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第三章
祝祭日
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レウス王国のこの港町では年に一度中秋の頃、三日間の祝祭日が設けられ街はお祭り騒ぎに包まれる。
大通りに並んだ出店では普段ではありえないような破格値で物が売られ、屋台も出るのであちこちから食欲をくすぐる香りが漂ってくる。街全体が浮足立ったようにそわそわとし、近辺からも多くの人が集まので、祝祭日の間はどこも人人人だ。
その祝祭日の間、仮装行列が街を練り歩いたり、商船会社が組んで船のパレードを行ったりと様々なイベントがあるのだが、中でもそのハイライトが、最終日街の中央広場で行われる美人コンテストだった。
「エステルは当然出るんだろう?」
西海岸へ向けて無事船が出発したことを報告に来たセブリアンがエステルに言うと、横からクレトが「だめだ」と即答した。
「なんだよ、私はエステルに聞いているんだ。君が出れば間違いなく優勝だ」
「あの、わたし大勢の方の前に出るのは苦手です」
中央広場に設けられた舞台に上がり、ドレス審査、笑顔審査、アピールタイムとあるらしく、集まった見物客の票により優勝者が決まる。どれも聞いただけで気後れしてしまう内容だ。
出る気はないと言うと、セブリアンはがっかりしたように口を尖らせた。
「君が出なくて一体だれが出るっていうんだい。十年くらい前はダナが毎年出ていて優勝をかっさらっていたけれどね。さすがにあいつはもう年だし」
「誰が年だって?」
応接間の開いた扉からにゅっとダナの顔が出てきて、セブリアンはぎょっとしたように目をそらした。
「これでもあたしまだ三十なのよ。そこら辺の女には負けてないわよ」
「ははは。勘弁してくれよ」
「それより船は? 予定通り出港したんでしょうね」
「遅れてきてその言い方かい。もうエステルとクレトには報告したよ」
「―――なんだかお二人って仲良しですね」
ぽんぽんと言葉が飛び交う二人の応酬は見ていて飽きない。
これが長年の付き合いというものなのだろうか。
エステルが楽しくなってにこにこすると、ダナもセブリアンも「ちっ」と舌打ちしてお互いそっぽを向いた。やっぱり気は合うみたいだ。
「それよりさ、エステルほんとに出ないの? 優勝者にはなんとバラカルド帝国帝都の豪華ホテル十日間宿泊チケットがもらえるのよ。あたしそれで毎年のようにバラカルドの帝都で遊んでたのよ。やっぱすごいわよ。大帝国の首都は。そこら辺の国なんか目じゃない」
「帝都ですか?」
思わず大きな声が飛び出した。
それはもちろん行ってみたい。エステルの中で行ってみたい場所ナンバーワンと言っても過言ではない場所だ。
クレトと様々な国を巡ったが、まだ帝都には行ったことがなかった。この大陸の中で一番の大都市で最も商業の栄えている町。行ってみたくないわけがない。
エステルが目を輝かせると、ダナは「興味あるみたいね」とにやっと笑った。
「それはもちろん! 逆に行ってみたくない人なんているんですか?」
「そんなに行きたかったのかい?」
クレトは目をきらきらさせたエステルに苦笑する。
「そんなに行ってみたいならいつか私が連れて行ってあげるよ」
それはクレトは優しいから、頼めば連れて行ってくれるのだろう。
でもなんだかよくわからないが、なぜかセブリアンとの夕食会ではクレトが慌てて迎えに来るほど心配をかけたようだし、いつまでも頼ってばかりはいられない。
「―――わたし、出る」
優勝賞品を手に入れて、自分の力でバラカルド帝国の帝都見物をするのだ。
決意も新たにこぶしをかためると、セブリアンは、
「いいね。私は必ず君に一票を投じるよ」
「そうこなくっちゃ。あたしももちろんエステルに投票するよ。優勝は決まりだね」とダナ。
クレト一人が焦って割って入った。
「おいおい。ちょっと待ってくれ。エステル本当にわかっているのか? アピールタイムでは大勢の前で何か一芸しなければならないんだぞ?」
「一芸、ですか……」
エステルには人に見せられるような特技はない。
しばらくうーんと考えて閃いた。
「ダンスはどうでしょうか」
公爵令嬢時代に必死に練習したダンスなら、人様の前で披露しても恥ずかしくないはずだ。
「でも、お相手がいないと踊れないのでクレトお願いしてもいい?」
「え? 私かい?」
「ええ、だめ?」
「いいじゃないの! ダンス。クレト一緒に踊ってあげなさいよ。ダンスは得意でしょう?」
クレトがダンスが得意なんて知らなかった。返事を渋るクレトに、ダナは一緒にやってあげなさいよとクレトの背を押してくれる。
「クレトが出ないなら、代わりに私がお相手を務めようか? 私ももと貴族。ダンスはお手の物だ」
「―――私が出る」
セブリアンの声にかぶせるようにクレトが即答する。
「おまえに任せるくらいなら、私が出たほうがましだ」
そんなこんなでエステルは祝祭日の美人コンテストに出場することになった。
大通りに並んだ出店では普段ではありえないような破格値で物が売られ、屋台も出るのであちこちから食欲をくすぐる香りが漂ってくる。街全体が浮足立ったようにそわそわとし、近辺からも多くの人が集まので、祝祭日の間はどこも人人人だ。
その祝祭日の間、仮装行列が街を練り歩いたり、商船会社が組んで船のパレードを行ったりと様々なイベントがあるのだが、中でもそのハイライトが、最終日街の中央広場で行われる美人コンテストだった。
「エステルは当然出るんだろう?」
西海岸へ向けて無事船が出発したことを報告に来たセブリアンがエステルに言うと、横からクレトが「だめだ」と即答した。
「なんだよ、私はエステルに聞いているんだ。君が出れば間違いなく優勝だ」
「あの、わたし大勢の方の前に出るのは苦手です」
中央広場に設けられた舞台に上がり、ドレス審査、笑顔審査、アピールタイムとあるらしく、集まった見物客の票により優勝者が決まる。どれも聞いただけで気後れしてしまう内容だ。
出る気はないと言うと、セブリアンはがっかりしたように口を尖らせた。
「君が出なくて一体だれが出るっていうんだい。十年くらい前はダナが毎年出ていて優勝をかっさらっていたけれどね。さすがにあいつはもう年だし」
「誰が年だって?」
応接間の開いた扉からにゅっとダナの顔が出てきて、セブリアンはぎょっとしたように目をそらした。
「これでもあたしまだ三十なのよ。そこら辺の女には負けてないわよ」
「ははは。勘弁してくれよ」
「それより船は? 予定通り出港したんでしょうね」
「遅れてきてその言い方かい。もうエステルとクレトには報告したよ」
「―――なんだかお二人って仲良しですね」
ぽんぽんと言葉が飛び交う二人の応酬は見ていて飽きない。
これが長年の付き合いというものなのだろうか。
エステルが楽しくなってにこにこすると、ダナもセブリアンも「ちっ」と舌打ちしてお互いそっぽを向いた。やっぱり気は合うみたいだ。
「それよりさ、エステルほんとに出ないの? 優勝者にはなんとバラカルド帝国帝都の豪華ホテル十日間宿泊チケットがもらえるのよ。あたしそれで毎年のようにバラカルドの帝都で遊んでたのよ。やっぱすごいわよ。大帝国の首都は。そこら辺の国なんか目じゃない」
「帝都ですか?」
思わず大きな声が飛び出した。
それはもちろん行ってみたい。エステルの中で行ってみたい場所ナンバーワンと言っても過言ではない場所だ。
クレトと様々な国を巡ったが、まだ帝都には行ったことがなかった。この大陸の中で一番の大都市で最も商業の栄えている町。行ってみたくないわけがない。
エステルが目を輝かせると、ダナは「興味あるみたいね」とにやっと笑った。
「それはもちろん! 逆に行ってみたくない人なんているんですか?」
「そんなに行きたかったのかい?」
クレトは目をきらきらさせたエステルに苦笑する。
「そんなに行ってみたいならいつか私が連れて行ってあげるよ」
それはクレトは優しいから、頼めば連れて行ってくれるのだろう。
でもなんだかよくわからないが、なぜかセブリアンとの夕食会ではクレトが慌てて迎えに来るほど心配をかけたようだし、いつまでも頼ってばかりはいられない。
「―――わたし、出る」
優勝賞品を手に入れて、自分の力でバラカルド帝国の帝都見物をするのだ。
決意も新たにこぶしをかためると、セブリアンは、
「いいね。私は必ず君に一票を投じるよ」
「そうこなくっちゃ。あたしももちろんエステルに投票するよ。優勝は決まりだね」とダナ。
クレト一人が焦って割って入った。
「おいおい。ちょっと待ってくれ。エステル本当にわかっているのか? アピールタイムでは大勢の前で何か一芸しなければならないんだぞ?」
「一芸、ですか……」
エステルには人に見せられるような特技はない。
しばらくうーんと考えて閃いた。
「ダンスはどうでしょうか」
公爵令嬢時代に必死に練習したダンスなら、人様の前で披露しても恥ずかしくないはずだ。
「でも、お相手がいないと踊れないのでクレトお願いしてもいい?」
「え? 私かい?」
「ええ、だめ?」
「いいじゃないの! ダンス。クレト一緒に踊ってあげなさいよ。ダンスは得意でしょう?」
クレトがダンスが得意なんて知らなかった。返事を渋るクレトに、ダナは一緒にやってあげなさいよとクレトの背を押してくれる。
「クレトが出ないなら、代わりに私がお相手を務めようか? 私ももと貴族。ダンスはお手の物だ」
「―――私が出る」
セブリアンの声にかぶせるようにクレトが即答する。
「おまえに任せるくらいなら、私が出たほうがましだ」
そんなこんなでエステルは祝祭日の美人コンテストに出場することになった。
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