「チートでも目立たずにスローライフを送るための」実践講座

蛍さん

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8、宿を借りよう!

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「一人部屋空いてますか?」

リグは宿の受付に立った人の良さそうな中年の女性に問いかける。
女性は笑顔で答えた。

「いらっしゃい、一人部屋ね。
空いてるよ。

何日泊まるんだい?」

「取り敢えず一週間くらいお願いしようかな。」

「そうかい、食事無しなら銀貨7枚、ありなら銀貨10枚だよ。」

「食事は大丈夫かな。」

そう言って、銀貨7枚をカウンターに置く。

「まいどあり!」

リグは、前世の感覚から違和感を覚えて言った。

「…それにしても、随分高く感じるけど、何かあったの?」

「ああ、実は最近ここらで魔物が減少してるみたいでね。
街に来る冒険者も少なくなってるんだよ。

街の治安からしたら良いことなんだろうけど、あたしらみたいな冒険者相手の奴らからすれば商売上がったりだよ。

見たところあんたも冒険者なんだろ?

そんな買い込んでるところを見ると、この街に来るのも初めてなんじゃないかい?」

リグは、返答に少し詰まった様子だったが、腹を括った様に息を吐いて、返答した。

「正確には、冒険者って訳でも無いんだけど、まあそんな感じだよ。

この街に来るのも初めてだ。」

「やっぱりね!
屋台は多いし、目移りしただろう?
どれも美味いから、色々試してみることだね!」

「分かったよ。

部屋での飲食は自由?」

「もちろんさ。」

女性はカウンターの奥から部屋の鍵を取り出して、リグに手渡す。

「それにしても、あんたの服、随分と汚れてるね。

ところどころ切れてるし、血も染みてる。
換えはあるのかい?」

リグは首を横に振る。

「…うちの息子のお下がりで良ければ、着るかい?」

「それは…」

「ああ、別に嫌なら良いんだ。
詮索する訳でもないよ。

…ただ、独り立ちした息子を思い出してね。」

リグは少し考え込むような仕草を見せたが、顔を上げて答えた。

「それなら、ありがたく受け取らせて貰おうかな。」

その返答に、女性は満開の笑みを浮かべる。

「本当かい!

じゃあ準備して運びこんどくから、少し待っときな!」

女性はさっき渡した部屋の鍵をリグの手から奪いとって、ばたばたと音を立てて階段を駆け上がっていった。

「結局、仲良くなっちゃたな…」

苦笑混じりのリグの呟きは、誰にも届いてはいなかった。

ーーーー

部屋に置かれた少し古びた洋服に袖を通して、ドラさんを鞄から取り出した。
部屋には鍵をかけて、音声認識阻害魔法もかけていく。

ドラさんはベットに乗せられると、何回かベットで跳ねる仕草を見せて、それからぐで~っと体を仰向けに伸ばした。

(あー、可愛い。

もう可愛い。癒し。撫で回したい。)

内面では完全に破顔していながらも、外ずらは完璧な笑顔を取り繕った。

「ごめんね、ドラさん。

鞄苦しかったでしょ?」

そう問いかけながらドラさんの首筋に指を当てて少し動かして撫でる様にした。
そうすると、ドラさんは指に擦りつくような仕草を見せる。

(はい死んだ~。
もう死んだ。死んで転生して生き返ったわ。うん。
可愛い。)

「鞄も買い換えようね。

…でもその前に、食事にしようか。」

ドラさんはベットから飛び起きて、嬉しそうに鳴き声を上げた。
それを受けたリグは、完全にフリーズして、後ろ向きに倒れこんだ。

部屋には相当な音が鳴り響いたが、音声阻害魔法のお陰で外には全く音が漏れてはいなかった。


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