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約束の日、玲司はケーキの箱を片手に、陽翔の部屋にやって来た。
「このロゴ……超有名店ですよね。並んだんじゃないですか?」
「きみの喜ぶ顔が見たかったから」
陽翔は小皿にフルーツケーキを盛りつけて、ローテーブルへと運んだ。
玲司がフルーツケーキの一部をのせたフォークを陽翔の口元に差し出した。
「はい、あーん」
「……恥ずかしいです」
「新婚さんみたいでいいんじゃない?」
玲司が爽やかに微笑んだ。
この人がジジ抜きのジジなわけがない。陽翔はフォークを口に含んだ。フルーツケーキの甘酸っぱい香りが舌の上に広がる。
「お味はどう?」
「最高です」
「じゃあ、僕にも分けて」
「えっ」
玲司が陽翔の隣にやって来た。抵抗する間もなく、陽翔は玲司の懐に閉じ込められてしまった。
顔が近い。口元に息が吹きかかる。
窮地に立たされた陽翔はぎゅっと目を瞑った。石鹸の匂いがふわりと鼻先をくすぐる。玲司の唇を待っていたその時、ドアチャイムが鳴った。
陽翔は玲司から体を離し、ドアを開けた。
玄関口には白いワイシャツを着た男性が立っていた。男性は陽翔と目を合わせると、深々と頭を下げた。
「こちらのアパートの管理を担当しております、××不動産の林と申します。実は一部のお部屋で漏水がありまして。アパート全体の配管等の工事のため、一時退去をしていただきたいのですが、ご了承いただけますでしょうか?」
陽翔は林から渡された書類にざっと目を通した。しかし、難しい言葉が並んでいるため、まったく理解できない。
「法律の定めによると、借主には修繕工事の受忍義務というものがあるんです。ご不便をおかけしますが、一時退去を受け入れていただきたく存じます」
工事の期間は少なくとも一ヶ月はかかるらしい。
「人手不足のため工事会社の予定が詰まっておりまして。一時退去の期間はお家賃をいただきません。マンスリーマンションなどをご利用いただければ幸いです」
「そうですか……」
「ただ、大変申し上げにくいのですが、一時退去先の滞在費はご負担いただくようになります」
ペコペコと林は何度も頭を下げた。おそらく、自己負担という点に関して多くのクレームを受けてきたのだろう。
「工事は××日から始まりますので。恐れ入りますが、ご準備のほどよろしくお願い致します」
林が去ったあと、陽翔は腕組みをした。
スマートフォンで都内のマンスリーマンションを検索してみるが、思ったよりも相場が高い。
その時、玲司が言った。
「あの……もしよかったら僕のマンションに来ない? ××線が使えるから、きみの勤務先にアクセスしやすいと思う」
「でも、俺が押しかけたら迷惑でしょう?」
「陽翔くんと一緒にいられるなんて最高じゃないか!」
力強く言い切られたので、陽翔の心から不安が消えていった。
「お言葉に甘えてもいいですか? 家事は俺がしますから」
「きみをハウスキーパーにしたいわけじゃない。気を遣わないで」
玲司が陽翔をそっと抱き締めた。
「このロゴ……超有名店ですよね。並んだんじゃないですか?」
「きみの喜ぶ顔が見たかったから」
陽翔は小皿にフルーツケーキを盛りつけて、ローテーブルへと運んだ。
玲司がフルーツケーキの一部をのせたフォークを陽翔の口元に差し出した。
「はい、あーん」
「……恥ずかしいです」
「新婚さんみたいでいいんじゃない?」
玲司が爽やかに微笑んだ。
この人がジジ抜きのジジなわけがない。陽翔はフォークを口に含んだ。フルーツケーキの甘酸っぱい香りが舌の上に広がる。
「お味はどう?」
「最高です」
「じゃあ、僕にも分けて」
「えっ」
玲司が陽翔の隣にやって来た。抵抗する間もなく、陽翔は玲司の懐に閉じ込められてしまった。
顔が近い。口元に息が吹きかかる。
窮地に立たされた陽翔はぎゅっと目を瞑った。石鹸の匂いがふわりと鼻先をくすぐる。玲司の唇を待っていたその時、ドアチャイムが鳴った。
陽翔は玲司から体を離し、ドアを開けた。
玄関口には白いワイシャツを着た男性が立っていた。男性は陽翔と目を合わせると、深々と頭を下げた。
「こちらのアパートの管理を担当しております、××不動産の林と申します。実は一部のお部屋で漏水がありまして。アパート全体の配管等の工事のため、一時退去をしていただきたいのですが、ご了承いただけますでしょうか?」
陽翔は林から渡された書類にざっと目を通した。しかし、難しい言葉が並んでいるため、まったく理解できない。
「法律の定めによると、借主には修繕工事の受忍義務というものがあるんです。ご不便をおかけしますが、一時退去を受け入れていただきたく存じます」
工事の期間は少なくとも一ヶ月はかかるらしい。
「人手不足のため工事会社の予定が詰まっておりまして。一時退去の期間はお家賃をいただきません。マンスリーマンションなどをご利用いただければ幸いです」
「そうですか……」
「ただ、大変申し上げにくいのですが、一時退去先の滞在費はご負担いただくようになります」
ペコペコと林は何度も頭を下げた。おそらく、自己負担という点に関して多くのクレームを受けてきたのだろう。
「工事は××日から始まりますので。恐れ入りますが、ご準備のほどよろしくお願い致します」
林が去ったあと、陽翔は腕組みをした。
スマートフォンで都内のマンスリーマンションを検索してみるが、思ったよりも相場が高い。
その時、玲司が言った。
「あの……もしよかったら僕のマンションに来ない? ××線が使えるから、きみの勤務先にアクセスしやすいと思う」
「でも、俺が押しかけたら迷惑でしょう?」
「陽翔くんと一緒にいられるなんて最高じゃないか!」
力強く言い切られたので、陽翔の心から不安が消えていった。
「お言葉に甘えてもいいですか? 家事は俺がしますから」
「きみをハウスキーパーにしたいわけじゃない。気を遣わないで」
玲司が陽翔をそっと抱き締めた。
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