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第二章 

父との再会

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 無断外泊状態で叔父夫妻は絶対に心配している。
 今すぐにも還らなければと焦る未令をよそに、面会準備が整ったと告げられ「ちょっと還ってまた戻ってくるから」と言うと

「だめだよ。有明との面会は今日を逃したらもう実現しないよ」
「いつでも会わせてくれるってことじゃないの?」
「祥文帝はそんなこと一言もいってないよ。いつでもなんて言ってない。だから今日限り、一度だけの機会なんだよ」
「そうなの?」

 その一度のチャンスを逃せば次があるかはわからないと卓水はいう。
 
 おじさん、ほんとにほんとごめんなさい。
 還ったらしっかり頭を下げよう。
 きっとおじさんはわかってくれる。
 心のなかで康之に謝り、面会の準備が整ったと告げに来た使者に従い、卓水と別れ一人未令は回廊を進んだ。

 回廊を進んでいくと中庭に面していた開放的な造りの廊下は次第に長いトンネルのような廊下へと変わり、太陽の光が全く届かない地下牢のようなひんやりとした空気が足元に流れ込んできた。

 先の見えない長いトンネル状の廊下を延々と歩く。
 途中何度か折れ曲がり、先導の使者に従い、もう何度目かになる曲がり角にさしかかる。
 方向感覚は失われ、自分がどの方角へ向かって歩いているのかわからなくなる。
 突き当りを右へと曲がる。
 まだ同じような廊下が続くのかと思っていたが、そのとたん視界に入ってきた光景に息をのんだ。

 水の張られた四角く区切られた区画のなかに浮島のように部屋が浮かび、その部屋も水の膜が覆っている。
 卓水の言った水の牢獄という意味がわかる。
 水の張られた区画の四隅には一人ずつ監視がたち、見ると皆漆黒の瞳を持っている。
 水の血族の者が見張りにつき、この水の牢獄を維持し続けているようだ。
 使者がそのうちの一人に合図を送ると、水の血族の者がすっと手を水の牢獄にかざした。
 水が二つに割れ部屋までの通り道を作り、部屋の一隅も扉のように水がなくなった。
 入るようにいわれ未令が部屋に入ると背後でまた水が部屋を覆う。

「未令か?」

 椅子に腰掛ける有明は未令の覚えている姿そのままだった。
 ずいぶんと父が小さく感じる。
 そう未令がいうと、逆に未令が大きくなったのだというので未令は苦笑した。

「日本の十年はこっちの一年なんでしょ?」

 別れたとき有明は四十歳だったから今はまだ四十一歳になるのか。
 康之よりも年長のはずなのにいつのまにか逆転している。妙な感じだ。
 平安国との時間差を思えば、安倍晴澄が曽祖父にあたる割に若かったことの説明もつく。

 あんなに会いたいと思っていたのに、いざ昔のままの父を前にすると、何を言えばいいのかわからなくなる。
 次に言うべき言葉を見つけられず、ただ父の小さくなった姿を目に映した。

「すまんな、未令」

 気詰まりな様子で佇んでいる未令に有明は椅子をすすめると、おもむろに頭を下げた。

「お父さん、こっちで失敗してこんな有様だ。すぐに帰ってくるって約束したのにな。大きくなったな」

 両手を伸ばされ、照れくさくて未令は「いいよ」と首を振る。

「そうか、そうだよな。未令はもう十六歳。高校生だもんな。私の覚えている未令とは違うんだよな」

 寂しそうにいわれ、未令は「もう」と口を尖らせ、有明の広げる腕のなかに飛び込んだ。
 
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