【完結】サボテンになれない俺は、愛の蜜に溺れたい

古井重箱

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 ランチタイムが終わり、円福飯店はアイドルタイムに突入した。
 陽翔は厨房に立つと、野沢を呼んだ。

「今日は一緒にまかないのチャーハンを作りましょう」
「……私は足手まといになるのでは?」
「野沢さんと作りたいんです」

 言葉は相手を傷つける可能性がある。だからと言ってコミュニケーションから逃げていては何も生まれない。
 陽翔は中華鍋を振ったあと、野沢にバトンタッチした。

「そうです。そうやって、ガーッと炒めてください」
「時間はどのぐらいですか?」
「香ばしい匂いがしてくるまで。それと、腕がいい感じに疲れるまで」
「五感が大事ってことですか」
「はい。さすが野沢さん。本質を突くのが上手い!」

 野沢が照れたように微笑んだ。
 中華鍋のなかでは具材が混ざり合い、美味しそうな香りを漂わせている。白いごはんっていいなと陽翔は思った。白いごはんはどんな食材にも合わせられる柔軟性がある。
 サボテン系男子にはなれなかったが、これからも白いごはんのようだと言われるような、素直で飾らない自分でいよう。

「できた! あとはフワッと盛り付けるんでしたよね?」
「はい。お願いします」

 野沢がチャーハンを皿によそった。完璧な仕上がりだった。
 陽翔は笑顔になった。

「野沢さん、オッケーです!」
「よかった……。私には一生無理なのかと思っていました」
「俺が説明下手だったから。不安にさせてごめんなさい」

 陽翔は野沢にレシピを渡した。
 
「これ、よかったらどうぞ。手書きだから、字が下手だけど」
「すごく助かります! 家でも練習してみます」

 野沢が喜びを爆発させた。

「よっしゃ! これで夢に一歩近づきました!」
「野沢さん、夜の部も頑張りましょう」
「はい!」

 そしてふたりはチャーハンを食べた。
 パラっとしているけれども、中身がふっくらとしているごはんを味わう。陽翔は野沢に味を伝えられたことを喜ばしく思った。
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