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26【奏の推理2】
しおりを挟む「次元の外からやってきたあなたたちには、世界を変える力がある。
そして坊っちゃんの運命を変えるなら、入れ替えるべきはユーリ様自身と……ユーリ様を討つと確定している、カイ・ウィングフィールドだというのが私たちの考えでした」
「ならなおさら俺たちが適役だったわけだ。俺は運命がどう転ぼうが、絶対に兄ちゃんを殺さないから」
断言した奏に、エドワードが同意する。
「復讐を遂げる前にユーリ様を殺されては困る。
私たちが打ち出した条件に見合ったのは、あなた方だけでしたね。
後は……なんでもいいのです。
デイビッドを討つ。
それができるなら、ユーリ様は己が身に代えてもいいと仰っていた……」
そう言って、エドワードは唇を引き結んだ。
「本物のユーリとカイはどこにいるんだ……?」
ずっと気になっていた疑問をぶつけると、微かな声で答えが返ってきた。
「ウィングフィールド様は、おそらくどこかで生きておられます。奏様は私が契約を持ちかけた時点でご存命だったので、二人は生きた状態で位置交換されたのです。
ですが、ユーリ様は……」
俺は、ユーリの身体を借りて生まれ変わった。
それなら、ユーリの魂は俺の身体に入ったんじゃないのか?
「兄ちゃんが元の体のままこっちに来なかったのは、来れなかったからかもしれない、ってことか」
「……どういうこと?」
というか、俺がユーリの姿にされたのは悪役令息にふさわしくない地味顔だからじゃなかったのか。
なんて、自虐混じりに言える空気じゃない。
奏は目を細めて俺から顔を逸らした。
「兄ちゃんの体、落ちたときに潰れちゃったかもしれないから」
「落ちて……」
さっき見た光景が蘇る。
あれは、本当に起きたことだったのか。
「――あんたはそれでよかったのか。
これから俺たちがデイビッドを倒したとして、その後は?」
強引に話題を変えて、奏がエドワードに問う。
「ユーリの命に代えても、デイビッドを殺せればそれでいいって?」
「……私は、主人の命令に従うだけです。
それが望みだと言われれば、拒否する権利はありません」
今度はエドワードが話を切り上げて、俺たちを見つめた。
「あなたがたをこの世界に招いてから、小さな出来事を少しずつ改変してきました。
その皺寄せが、もうすぐここに集結するでしょう」
奏が俺を振り向く。
心の準備ができているかを問われた気がして、頷き返した。
それを見て奏がエドワードのほうを向く。
「いいよ。俺たちは今日ここに、全ての決着をつけるために来たんだ。
俺の兄ちゃんは誰にも傷付けさせない。
俺たちはこの話をちゃんと終わらせて――
――それで、新婚旅行に行く」
奏が宣言したと同時に。
「悪逆非道の冷血漢、ユーリ・ホワイトハートぉおおおお!!!」
気の抜けるお決まりの罵倒と、つるんとしたおでこが突入してきた。
「私は!! 貴様が一人ぬけぬけと幸せになるなど、承知せんぞっ!」
「……いやなんでお前がここで出てくるんだよ! デイビッドが来るとこだろここは!?」
俺の渾身のツッコミは聞き入れられず、フレデリックは鼻を鳴らして闘牛のごとく式場に乗り込んできた。
お前が来たらなんか緊張感ゆるんじゃうだろ?!
「フレデリック……! お前、生きてたのかよ」
「人を勝手に殺すな!」
いつも通り元気よく叫ぶ男爵さんに辟易する。
奏から、こいつと対決した後どうなったのか聞くのを忘れてた。すぐ出てこれる程度には元気だったらしい。
「オズワルド公、ちょうどよかった。あんたに訊いて確かめたいことがあったんだ」
そんな闖入者に、奏は笑みを向けた。
「なんだ、ウィングフィールド!? 貴様に用はない!」
「一番はじめに、あの大階段の前で会ったときの話だよ。
お前はユーリのことを、『子供も老人も関係なく殺戮を行った悪魔』と罵った。覚えているか?」
フレデリックはぴくりと眉を跳ねさせる。それから、ふんと鼻を鳴らして嘲笑った。
「もちろんだとも。その男は民を搾取し、私欲を満たす外道だからな」
「東セントレア村の住人を集団処刑する計画が、先日中止になったことは知ってるか?」
しかし、それを聞いた瞬間フレデリックの顔色が変わる。
「えっ……?」
「あんたはユーリを大量虐殺を起こした戦犯だと言ったけど、そんな事実はないんだ。兄ちゃんは罪もない人たちを殺すなんて絶対にしないからな。
――もし計画が予定通りに実行されていれば、ちょうどあのパーティが開かれる前くらいに起きていたはずだけど」
「な、なにを」
見るからに動揺しているフレデリックに、奏は言葉を突きつける。
「あんた、村で虐殺が起きることを元々知っていたんじゃないか?」
しんと静まり返っていた客席に、どよめきが走る。
「オズワルド公は、民が苦しんでいるのを見てホワイトハート子爵を討伐しに来たんじゃない。
子爵を殺すのが目的で、庶民の保護を理由にして乗り込んできたんだ。誰かから前もって計画について知らされてな」
フレデリックは白い額を真っ赤にして喚く。
「そっ、そんなのは言いがかりだ! 第一、一体誰がそんなことを!」
「それは簡単だ。モーリス伯爵だよ」
客の中からぽつりと「ユーリ子爵を拉致した、あの……?」と呟くのが聞こえてくる。あの件は他の人たちの間にも知られているらしい。
それを聞いて、俺はなるほど、と手を打つ。そして、皆に聞こえるように大きな声で言う。
「ユーリに村を潰すよう指示してきたのは伯爵だ。俺は結果的にそれを無視したから、後で伯爵に襲われた」
「わ、私はそんなこと知らないぞッ! 私は人呼んで【純白の貴公子】、無辜の民を想ってこそ貴様を成敗しにきたのだ!! 他に貴様を排する理由がどこにある!?」
「あるとも」
すぐ答えが返ってきて、フレデリックが面食らう。
奏はそれを見て唇を緩め、左斜めのほうに顔を向けた。――その先にはユマがいる。
「あんたは彼女の幼馴染みだろ?
あんた、ユマ様に片想いしてるから、元とはいえ彼女の婚約者のユーリが邪魔で仕方なかったんだ」
「えっ?」
様子を見守っていたユマが声を上げる。そうなの?という顔で見つめられて、フレデリックは耳から丸いおでこまで赤くなっていく。それが答えだった。
「しょっ、証拠もないのにデタラメ言うなっ!!」
唾を撒き散らしてキレる男に、奏はまたすぐ切り返した。
「ところが、証拠はあるんだ。
オズワルド公とモーリス伯爵との間で交わされた書簡の写しが」
「何ぃっ!?」
奏の手に、数枚の紙が現れる。
今日まで奏が進めていたデイビッド迎撃の準備の中に、もしかするとアレも含まれていたのかもしれない。
「読み上げてもいいけど?
まずは伯爵が村の虐殺計画について明かしてるところから、あんたの返信。
愛するユマへのこっぱずかしい告白と、ユーリに対する妬み嫉み。
――『モーリス伯爵、私はあなたのお誘いを受けましょう。愛しいユマをあの悪人から救うためなら、私はなんでもいたします。待っていてくれ私のユマ。美しいユマ、可愛いユマ、ああ美しい我が姫』――語彙が貧困すぎでしょ。限界オタクか」
「まっ待て待て待て!! 貴ッ様ァ!!」
奏が本当にそれを読み上げ始めると……庭が、庭園全体が薄暗くなるほど大きな影に覆われた。
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