【完結】サボテンになれない俺は、愛の蜜に溺れたい

古井重箱

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 もうすぐアパートの工事が終わる。
 玲司との暮らしもおしまいだ。陽翔はソファでスマートフォンをぼんやりと眺めていた。玲司はいつものようにタブレットを使って、文章を打ち込んでいる。
 結局、キスもなしか。
 頑張ったけれども、陽翔はサボテン系男子にはなれなかった。寂しくてたまらない。玲司に触れてもらいたい。
 その時、玲司のスマートフォンに着信があった。

「ですから、その件に関してはもう、こちらからお話することはないとお伝えしたはずですが」

 冷たい声音だった。
 自分も近いうちに玲司に切り捨てられるのではないか? 一緒に暮らしてみたけれども、きみに魅力を感じなかったと言われて。
 通話を終えた玲司は、苛立たしげに頭を掻きむしった。そんな玲司を見るのは初めてなので、陽翔は驚いた。

「ごめん。シャワーを浴びてきてもいいかな?」
「どうぞ」

 玲司がバスルームに向かった。
 陽翔はテーブルに日記を広げた。

『寂しい、でも言えない。俺たち、もう終わりかも』

 ネガティブな気持ちを吐き出していく。大学ノートに夢中になってペンを走らせていると、玄関のドアが開いた。

「えっ? どちら様……って、コウタさん?」

 突然現れたのは、配信者のコウタだった。大輪の花を思わせる美貌には、苛立たしげな表情が浮かんでいた。

「きみがみずきママが言ってた、白いごはんくん?」
「大原陽翔です。俺、コウタさんの配信、いつも見てます」
「間抜けだねー、あんた。俺は玲司の元カレだよ。あいつから何も聞いてなかった?」

 陽翔は首を横に振った。
 玲司がコウタの本を見ても快い反応を示さなかったのには、そういう事情があったのか。

「あいつはどこ?」
「バスルームです」
「そう」

 コウタがバスルームに直行した。
 バスルームの扉が開く音に続いて、コウタと玲司が怒鳴り合う声がリビングに聞こえてきた。

「触るな! 僕はもう、おまえの恋人じゃない」

 玲司が本気で怒っている。優しく微笑む玲司の姿しか知らなかった陽翔はショックを受けた。

「じゃあ、3Pしよ? それならいいでしょ」
「コウタ……。僕は確かに以前は、おまえの奔放なところに惹かれたよ。でも、ついていけなくなった」
「ねえ、地味男くん。きみも玲司の極太ち×ぽが気に入ったの?」
「陽翔くんを辱めるようなことは言うな!」

 コウタは陽翔の日記をつまみ上げると、書かれていた内容を読み上げた。

「『寂しい、でも言えない。俺たち、もう終わりかも』だってさー。玲司、もしかしてまだこの子に手をつけてないの?」
「……本気の恋なんだ。軽々しく抱けるわけがない」
「週五で俺とヤッてたのに、よく言うよ」

 ケラケラと笑いながら、コウタが陽翔の頬に触れた。

「なあ、玲司。こんな地味男と俺のどっちを選ぶべきか、賢いおまえなら分かるだろ? また一緒に暮らそう」

 玲司は足音を立てて突進すると、コウタの体を陽翔から引き剥がした。

「痛ーい! 何すんだよ!」
「コウタ。僕はもう、おまえのことをなんとも思ってはいない。早く新しい人を見つけてくれ。大体、合鍵は返してもらったはずだよな? なんで持ってるんだ」
「俺は……玲司と復縁できるって信じていたから、合鍵のスペアを……」
「犯罪すれすれの行為じゃないか。迷惑だ」
「そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃないか!」

 コウタが床に合鍵を投げつけた。
 フローリングと合鍵がぶつかって生じた金属音はまるで、コウタの心の叫びのようだった。

「どうして俺じゃないんだよ! なんでそんな地味男と?」
「おまえのそういうキツい言動に耐えられなくなったんだよ」
「薄情者! あんなに大好きだって言ってくれたのに」

 コウタが大粒の涙を流した。
 陽翔は洗面所からフェイスタオルを持ってきて、コウタに差し出した。しかしコウタはタオルを受け取ってくれなかった。

「コウタさん……あの。俺、コウタさんの動画が好きです。勉強になるし、元気が出てくるし」
「何それ。上から目線の同情? いらないよ、そんなの」
「コウタさんのことを想ってる人がきっといると思います」

 インターホンが鳴った。
 玲司がドアを開ける。現れたのはスタイルのいいイケメンだった。襟足が長めで、やんちゃな印象を受ける。

「コウタ。今夜はうちに来い」
「……ヒロには関係ないだろ」

 ヒロと呼ばれたイケメンは、コウタにキスをした。
 舌と舌が絡まり合う艶かしい音が室内に響いた。
 濃厚なキスは永遠に続くかと思われた。コウタの目はとろんとなっている。
 やがて、コウタと唇を離すとヒロが言った。

「こいつの面倒は俺がるんで」
「頼んだよ、ヒロ」
「玲司。これだけは分かって。俺、玲司のこと、本気で好きだったんだから!」
「うん。ありがとう」

 ヒロに連れられて、コウタは玲司のマンションから去っていった。

「驚かせてしまったね」
「いえ。まさか玲司さんの元カレが、配信者のコウタだったなんて」
「あいつとはいつも喧嘩ばかりだった。気が強いところに惹かれたのに、自分の手には負えなくなって別れを切り出した。僕って勝手だろ?」
「……人間関係は難しいものですから」

 玲司が陽翔を抱き締めた。

「寂しい思いをさせてごめん。仕事や書評にかまけて、気づくことができなかった」
「俺、サボテン系男子を目指したんですけど、無理でした」
「サボテン系男子?」
「少ない愛情でも元気いっぱいな、自立した人のことです」
「僕は……陽翔くんを甘やかしたい。とろとろになるまで抱いて、僕なしではいられないようにきみの体を作り変えてしまいたい」

 大胆な発言が飛び出したので、陽翔は驚いた。

「玲司さんもそういうこと考えるんですね」
「頭の中はそればっかりだよ! 陽翔くんが可愛くて、でも手が出せなくて。だってきみのアクシデントにつけ込んで抱いたりしたら最悪だろ? それに……きみは渕上みたいなマッチョマンが好きなのかなと思っていたし」
「えぇっ!? 推しは推し、恋人は恋人ですよ。俺、玲司さんのすらっとしてるところ、かっこよくて大好きです」

 玲司が陽翔のあごに手を添えた。

「キスしてもいい?」
「はい!」

 目を閉じれば、唇と唇が重なった。
 はじめは遠慮がちだった玲司の舌遣いがやがて性急さを増していった。口蓋を執拗に舐められて、陽翔はついに勃起してしまった。

「反応してくれたんだ。可愛い」
「ごめんなさい。俺、堪え性がなくて……あっ!」
「全部出して」

 玲司は陽翔のスウェットとボクサーパンツを引きずり下ろすと、ペニスを緩やかに扱いた。薄い皮膚がくちくちという音を奏でる。カウパーでじゅくじゅくになったペニスの裏筋を玲司は指でなぞった。
 カリをこすられて、陽翔は精を放った。

「陽翔くん、愛してるよ」
「玲司さん……」

 ふたりは再び口づけを交わした。
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