【完結】初夜失敗? 気にするな! 俺はおまえが大好きだよ

古井重箱

文字の大きさ
6 / 19

06

 分厚い岩でできた天井がアシュレイを見下ろしている。この閉塞感はダンジョン特有のものだ。
 アシュレイはクライヴと共に、転移石の力によってダンジョンの15階に到達した。
 フロアを見渡せば、フライングレコーダーが壁際を飛んでいた。そして、フライングレコーダーの下に、リッキーの姿があった。

「リッキー、助けに来たぞ!」

 クライヴがリッキーのもとに駆け出した瞬間、フロアに耳障りな咆哮が響き渡った。
 声の主はキマイラだった。頭部はヤギ、胴体はライオン、そして尻尾は蛇。さまざまな動物のパーツが集まってできた合成獣である。
 キマイラは火を吐いてアシュレイとクライヴを威嚇した。
 アシュレイはお返しとばかりに、氷でできたニードルを放った。スピードに乗って氷のニードルが中空を飛んでいく。しかしキマイラは体をしなやかに動かして、攻撃をかわした。

「リッキー、元気を出せ!」

 クライヴは地べたに這いつくばっていたリッキーに近づくと、体力と魔力が回復するポーションを飲ませた。

「ありがとうございます……」

 リッキーがゆらりと立ち上がった。その動きは弱々しく、体の軸が定まっていない。クライヴがリッキーの背中に腕を回した。

「すみませんっ! 俺が功を焦ったばかりに……」
「反省会は後回しだ。今はあの化け物を倒すぞ」
「あいつの機動力をなんとかしないといけない。リッキー、行動遅延の魔法は使えるか?」

 アシュレイが尋ねると、リッキーが「はい!」とうなずいた。

「俺が魔法で作った泥を塗りつけてやれば、相手はスロー状態になります」
「フロアの中心部に、泥をび出してくれ。俺が囮になってキマイラを呼び寄せる」
「大丈夫か? アシュレイ」
「ああ。俺はこんなところでは死なない。クライヴはリッキーを守ってやってくれ」
「俺、補助魔法は得意です!」

 リッキーが土魔法を発動した。フロアの中心部に泥の沼が現れる。
 アシュレイは浮遊石を使って、レビテーション状態になった。泥の沼の上に移動して、キマイラを挑発する。
 キマイラが大きく口を開けて、火を吐き出した。
 アシュレイは氷でできた盾を召喚して、紅蓮の炎を無力化した。
 
「くらえっ!」

 中空に巨大な氷塊が現れて、キマイラの体を上から押さえつけた。そして、キマイラは泥の沼に沈み、全身が茶色になった。

「ギィィッ、アァァッ!」

 キマイラの怒りの咆哮がフロアに反響した。泥まみれになったキマイラは再び立ちあがろうとしたが、そのスピードは先ほどよりも大幅に減速している。

「よーし。あとはとどめを刺すだけだな」

 クライヴが鞘から片手剣を引き抜いた。流水のようになめらかな体捌たいさばきで、キマイラの頭部に斬りかかる。
 研ぎ澄まされた刃が、キマイラの首を切り落とした。頭部と胴体がそれぞれ地べたに転がる。
 蛇の形をした尻尾が蠢いていたが、その動きもやがて止まった。
 クライヴは足元に転がっているキマイラのコアを握り潰した。

瘴気しょうき、消失。クエストの完了を確認。帰還してください』

 リッキーのギルドカードが輝き始めた。
 ステータス画面を確認したリッキーは裏返った声で言った。

「け、経験値がこんなに……!? 俺は逃げてただけなのに」
「補助魔法が評価されたんだろ。よかったじゃねーか」

 クライヴがリッキーの肩を叩く。
 
「あの……クライヴさん。俺、ともかく強くなりたくて、それで……」
「俺にもそういう時期があったよ。B級からA級になかなか上がれなかった時に、無茶なクエストに挑んでしまった」
「怒らないんですか?」
「ああ。俺が説教なんてしなくても、おまえは身をもって学んだだろう? 格上のモンスターをソロ討伐するのがいかに無謀なことか」

 リッキーの瞳が潤み始める。

「クライヴさん……! 俺、クライヴさんに一生ついていきます!」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、いつかは独り立ちしろ」

 ふたりのやりとりを見ていて、アシュレイはクライヴの懐の広さに感銘を受けた。 クライヴは頭ごなしに叱りつけるのではなく、リッキーの気持ちを理解しようと努めている。どんな説教よりもクライヴの優しさがリッキーの心に響いたことだろう。
 クライヴは傲慢な男ではない。人の弱さに寄り添うことができる、繊細な感情の持ち主だ。
 そのことに気づいた瞬間、鼓動が高鳴った。クライヴの笑顔を見ているだけで胸がいっぱいになる。
 なんだろう、この感覚は? 心臓がトクントクンと忙しなく動いている。

「アシュレイ。酒場に帰還しよう」
「……ああ」
「どうした? ボーッとして。疲れたのか?」
「俺は大丈夫だ。リッキー。クエスト完了の記念に、キマイラの尻尾を持って帰るといい」
「えぇっ!? 俺がもらっちゃっていいんですか」
「きみの補助魔法がなければ、キマイラを倒せなかった」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「ほらよ、リッキー!」

 クライヴが、キマイラの尻尾を根元から切断した。
 リッキーはキマイラの尻尾を拾い上げると、フライングレコーダーに笑顔を向けた。

「今回は先輩方にヘルプに入ってもらったけど、次回は……いつになるか分かりませんが、自力で討伐したいと思います!」
「よし。それじゃあ、酒場に向かうとしよう」

 転移石の白い輝きが三人を包み込んだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 4話(噂の王子視点)と、師匠×トーリの馴れ初め番外編は同人誌に掲載(シリアスなので) 他サイトにも再掲しています。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!