妖精の羽

Anne

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セッちゃん─前編

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    私は生まれた時から、羽というものがなかった。周りを見れば羽を持って飛んでいる妖精だらけ。それは大人だけじゃなくて、同じくらいの子達の間でもそうだった。私だけ飛べない。親も、友達も、みんな飛べるのに。小さいながらに人と違うことに気づいていた私は、自信をすっかりなくしていた。
    私たち雪の妖精は、雪や氷を自由に操ることが出来る。もちろん寒さなんて感じない。大体は雪の里に住んでおり、たまにスキー場だったり雪国だったりに訪れる。私たちは人間やほかの動物とは違い、死を迎える時期がものすごく遅い。100まで生きる人間と比べたら、その何倍も長く生きられるのかもしれない。でも同じように毎日を暮らしているだけの私たちには、何年生きたかなんて関係ない。

   ある日、おばあちゃんから呼ばれた私は、おばあちゃんの住む家に向かった。おばあちゃんは、たった一人の私の理解者だと言える。素直に私が言うことを聞くのもおばあちゃんくらいだ。皆が私を見下した目で見るのに対し、おばあちゃんだけは私を可愛がってくれた。おばあちゃんはここから出たことのない私に、いろんなことを教えてくれた。知らない景色や、音や、言葉なんかを。
    おばあちゃんは木に小さな空洞が空いていたのを利用して、雪をつめて家を作り、そこに住んでいる。普段はそこで暮らしているのだが、たまにふらっとどこかへ出掛けて長いこと帰ってこないこともよくある。私がおばあちゃんに会うのも、ずいぶん久しぶりだった。私が小さい頃から、おばあちゃんは自分が旅した場所のことだったり、昔のことだったりなんかも教えてくれた。昔のことっていうのは伝承のようなもので、おばあちゃんが生まれる前のこととか──例えば……そう、動物として暮らすようになった妖精がいる、とか。雪の妖精が花の妖精や水の妖精と結ばれたことがある、とか。そうやっていろんなことを教えてくれるおばあちゃんが大好きだったから、おばあちゃんがこっちにいる時はずっとひっついて回っていた。そうやって、私はいろんなことに対する知識や興味を、他の人より多く持ってしまったんだと思う。この世界にはまだまだ私の知らないことがある…そう思うとワクワクする。こんな誰にも愛されない狭い世界を飛び出して、おばあちゃんみたいに、いろんな場所へ自由に行きたい。
    「お邪魔しま~す……」
つららが下がった玄関を抜けると、そこには小さなスペースに敷き詰められた雪が広がる。ずっと遠くにある木のてっぺんからわずかな光が入ってきて、なんだか神秘的だ。
「おやいらっしゃい、よく来たねぇ」
「おばあちゃん!」
思わずおばあちゃんに抱きついた。ふわっと甘い香りがする。ついさっきまでどこかへ行っていたのだろう。私が嗅いだことのない香りだった。
「今日はどうしたの?」
「そうそう、ついさっき帰ってきたんだけどね、そこでびっくりすることを聞いちゃったから、こうして急いで帰ってきたんだよ」
「ん??教えて!」
「ムッシュさんのことは覚えているかい?」
「うん、覚えてるよ」
ムッシュさん……長老みたいなものだ。見た目は相当なおじいちゃんで、いつ死んでもおかしくない(まぁそれは私のおばあちゃんも変わりないのだが、彼女は未だにピンピンしている…当分死ぬことはないだろう)。おばあちゃんが旅に出かける時は大体ムッシュさんのところに一度は顔を出すらしい。ものすごく物知りで、妖精の暮らしのことだけでなく、いろんな動物なんかのことも知っている。この里にも一度来たことがあって、その時はまだ私は生まれて少し経ったくらいの頃のことだったのだが、ムッシュさんの大きな手で優しく頭を撫でてもらったということは、ほんのわずかに記憶にある。
「ムッシュさんから聞いたんだけどねぇ…いいニュースだよ。お前さんの羽、生えるかもしれないってさ!」
「ええぇっ!!」
「ちょっと驚きすぎじゃないかい、面白い子だね!アッハッハ!」
「だって…羽生えるかもしれないんでしょ?」
「そうさ。まぁでもおばあちゃんたちが生まれた頃はねぇ、羽のない妖精なんて沢山いたんだよ。そんな妖精は生涯ずっと羽がないままか、歳をとるにつれて生える、そんなもんだったんだ。それがだんだん遺伝子の進化によって、羽がほとんど全ての妖精に生えて生まれてくるようになった。今でも結構いるようだよ、この世界には。お前さんように、羽のない妖精がね。」
驚いた。この世界には私みたいな人がいたんだ。
「羽は…どうやったら生えるの?」
「うーん。それはよくわかっていないらしいんだよ。お前さんはこれから生きていく中でいろんなことを経験すると思う。きっとそれらの経験が影響を与えてくれるんじゃないのかね?」
羽が……羽が生えたら、きっともう馬鹿にされない!みんなと同じように空を飛んで、自由にどこへでも行ける…!そんな夢が見えた気がした。
「さて、と。私はもう行かなきゃねぇ」
「えっもう行っちゃうの?」
「もちろんさ、このことお前さんに伝えるために戻ってきたんだからねぇ」
「そっか……行ってらっしゃい!」

   帰り際、ずっとずっと羽が生えた時のことを考えていた。そしたらおばあちゃんみたいにいろんな場所へ簡単に行ける、この雪山も出れる!みんなが当たり前に出来ている、「飛ぶ」という行為、それが私にはできなかった。ただそれだけで、周りからは奇異なものを見るような目で見られ、コンプレックスを抱えて生きてきた。そんな私がみんなと同じ立場に立てる、それも堂々と。嬉しい、嬉しい、嬉しすぎる!今はまだ羽がないし、どうやったら生えるのかもわからないが、未来を夢見てワクワクした。まるで今にも体が浮かび上がりそうなくらい!
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