夜明けの月★

天仕事屋(てしごとや)

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v 03 少女と老人

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 物心ついた頃から少女は老人と二人きりで暮らしていた。
 老人は少女に色々な事を教えた。少女は老人の言う事を何でも聞いた。

 日差しが強い時は外に出られない事や、何か欲が出たり、感情が少しでも高ぶると抑えがきかなくなってしまう恐ろしさを伝えた。

 少女は泣いた。本当はこんな恐ろしい事をしたくない、気持ちが高ぶると物にあたったり、人や動物をぶったり傷付けたりしてしまう。
 衝動を抑えられなくて、我に返った時にはその光景に恐ろしさと後悔が少女を襲った。

 それに耐えきれずに少女は泣きじゃくる。

 すると老人は彼女の手を優しく握りながら
 「大丈夫。哀しみや感情に気が付いたなら、抑えることもそれと向き合って穏やかに生きる事も出来る」そう言った。

 
 『何度もあの頃の夢を見る
  気が付いたときに
  眼の前に広がる光景 

  そこから今まで
  何度も自分の感情と向き合ってきた
  激しい衝動が生まれる度
  穏やかに過ごせる様に
  私を刺激から遠ざけてくれていた

  でも今は私一人、、、』





 1999年 6月19日 14:02

 剣士は出されたおにぎりと味噌汁を平らげると、
 「ありがとうございます。凄く、美味しかったです。ご馳走様です!」と満足そうに手を合わせる。
 その様子に彼女は少し笑いながら軽くペコリとお辞儀をした。
 
 そして再び商品の査定に取り掛かかる。
 剣士は絵画の立てかけてある場所を隈なく観察していた。
 暫くして、
 「絵画は専門の者がおりますので、また連れて来ますね。、、、ところで、この家の物の所有はお祖父様ですよね、、?」

 剣士が聞くと、
 「祖父は身一つで山に住み着く様な人ですから、こういう物も、一度飽きたらどうでもいいみたいなんです。」
 「私もどうすればいいか丁度、困っていた所だったので。」と彼女は少し目を伏せた。

 (山って、、、)
 「立ち入った事を聞くようですけど、、ご両親は同居されていないんですか?」

 「えぇ、両親は私が幼い頃に亡くなったと聞いております。、、、私だけじゃ査定して頂けないですか?」

 剣士は慌てて
 「いえいえ!そんなんじゃなくて、まぁ、額によっては御本人様に承諾頂く事もあるかもしれません。それより、、、女性一人じゃ何かと物騒、、!、お困りなのでは、無いかと、、。」

 (しまったな、、言い訳すればするほど、変な感じになってしまう)
 
 「近くに知り合いもおりますし、特に困ることは無いですよ。」
 そう言うと、彼女はやっぱり落ち着いた様子で返してくる。
 剣士は一瞬、その微笑みの中に寂しさを見たような気がした。

 「そ、そうですか。、、、ではあと、他に小さいサイズの絵画なんかもあったりしますかね?」
 
 剣士は悟られないように話をそらす。

 「あぁ、そう言えば二階の納戸の棚の上に、、。良かったら、御一緒にどうぞ。」

 彼女はそう言うと、廊下に出て階段を登る。
 剣士は彼女の後を少し申し訳無さそうに付いていく。

 身長180センチのガッチリ体型には、少し窮屈な階段だった。

 二階は鴨居が少し低くて、剣士は少し頭を下げて納戸へと入る。

 部屋の壁の上の方に棚が打ち付けてあり、彼女が台に乗って絵画を取ろうと手を伸ばしている。


 その時、立ててある額の上から何かが落ちて来る事に剣士は気が付いた。
 あ!、、と思った瞬間、それを剣士は右手で受け止めていた。
 (、、、っと、あぶねー。)
 丁度彼女の頭上でキャッチした形になって、剣士の左手は他の絵画が落ちないように押さえられている。

 不意に彼女の背中を剣士の体が覆う形になっていた。

 棚の上には横長の天窓が付いていて、そこからの薄っすらとした光の中で埃がサラサラと流れるのが見えた。

 彼女はまだ固まって動かずにいた。

 
 「大丈夫?」
 箱を受け止めたままの格好で、剣士が訊ねる。
 その声に彼女はハッと我に返り、急いで踏み台から降りて、
 「だ、大丈夫です!ごめんなさい!」
 と剣士にペコペコと頭を下げる。
 
 「良かった。これ、中身空っぽでしたよ。」
 箱を振って笑って見せたが、俯いたまま反応が無いので少し心配になった剣士は、顔を近付けて
 「あの、、、?」と彼女の顔色を伺うように覗き込んだ。

 彼女は慌てた様子でブラウスの首元を握りしめて顔を上げる。

 「び、びっくりしちゃって、、」

 「あぁ、、こちらこそ!びっくりさせてごめんね。」剣士は安心させようと優しく笑った。


 彼女は棚の上を指差しながら、「あの棚の上にあるのが、そうです。」と少し頬を赤らめて言った。

 「分かりました。見せてもらいます。」
 剣士が笑顔でそう言うと、彼女は少し笑顔を見せて「お願いします」と言うと、すぐに一階へと駆けていった。


 剣士は額縁に入った絵を何枚かまとめて床に降ろした。
 未だに薄暗い部屋の中では、風もないのにホコリがサラサラと舞うのだった。

 

 
 
 
 
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