と呟くのが聞こえてくる。あの件は他の人たちの間にも知られているらしい。

 それを聞いて、俺はなるほど、と手を打つ。そして、皆に聞こえるように大きな声で言う。


「ユーリに村を潰すよう指示してきたのは伯爵だ。俺は結果的にそれを無視したから、後で伯爵に襲われた」

「わ、私はそんなこと知らないぞッ! 私は人呼んで【純白の貴公子】、無辜むこの民を想ってこそ貴様を成敗しにきたのだ!! 他に貴様を排する理由がどこにある!?」

「あるとも」


 すぐ答えが返ってきて、フレデリックが面食らう。
 奏はそれを見て唇を緩め、左斜めのほうに顔を向けた。――その先にはユマがいる。


「あんたは彼女の幼馴染みだろ?
 あんた、ユマ様に片想いしてるから、元とはいえ彼女の婚約者のユーリが邪魔で仕方なかったんだ」
「えっ?」


 様子を見守っていたユマが声を上げる。そうなの?という顔で見つめられて、フレデリックは耳から丸いおでこまで赤くなっていく。それが答えだった。


「しょっ、証拠もないのにデタラメ言うなっ!!」


 唾を撒き散らしてキレる男に、奏はまたすぐ切り返した。


「ところが、証拠はあるんだ。
 オズワルド公とモーリス伯爵との間で交わされた書簡の写しが」

「何ぃっ!?」


 奏の手に、数枚の紙が現れる。
 今日まで奏が進めていたデイビッド迎撃の準備の中に、もしかするとアレも含まれていたのかもしれない。


「読み上げてもいいけど?
 まずは伯爵が村の虐殺計画について明かしてるところから、あんたの返信。
 愛するユマへのこっぱずかしい告白と、ユーリに対する妬み嫉み。
 ――『モーリス伯爵、私はあなたのお誘いを受けましょう。愛しいユマをあの悪人から救うためなら、私はなんでもいたします。待っていてくれ私のユマ。美しいユマ、可愛いユマ、ああ美しい我が姫』――語彙が貧困すぎでしょ。限界オタクか」

「まっ待て待て待て!! 貴ッ様ァ!!」


 奏が本当にそれを読み上げ始めると……庭が、庭園全体が薄暗くなるほど大きな影に覆われた。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@悪役神官発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...