たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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 互いにじっと相手の目を見つめる。
 どちらも相手の出方を窺っているような、逆に挑発しているような光を目の奥に隠していた。
 ――少なくともそう見えた。
 二人の目には、あまりにも多くの感情が息を潜めていた。
 トージはケイの無力感を読み取れず、ケイもトージの焦燥感を取りこぼした。


 先に動いたのはケイだった。
 間近にあるトージの顔を映した目を閉じたのである。
 演技力を総動員して、顔に平常心の仮面を被る。
 いくら若干判断力が鈍っているトージだとて、この表情をキス待ちしていると取れるほど幼稚ではなかった。
 トージは瞬時にその意図を正確に捉えた。
 すべてを委ねるというメッセージでもって、ケイが恋人に、恋人としての相応の態度を求めているのだとわかった。

 トージの胸中を自己嫌悪の津波が襲う。

(俺は何をやってるんだ?!)

 今は公演中で、つまり仕事中で、いくらプライベートな時間だからといって、いったい自分は何をしようとした!

 我に返ったトージはふらり、と後ずさった。
 それを気配で感じたケイは目を開ける。
 たった一度の瞼の開閉で、目の前のあった顔はまるで違っていた。
 小さく息を呑んで、反射的に手が伸びる。
 そっと掴んだジャージーの裾が、トージの強張った顔よりは柔らかく感じられた。





 ケイの目は、それでもまっすぐだ。
 まっすぐトージを見つめ、外さない。
 そこからトージに寄せる全幅の信頼が窺える。

 自己嫌悪がますます深まった。

 ケイがつながったままの電話を切ったことは、さらにトージをどん底に突き落とした。
 自分のなかにあった人としての最低ラインのひとつを自ら引きちぎったのだと、ようやく自覚した。
 それはケイの心中を考慮する余裕を奪い、見極めようとする目を鈍らせ、と同時に深く、深くトージを傷つけた。

 トージは理解している。
 言わなければわからないことがあると。
 だけど今さら何を言ってケイを納得させようというのか。
 いったい何をもって、自分で自分を納得させられるというのだろうか。
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