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神戸公演編
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そのケイを傷つけたのかと思うと、改めて単純で短絡で自己中心的な自分を恥じた。
ケイが許してくれるなら、どんなことをしても償わなければならない。
ケイが望むのならなんでも叶えなければならない。
たとえそれが男のプライドを打ち砕く行為であってもかまわない。
自分もケイのプライドに杭を打ち込んだのだから。
結局は自己満足かと言われてしまえばそれまでだろう。
でも気持ちに噓はない。
バカになるほどケイが好きで、ケイがトージに体を許すのと同じくらい好きで。
好きだからこそ、「好き」を免罪符にしちゃいけないことも、ちゃんと、わかっている。
ケイはトージを待った。
やがて手がゆっくりとケイの視界の端をかすめていくので、きっと髪に触れてくるのだと思った。
だから動かずにいると、予想どおり、トージの節くれだった指が髪をかき分けてきた。
トージはケイの髪を触るのが好きなのだ。二人ともそれは知っている。
ただケイにとって予想外だったのは前髪と瞼を同時に触れられたことで、初めての経験に、器用だなとケイは思わず内心クスっとおもしろがった。
トージの指が耳たぶの柔らかい肉をきゅっとつまむ。
反射的に肩が震えた。
生理的な反応ではあるけれど、それをちょっと悔しい――とケイが密かに拗ねる間もなく、トージの手のひらが頬を撫でてきた。
少しかさついた手はなるほど一人暮らしの賜物である。
役者なのだから、男だってちゃんと肌の手入れを怠ってはいけないとケイは言い聞かせてきたが、トージはなんでも自分でやってしまうため、どんなに心を配ってもつい疎かになるときがある。一人暮らしではなおさらだ。
今度はもっと厳しく言ってやらなきゃ、と心の中で拳を振り上げるケイは、徹頭徹尾トージと別れる――トージの別れ話が上手くいくとは一ミクロンも思ってはいなかった。
だってこの手のかさつきを結構気に入っているのだ。
誰かに渡してなるものか。
ケイの内心の動向など知る由もなく、トージの手は主の想いのまま動きを止めない。
恋人の後れ毛を指で弄んでいたかと思えば、少し力を入れて引っ張ってみる。
それを何回か繰り返してから、今度はとうとう首を引き寄せた。
……本当は引き寄せられたのか、それとも自分から近づいていったのか。
漠然とそんなことを考えながら、ケイはトージの唇の冷たさを堪能した。
冷たかったのだ。
それだけトージが緊張しているということだろう。
それだけトージが後悔に苛まれているということだろう。
ほら、やっぱり嘘じゃないか。
ケイは胸の奥から喜びの灯が燃え広がるのを感じた。
こんなバカなヤツの相手ができるのって俺だけだ。
俺以外の誰にこんな面倒くさいヤツの相手をするってんだ。
バカ。
バーカ。
大バカ。
ケイが許してくれるなら、どんなことをしても償わなければならない。
ケイが望むのならなんでも叶えなければならない。
たとえそれが男のプライドを打ち砕く行為であってもかまわない。
自分もケイのプライドに杭を打ち込んだのだから。
結局は自己満足かと言われてしまえばそれまでだろう。
でも気持ちに噓はない。
バカになるほどケイが好きで、ケイがトージに体を許すのと同じくらい好きで。
好きだからこそ、「好き」を免罪符にしちゃいけないことも、ちゃんと、わかっている。
ケイはトージを待った。
やがて手がゆっくりとケイの視界の端をかすめていくので、きっと髪に触れてくるのだと思った。
だから動かずにいると、予想どおり、トージの節くれだった指が髪をかき分けてきた。
トージはケイの髪を触るのが好きなのだ。二人ともそれは知っている。
ただケイにとって予想外だったのは前髪と瞼を同時に触れられたことで、初めての経験に、器用だなとケイは思わず内心クスっとおもしろがった。
トージの指が耳たぶの柔らかい肉をきゅっとつまむ。
反射的に肩が震えた。
生理的な反応ではあるけれど、それをちょっと悔しい――とケイが密かに拗ねる間もなく、トージの手のひらが頬を撫でてきた。
少しかさついた手はなるほど一人暮らしの賜物である。
役者なのだから、男だってちゃんと肌の手入れを怠ってはいけないとケイは言い聞かせてきたが、トージはなんでも自分でやってしまうため、どんなに心を配ってもつい疎かになるときがある。一人暮らしではなおさらだ。
今度はもっと厳しく言ってやらなきゃ、と心の中で拳を振り上げるケイは、徹頭徹尾トージと別れる――トージの別れ話が上手くいくとは一ミクロンも思ってはいなかった。
だってこの手のかさつきを結構気に入っているのだ。
誰かに渡してなるものか。
ケイの内心の動向など知る由もなく、トージの手は主の想いのまま動きを止めない。
恋人の後れ毛を指で弄んでいたかと思えば、少し力を入れて引っ張ってみる。
それを何回か繰り返してから、今度はとうとう首を引き寄せた。
……本当は引き寄せられたのか、それとも自分から近づいていったのか。
漠然とそんなことを考えながら、ケイはトージの唇の冷たさを堪能した。
冷たかったのだ。
それだけトージが緊張しているということだろう。
それだけトージが後悔に苛まれているということだろう。
ほら、やっぱり嘘じゃないか。
ケイは胸の奥から喜びの灯が燃え広がるのを感じた。
こんなバカなヤツの相手ができるのって俺だけだ。
俺以外の誰にこんな面倒くさいヤツの相手をするってんだ。
バカ。
バーカ。
大バカ。
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