出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ

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第二章

仕事仲間のダナ

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「仕事仲間のダナだ。今度の商売を手伝ってもらうことになったんだ」

 そう言ってクレトの紹介した女性は、いつかのホテルからクレトと共に出てきた女性だった。

 エステルがクレトの邸に戻ってすぐのことだ。
 あのあと、事情を聞いたブラスに、それならば一旦クレトの邸に戻ってこられてはと提案され、他に良い案も思いつかなかったエステルは、ブラスの勧めるままにクレトの邸へ舞い戻った。
 「出て行ったり戻ってきたりとごめんなさい」とクレトに謝ると、クレトは、「戻ってきてくれてうれしいよ。別に出ていく必要なんてないんだ。ずっとここにいればいい」と優しく出迎えてくれた。
 
 けれどこれでは何のためにクレトの邸を出たのかわからない。
 そうは思ったが、マリナもそれがいいと賛成するし、クレトももう部屋探しはしなくていいよと言うのでまたしばらくはクレトの邸に厄介になることになりそうだ。
 そう思っていた矢先、クレトはいつかのあの女性を邸へ連れてきた。

 女性は真っ赤な紅を引き、エステルが目撃した時と同じような体の線に沿った細身のワンピースを着ていた。女のエステルでも、一瞬視線に迷うほどだ。大人の女性だった。

 クレトに紹介されると、ダナと呼ばれた女性はハイヒールをつかつかといわせ、エステルの前に立つと手を差し出した。

「よろしくね、エステル」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いいたします」

 仕事仲間ということだけれど、クレトの恋人でもあるのでは。
 一晩一緒に過ごすような仲なのだ。
 自然と物問いたげな顔をしていたのだろう。
 口には出さなかったが、エステルの視線の意図を正確に読み取ったダナは「やぁねぇ」と手をひらひら振った。

「クレトとはただの仕事仲間よ。ご安心を。こんな陰険な男、あたしの趣味じゃないわよ」

 あっけらかんとした物言いだ。ひとたび口を開くと、とたんに大人の女性のイメージが崩れ、親しみやすい雰囲気をのぞかせる。フラットなその言い方に、エステルは一気にダナに親近感を抱いた。

「あの、でもわたし見てしまったのです。お二人がその、ホテルから出てこられるところを」

 クレトとダナがホテルから出てきたところを見たことは秘密にしておこうと思っていたのについ口を滑らせた。つけていたとクレトが知ったら嫌な気分がするのではと恐る恐る様子をうかがうと、「偶然見てたのかい?」と話に入ってきた。

「え、ええ。その、お部屋探しをしている時にたまたま」

 部屋探しの帰りに目撃したという点は嘘ではない。しどろもどろにエステルが言うと、「そうだったんだね」とクレトはさして気に留めたようではなかったのでほっとした。

「声をかけてくれればよかったのに。そうすればその時にダナを紹介できたんだ」

「ええ、でもその、お邪魔してはいけないと思って……」

「なぁに言ってるのよ、エステル」

 ダナは、はははと豪快に笑い飛ばした。

「さっきも言ったけど、あたしこんな陰険男はごめんよ」

「陰険?」

 およそクレトとはかけ離れた言葉だ。エステルがこてんを首をかしげると、ダナは「きゃー、かわいいじゃない」とエステルの髪をぐりぐりと乱した。

「ほんとお人形さんみたいね。大丈夫? この陰険男にひどい目にあわされてない?」

「あの、クレトはそんな人ではありません。とても優しくていい方ですわ」

 エステルの正直な感想に、ダナはひゃっと妙な声を上げた。

「なになに。クレト、あなたってばこんな純真そうな子を捕まえて、悪い奴ね。この子すっかりあなたに騙されているじゃないの。自分が何をしてきたのか、この子の前ですっかり白状しなさいな」

「黙ってきいていれば言ってくれるじゃないか。私がいつ何をしたというんだ」

「かー。やだねこれだからこの男は。涼しい顔で目的のためならどんな手段でもつかうんだからね」

「それの何が悪いんだ」

「悪いなんて言ってませんよ。欲しいもののためなら手を尽くす。それはあたしも同じだ。ただねぇ、この子兎ちゃんがクレトの毒牙にかけられるのがかわいそうでかわいそうで」

「―――その辺りでご勘弁くださいませ」

 傍らで眉一つ動かさず静観していたブラスがここで割って入った。
 ブラスに止められると、ダナは「大丈夫。あたしは何も言いはしないわよ」とひらひら手を振った。

「で? 今日は用事があってあたしを呼んだんでしょう? さっそく話を始めようじゃないの」

「ああ、もちろんだ」

 いつも商談で使う応接間へと場所を移した。

 移動する間、傍らにいたマリナに、

「ねぇ、クレトはわたしに何かしたのかしら?」と先ほどの話が気になって小声で聞いてみたのだけれど、マリナからは、

「さぁ、私にはさっぱりでございますわ、お嬢様」とあっさりと一言返ってきただけだった。




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