【完結】サボテンになれない俺は、愛の蜜に溺れたい

古井重箱

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 玲司と暮らし始めてから、三日が経った。
 お互い夜遅くまで仕事があるので、玲司のマンションで一緒に過ごす時間は少なかった。玲司は書評の締め切りを抱えていて、タブレットにセットしたキーボードを夢中で叩いている。
 真剣な表情に見惚れてしまう。
 ひとつ屋根の下にいるのに、玲司の手が陽翔の体に伸びてくることはなかった。それだけ大事にされているんだと思いつつも、寂しくてたまらない。
 でも、もっと構ってほしいと玲司に言うことはできなかった。いい大人が子どものように甘えてきたら興醒めだろう。
 リビングの壁際に置かれたラックには、小さなサボテンが飾られている。
 これだと陽翔は思った。
 与えられる水が少なくても平気なサボテンのように、自分も強くなればいい。ほんの少しの愛情でも平気な自立した存在、サボテン系男子を目指そう。
 陽翔はソファに座ると、ワイヤレスイヤホンを身につけた。そして、今日のプロ野球のハイライトをまとめた動画をスマートフォンで視聴した。ジュラシックスは渕上の活躍により勝利を収めている。
 動画が終わりに差しかかった時、玲司がソファにやって来た。陽翔の隣に座る。

「渕上、今日も打ったみたいだね」
「はい。三安打五打点です」
「すごいなあ。さすが、陽翔くんの推しだね」

 腕と腕が触れ合った。玲司の体温を感じる。陽翔は肩を預けたくなったが、踏みとどまった。自分はサボテン系男子になるのだ。ベタベタして、玲司に甘えるわけにはいかない。

「陽翔くん、なんだか顔つきが変わったね。すごくキリッとしてる」
「俺、目標ができたんで。頑張ります」

 陽翔はソファから立ち上がった。
 
「シャワー浴びてきます」
「うん」

 バスルームで陽翔は全身を清めた。もしかしたら今夜、玲司に求められるかもしれない。
 いや、そんな風にエッチなことをされたいと期待するのはサボテン系男子としてはいかがなものか。性欲なんてありませんという態度を貫くべきである。
 バスルームを出ると、陽翔は玲司に声をかけた。

「先に休みますね」
「分かった。おやすみ」
「おやすみなさい」

 ダブルベッドに身を投げ出す。広々としたベッドにひとりでいると、寂しさが募ってきた。
 どうして自分はこんなにも弱いのだろう。玲司は手を出してこないけれども、一緒にいてくれるではないか。
 目を閉じて、砂漠の風景を思い描く。
 サボテン系男子への道のりはなかなかに険しかった。
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