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アシュレイが冒険者ギルドの会館に顔を出すと、ギルド長のエルフ、イルミナが待ち構えていた。
「来たか、駒」
「その呼び方はやめろ」
「クエストを受注するのか?」
「ああ。一番難易度が高いやつを紹介してくれ」
「ふふっ。教えるまでもなかろう? ダンジョンの最奥部にいる、ダンジョンの主を倒すことだ」
受付嬢のネリが、カウンターにダンジョンの地図を広げた。
踏破済みのエリアは青色に染まっている。現時点での最上階は30階だ。
「ダンジョンは亜空間だというじゃないか。30階で終わりだとは思えない」
「そうだな。私もアシュレイと同意見だ」
「30階を隈無く探索してみるか……。隠し扉があるかもしれない」
その時、会館のロビーの一角が白く輝き出した。
発光が収まると、そこには傷だらけの冒険者が横たわっていた。
アシュレイは怪我人のもとに駆けつけた。蒼白になった顔には見覚えがある。
「疾風のマリアンヌじゃないか! おい、しっかりしろ」
幸い、ロビーにはヒーラーのガブリエラがいた。ガブリエラはこめかみから汗が流れるほど大量の魔力を放出して、マリアンヌの傷を癒した。
治癒魔法により一命を取り留めたマリアンヌは悔しそうにつぶやいた。
「……30階に巨大なスライムがいた。そいつは、あたしの疾風魔法をすべて無効化しやがった」
「新種ということか?」
「たぶんね」
「イルミナ。30階を調査するクエスト、受注したい」
「アシュレイ、あたしの話を最後まで聞きな。巨大スライムはおそらく、どんな属性魔法も無効化してしまう。ソロ討伐は無理だよ」
マリアンヌが話を続けた。
「スライムってのは例えば体色が赤だった場合は火炎属性で、氷結魔法が効くだろ?」
「そうだな。極めて単純なモンスターだ」
「あたしが出くわしたスライムは、最初は茶色、すなわち土属性だったんだ。ところが、疾風魔法で攻撃した途端に白くなって……。風の刃で斬りつけようが、竜巻をけしかけようがピンピンしていた」
アシュレイは腕組みをした。
「……つまり、俺が氷結魔法を放ったとしても無意味だということか」
「そうさ、残念ながらね。あいつは異なる属性魔法の使い手と連携しないと倒せないよ」
マリアンヌはフライングレコーダーを手のひらにのせた。
「クエスト失敗動画なんて上げたくはなかったけど、他の冒険者への戒めのために配信するよ」
「いいぞ、マリアンヌ。クエスト失敗を好んで視聴する向きもいるからな。情けない姿を晒す冒険者というのもいい見せ物だ」
「……イルミナ。あんたには心というものがないのか」
「ははっ。エルフにもあるさ。おまえたち人間ほど感情に振り回されないだけだ。アシュレイ。私の見立てではおまえは今、クエストどころではないな?」
アシュレイはどきりとした。
冒険者ギルドの会館を訪れたのも、クライヴから意識を引き剥がすためだった。イルミナはすべてお見通しなのか?
「俺は……スウィングラーの名を高めるために生きている。クエストを成功させること以上に大切なことなどない!」
「ふふっ、よく吠える駒だ。だがアシュレイよ、忘れるな。おまえたち人間の命は短い。自分を誤魔化しているうちに寿命を迎えてしまうぞ」
商人ギルドと打ち合わせがあると言って、イルミナは会館から出て行った。
アシュレイはマリアンヌを宿まで送ることにした。
「悪いね、アシュレイ」
「気にするな。巨大スライムに関する貴重な情報を聞かせてくれたお礼だ」
マリアンヌの宿は、冒険者ギルドの会館の近くにあるらしい。アシュレイは足元がふらついているマリアンヌに肩を貸した。
体を寄せ合いながら道を歩いていると、前方に一番会いたくない人物の姿を発見した。
「クライヴ……」
「……アシュレイ。おまえはそうか、マリアンヌと……」
クライヴはうつむきながら、冒険者ギルドの会館がある方向へ走り去っていった。
誤解されてしまった。
アシュレイはショックを受けたが、立ち止まっている場合ではない。マリアンヌを宿に送らなければいけない。
胸の痛みを堪えながら、マリアンヌを連れて宿へと向かう。
「ありがとう、アシュレイ」
宿に着いた。
マリアンヌは、大人気の吟遊詩人のコンサートチケットをくれた。一枚だけではない。二枚もある。
明日の夜、コンサートが開かれるらしい。
「俺が貰ってしまっていいのか? チケットを取るの、大変だっただろう」
「まあね。友達と行こうと思ってたけど、あたしはしばらく療養しなきゃいけないから無理っぽい。アシュレイ、行って来なよ」
「俺には誘う相手などいないが……」
するとマリアンヌは真剣な表情になった。
「本当にそうなの? あたしのカンでは、あんたには気になる人がいるようだけど」
アシュレイは沈黙した。宿に向かう道中でクライヴと行き合った際に、感情が顔に出てしまったのかもしれない。
「あんたは勇敢な魔法戦士だ。あんたに惚れられて嫌がる相手なんていないよ。もっと自信を持って」
「……マリアンヌ」
「そろそろ寝るね。今日は本当にありがとう」
「俺の方こそ、気を使わせてしまってすまない」
アシュレイは一礼すると、マリアンヌの部屋を出た。
「来たか、駒」
「その呼び方はやめろ」
「クエストを受注するのか?」
「ああ。一番難易度が高いやつを紹介してくれ」
「ふふっ。教えるまでもなかろう? ダンジョンの最奥部にいる、ダンジョンの主を倒すことだ」
受付嬢のネリが、カウンターにダンジョンの地図を広げた。
踏破済みのエリアは青色に染まっている。現時点での最上階は30階だ。
「ダンジョンは亜空間だというじゃないか。30階で終わりだとは思えない」
「そうだな。私もアシュレイと同意見だ」
「30階を隈無く探索してみるか……。隠し扉があるかもしれない」
その時、会館のロビーの一角が白く輝き出した。
発光が収まると、そこには傷だらけの冒険者が横たわっていた。
アシュレイは怪我人のもとに駆けつけた。蒼白になった顔には見覚えがある。
「疾風のマリアンヌじゃないか! おい、しっかりしろ」
幸い、ロビーにはヒーラーのガブリエラがいた。ガブリエラはこめかみから汗が流れるほど大量の魔力を放出して、マリアンヌの傷を癒した。
治癒魔法により一命を取り留めたマリアンヌは悔しそうにつぶやいた。
「……30階に巨大なスライムがいた。そいつは、あたしの疾風魔法をすべて無効化しやがった」
「新種ということか?」
「たぶんね」
「イルミナ。30階を調査するクエスト、受注したい」
「アシュレイ、あたしの話を最後まで聞きな。巨大スライムはおそらく、どんな属性魔法も無効化してしまう。ソロ討伐は無理だよ」
マリアンヌが話を続けた。
「スライムってのは例えば体色が赤だった場合は火炎属性で、氷結魔法が効くだろ?」
「そうだな。極めて単純なモンスターだ」
「あたしが出くわしたスライムは、最初は茶色、すなわち土属性だったんだ。ところが、疾風魔法で攻撃した途端に白くなって……。風の刃で斬りつけようが、竜巻をけしかけようがピンピンしていた」
アシュレイは腕組みをした。
「……つまり、俺が氷結魔法を放ったとしても無意味だということか」
「そうさ、残念ながらね。あいつは異なる属性魔法の使い手と連携しないと倒せないよ」
マリアンヌはフライングレコーダーを手のひらにのせた。
「クエスト失敗動画なんて上げたくはなかったけど、他の冒険者への戒めのために配信するよ」
「いいぞ、マリアンヌ。クエスト失敗を好んで視聴する向きもいるからな。情けない姿を晒す冒険者というのもいい見せ物だ」
「……イルミナ。あんたには心というものがないのか」
「ははっ。エルフにもあるさ。おまえたち人間ほど感情に振り回されないだけだ。アシュレイ。私の見立てではおまえは今、クエストどころではないな?」
アシュレイはどきりとした。
冒険者ギルドの会館を訪れたのも、クライヴから意識を引き剥がすためだった。イルミナはすべてお見通しなのか?
「俺は……スウィングラーの名を高めるために生きている。クエストを成功させること以上に大切なことなどない!」
「ふふっ、よく吠える駒だ。だがアシュレイよ、忘れるな。おまえたち人間の命は短い。自分を誤魔化しているうちに寿命を迎えてしまうぞ」
商人ギルドと打ち合わせがあると言って、イルミナは会館から出て行った。
アシュレイはマリアンヌを宿まで送ることにした。
「悪いね、アシュレイ」
「気にするな。巨大スライムに関する貴重な情報を聞かせてくれたお礼だ」
マリアンヌの宿は、冒険者ギルドの会館の近くにあるらしい。アシュレイは足元がふらついているマリアンヌに肩を貸した。
体を寄せ合いながら道を歩いていると、前方に一番会いたくない人物の姿を発見した。
「クライヴ……」
「……アシュレイ。おまえはそうか、マリアンヌと……」
クライヴはうつむきながら、冒険者ギルドの会館がある方向へ走り去っていった。
誤解されてしまった。
アシュレイはショックを受けたが、立ち止まっている場合ではない。マリアンヌを宿に送らなければいけない。
胸の痛みを堪えながら、マリアンヌを連れて宿へと向かう。
「ありがとう、アシュレイ」
宿に着いた。
マリアンヌは、大人気の吟遊詩人のコンサートチケットをくれた。一枚だけではない。二枚もある。
明日の夜、コンサートが開かれるらしい。
「俺が貰ってしまっていいのか? チケットを取るの、大変だっただろう」
「まあね。友達と行こうと思ってたけど、あたしはしばらく療養しなきゃいけないから無理っぽい。アシュレイ、行って来なよ」
「俺には誘う相手などいないが……」
するとマリアンヌは真剣な表情になった。
「本当にそうなの? あたしのカンでは、あんたには気になる人がいるようだけど」
アシュレイは沈黙した。宿に向かう道中でクライヴと行き合った際に、感情が顔に出てしまったのかもしれない。
「あんたは勇敢な魔法戦士だ。あんたに惚れられて嫌がる相手なんていないよ。もっと自信を持って」
「……マリアンヌ」
「そろそろ寝るね。今日は本当にありがとう」
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アシュレイは一礼すると、マリアンヌの部屋を出た。
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