『ショパンへのオマージュ』“愛する姉上様”

大輝

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第19章 えっ?!姉上がデート?

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【オルフェウス学院正門】

「おはよう、星ちゃん」

「おはよう涼太」

新学期だ。

【桜並木】

「おはよう星ちゃん花園君」

「おはようございます」

「おはよう葵ちゃん」

「うー、寒い。おはようございます。星さん、花園さん。あー風邪ひいたみたいー」

「大丈夫か?晴香。ハークション!」

「やだー橘さん」

またいつもの日常が始まった。

何だか最近この2人、良い感じになってきたかな?

冬休みの間も、2人で会っていたみたいだ。

駐車場から姉上が来た。

「あ、城咲先生。おはようございます」

「皆さん、おはようございます」

今日は、朝から来てるのか。

「何で一緒に来ないんだ?」

「そうですよ。一緒に来れば良いのに」

「嫌だよ。学校では他人のフリ」

「先生。それ楽譜ですか?」

「そうよ~」

〈陽の手から楽譜を取る星〉

「ああ、大丈夫よ」

「重そうですよ、先生。持って貰えは良いんですよ」

晴香が言う。

「でも~校舎が別だから~」

「まだ時間有るから、持って行くよ」

「皆んな見てるぞ」

だから、嫌なんだよな…

【ピアノ科】

「ここで良いわ」

「上まで持って行く」

【ピアノ科の第1教室】

「ありがとう。もう、遅れるから早く行きなさい」

「うん」

【カフェ】

放課後、健人とお茶を飲んでいると、涼太と晴香が来た。

「あー私、何か甘い物が食べたい」

「お前太るぞ」

「あーん、言わないで」

「あ、居た居た。城咲君」

桜井さんだ。

「彼よね、秋のコンクール入賞したの」

「うん」

「うちのオケに空きが出来だんだけど、オーディション受けてみない?」


オルフェウス・アカデミー・オーケストラは、殆どが音楽院大学の生徒で出来ているんだけど、高等部の生徒でも、実力が有り、先生の推薦が有れば、オケに入れる場合が有るんだ。

「え?だって私、先生の推薦が」

「推薦なら貰ってるわよ。岡崎先生に聞いてない?」

【弦楽科の教室】

「推薦しといたわよ。ソリストになりたいのはわかってるけど、これも一つのチャンスだから、やってみても良いんじゃない?」

ソリストになるのは簡単な事ではない。

大きな国際コンクールで入賞するか、オケのコンサートマスタークラスになるか…

美月さんのように、幼い頃から天才的で、その実力を認められ、コンクールを受けずに一流のソリストの仲間入りをするのは異例だ。

音大を出ても、プロの演奏家になれない人も沢山居る。

【裏庭】

「城咲先生は、どうやってソリストになったんだよ」

「バッハ国際とモーツァルト国際優勝して、ショパンコンクール1位無しの2位になった次の日から、世界が変わったみたいになったんだって」

「素晴らしいオーケストラと沢山共演させて頂いたわ」

「わっ、先生」

いつの間にか居るし…

「それで、それで?」

「コンクールの翌日から、電話が鳴り止まなくて…演奏会の出演依頼を沢山頂いて、ここはどこ?私は誰?ってなったの。だって昨日まで学生だったんですよ」

「うわー」

「それで、日本に帰れなくなって、気がついたら春になっていたのよ~」

ハハ…コンクール終わったの秋ですけどね…

ま、姉上らしいと言えば、らしいけど。

【城咲家 陽の部屋】

〈誰も居ない部屋に入る星〉

普通は、部屋に入ったりしないんだけど…

〈そっと胡蝶蘭の鉢植えを置く〉

「あら、星君」

うわっ、見つかった。

「わあ~綺麗ね、ありがとう」

〈満面の笑みの陽〉

「温室育ちだけどね」

happy birthday 姉上。

【カフェ】

翌日、僕達がカフェでランチをしていると、桜井さんが来た。

「どう?花園君。オーディション受けてみる気になった?」

「…もう少し…考えさせて下さい」

「そう…でも、あんまり待てないわ。他の人にも声をかけてるし…じゃあ、その気になったら大学の方へ来て」

「わかりました」


「何でそんなに悩むんだよ、やってみれば良いじゃん」

「オケに入ったら、今迄とは弾き方を変えなきゃいけないの。自分なりの表現が出来なくなるし…」

そうだよな…

皆んなの中の1人になるって、意外と大変だと思う。

小さい頃から集団行動の苦手な僕には、到底無理だ。

ソリストにだって、皆んなで一つの音楽を作るのよ。

私もその中の1人よ。

って言う人も居るけどね。

でも、オケの中に入るのは、また別の事だろうな。

「オケの首席の人で、ソリストとして演奏活動をしてる人は沢山居るけど、今の私に、弾き分ける事が出来るかしら?」

「やってみれば良いじゃんかよ」

「今の涼太に、って言うなら、僕は出来ると思うよ」

「だろ?星もこう言ってるし、悩むより受けてみろよ」

「私も、そう思います。良いなあ…ピアノはいつも1人だもんな…」

【音楽大学】

次の日、涼太はオーディションを受ける事にしたんだ。

桜井さんは、どこに居るんだろう?

「あら、マエストロ。菜々ー」

「あ、城咲君」

〈涼太の手のヴァイオリンに目をやる菜々〉

「その気になったのね、花園君」

「はい、お願いします」

「じゃあ、こっちに来て」

僕達は、オケが練習する教室に連れて行かれた。

【大学の教室】

「じゃあ、用意が出来たら、何か弾いてみて」

「はい」

〈ヴァイオリンを出してチューニングする涼太。菜々と見ている星〉

「お願いします」

弾き始めた。

曲は、バッハのシャコンヌだ。

最後まで聞いてもらえた。

「結果は、岡崎先生に聞いてね」

「はい、ありがとうございました」


【洋食屋】

「あら、星さん。今日城咲先生は?」

「遅くなるんだって」

「それは寂しいですねー」

「もう、慣れてるよ。演奏会で帰らない日も有るし」

「本当は、寂しいんでしょう?」

「うるさいぞ~」

「素直じゃないんだから。先生今日は、演奏会じゃないならどこ?あ、デートか」

えっ?!

「ご注文は?」

「あ…今日のお勧めは?」

「サラダはこれで、グリルはこれ」

「じゃあ、それと」

「食後にダージリンティーでしょ?」

「うん」

【城咲家】

〈外は雪。門からレッスン室を見る星。明かりは付いていない〉

寂しくなんかないぞ。

〈門を開けて入ると、車が帰って来る〉

【駐車場】

〈車を降りる陽。荷物に手を伸ばす星〉

「あら、星君ありがとう。先に入ってれば良いのに~寒かったでしょう?」

「お帰り」

「雪が降ってるのに、待っていてくれたの?」

どこに行ってたんだろう?

まさか…本当にデート?

【玄関】

「ミャー」

「ニャー」

「ワンワーン」

〈星の持つ袋に興味津々の猫達。リビングまで付いて行く〉

「あなた達にお土産よ」

「ワーオン」

「ニコ君は、本当にワンちゃんみたいに鳴くわね~」

「ワンワーン」

「星君。それあげて」

「うん」

【キッチン】

「はい、どーじょ」

猫のお土産買って来るって…デート…?


〈オヤツを食べるフレデリク、ニコロ、アマデウス〉

姉上が着替えて下りて来た。

「食事は?」

「済ませて来たわ」

「そう」

誰と?

猫好きの人とデートかな?

「星君は、お夕食は?」

「晴香の家のお店で食べた」

「大学の子と?」

「桜井さんと一緒じゃないよ」

「桜井さん、ってお名前なのね」

「お姉様は、誰と?」

「さあ、誰とかしら?」

「…」

「フフフ」

笑ってるし…

「今度うちに連れていらっしゃいね」

うちに連れて来られたら、どうしよう?

付き合ってます。

とか…

結婚します。

とか、言われたら…

ああ、やだやだ…考えるのよそう。

【レッスン室】

また、フレデリクが先に来てる。

〈ピアノの前に座る陽。向きを変えて〉

「どうしたの?今にも泣き出しそうなお顔よ」

だって…姉上が結婚するなんて、今から考えるだけでウルウルしてくるよ。

「あ、そうそう。葵ちゃんがね、花園君合格って、言ってたわよ」

「そうなんだ。良かった…え?もしかして、葵ちゃんと食事してたの?」

「そうよ~どうして?」

「何だ、そうか…」

「フフフ」

〈ピアノを弾く陽。曲はプーランクの3つのノヴレット〉

葵ちゃんと一緒だったんだって、フレデリク。

〈フレデリクの頭を撫でる星。気持ち良さそうに寝ているフレデリク〉


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