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第六章

観月の宴2

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 祥文帝が右手を上げると同時に広場はまばゆい光に包まれた。
 火の血族と水の血族が揃って空に向かい炎と水を噴き上げ、広場を囲うように噴水と花火のような火花が同時に上がり、一気に幻想的な空間を作り出す。
 次の瞬間には炎と水は消え、広場は暗転。
 そして再び炎が広場を囲い噴出すると広場中央には羽衣を纏った女官たちが現れ、優雅な雅楽の調べが奏でられ舞が始まった。

 酒と肴が次々に運び込まれてきた。
 想像以上に豪華な演出と規模に未令が目を丸くしていると隣りの焔将が杯をつきだしてくる。

「ついでくれるか?」

 配膳にやってきた女官がどうぞ、と未令に酒の入った瓶子を渡す。
 それを受け取り、慎重に焔将の杯に酒を注いだ。
 すぐ近くには祥文帝がいる。
 これからすることを考え、緊張で手元が震えた。

「武者震いか?」

 焔将は未令の耳元に口を寄せ囁く。思わずひゃっと小さく叫ぶと持っていた瓶子が揺れ、なかの酒がちゃぷんと音を立てた。
 はははと焔将は笑い、

「今宵の月に」

 登り始めた満月に杯をあわせ、一気にあおった。
 
 結局、未令の心は決まらないまま観月の宴は始まった。
 焔将は未令が還ることについては触れようとしない。何も言ってくれないから、どうすればいいのか全くわからない。

 あと少しすれば、自分が日本へ還るかどうかは棚上げしたまま、祖父と父の救出に向かうことになる。
 未令はちらりと祥文帝の右隣に座る涼己を見た。目が合ったがすぐにそらされる。

――こちらを見るな。
 
 声にも出さなかったし口元も動かさなかったけれど涼己のいわんとしていることがわかった。
 二日間、涼己と呼吸をあわせ力の遣い方を練習してきた。涼己の考えていることは目を見ただけでわかるようになってきた。
 昨日の最後となった特訓を思いだし、未令は自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
 隣の焔将は落ち着いた眼差しで広場を見つめている。




 その後も広場での演目は続き、いまは同じ藍色の衣を纏った男たちが出てきて剣舞を披露している。
 動きは見事に統制が取れていて、真剣だろうにすぐそばに相手がいても躊躇なく振り払う。
 その度、火の血族の作り出した炎に刃がきらめいた。

 日はすっかり落ち、東の空には月がのぼっている。

 木の血族の演舞が始まったところで涼己が席を立った。

 木火土金水の演舞のあとに控える剣舞の準備に立つタイミングだ。

 涼己が宮殿へと姿を消すと、広場では高らかにほら貝が鳴らされた。

 すると桟敷席の向こうから木の枝が無数に飛び出してきた。
 その枝の先には新緑を思い起こさせる鮮やかな青の衣を纏った瞳も青の木の血族たちが乗っていた。
 衣は袖が長く、縦横に枝が動き回るたびに風を受けてはためき、まるで空を青の衣が舞っているような優雅さだ。

 木の血族の演舞ではあるが緑香は祥文帝の横を離れない。

 たとえ演目があろうとも最優先されるのは祥文帝の警護のようだ。

 木の血族の演舞が終われば未令も席を立ち涼己と合流することになっている。

 無意識に衣の裾をつかんでいた。
 
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