たそがれ色の恋心

空居アオ

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東京公演編

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 いつか、おまえ実は彼女いるだろ、とケイをからかったことがある。
 言われてケイはいないよと否定し、そうして笑った。
 あのときの表情が若さに似合わず、ともすれば現実離れしているほど透きとおっていたので、タカヤは聞いてはいけないことを聞いたのだと悟った。


「こりゃ言わねぇわ……」

 言うわけがない。
 言えるわけもない。

 ひょっとしてつらい片想いでもしているのか、と勝手に想像したこともあったが、今日わかった。
 つらい片想いではなく、それを言うなら、つらい両想いだ。
 ――いや、つらいと勘ぐるのは余人だけかもしれないけれど。
 恋人関係を続けているということは、当人たちにとってつらい以上の幸せがあるからだ。

 でなければケイはあんな声を出さない。
 あの自立心の強いケイが、あんなふうに、誰かに甘えたりしない。

 タカヤはケイと同じ事務所の所属だが、まともに話すようになったのはグループを組んでからのことで、まだ一年くらいしか経っていない。しかし時間の長さなんて関係なく、互いの家に遊びに泊まりに行ったりするほどかなり仲が良い。
 そんなタカヤですら、あんなケイの姿は、知らなかった。


 ――本当に大事にしてんだ。


 かわいい弟分のケイ。
 ケイが幸せなら、兄貴分が口出しするべきじゃない。
 でも、もしいつか相談されたら、そのときは真摯に耳を傾けて、できうる限りのことをしよう。
 それが兄弟愛ってもんだ。



 電車を降りたタカヤがプラットフォームに立つ。
 一陣の風がキャップをさらいそうになって、慌てて手で押さえる。
 背後で次の駅へと向かって電車がゆっくりと動き出す。
 遠い空の向こうでは、夕日の残り火がどんどん薄れていく。
 …帰りにスーパーへ寄ってビールを買うつもりでいたが、このまま真っ直ぐ帰ろう。
 ゆっくり風呂に浸かって、台本を読んで。
 今日見たこと、知ってしまったこと――忘れることはできないけれど、忘れたふりならできる。
 そうすることで、この先ケイが自分から話してくれるまで、見守ってやろうじゃないか。
 タカヤはパシッと、両方の頬を叩いて、紫色の雲の間に隠れた夕日を背にした。




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