雪の青年と血を継ぐ令嬢

道端

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目覚めて

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 (寒い……)

 ほぅ、と目を閉じたまま息をはく。
 寒い?いや、熱いのかもしれない。身体全体が火照っていて、それに何だか頭が重い気がする。口を開けて声を出そうとするけども、それは酷く掠れていて声にはならなかった。喉を痛めてしまっているのか。何処と無く風邪の症状に似ている……いや、あんな所に薄い布一枚で長い間歩いていたのだから風邪をひくのも当たり前かしら。


(……なに、が? あったの? 雪の森に行って、大木に寄りかかって……謎の声が、それで)

 謎の声?
 雪の森で何があったか、どうしてこうなったのかを痛む頭で考える。そうだ、罪人として雪の森に連れてこられて、大木で眠ってしまったんだ。


 思い出すと、一気に意識が覚醒していく。まぶたをゆっくりとあげると、そこは建物の中だった。先程までいた雪の森ではなく、私はどうやら柔らかいベットに寝かされているようだ。

 状況が理解できず、視線だけをキョロキョロと動かす。部屋はそこまで広くない。私が寝ているベットと、その横に椅子と小さな丸いテーブル。あとは長方形の大きなテーブルとソファ、本棚とクローゼットがあるくらい。

 ベットサイドのテーブルには桶に汲まれた水が入っているようで、これは汗を拭くようなのか。誰かがあのまま助けてくれたらしい。そういえば服もワンピースではなくなっていてちゃんとした服になっている。

(あの声の人が助けてくれたの? どういうこと。何故私は生きているの)


 幻聴ではなかったのか。
 なぜあの森に人間がいたのか分からないけれども、国の罪人を匿っているなんてバレたら国から追われてしまうことになる。きっと偶然あの森に入ったんだ、じゃないとあんな所に近づく人なんていない。助けてくれたのに、迷惑なんてかけられない。意識はある程度ハッキリしているし、今日中に出ていかないと。

 ゆっくりと身体に力を入れて上半身を起こす。頭痛が酷いが、このくらいどうにでもなる。行く場所は……ないけれど、死に場所くらい最後に選びたいわね。

 起き上がってのそのそと床に足をつけて立ち上がろうとしたとき、部屋の扉がコンコンと控えめにノックされた。


「こんにちは、もう起きているか? 返事がないからまだ寝ているのか……」
「ぁ……」

 突然のことに立ち上がろうとしたままの姿で一瞬固まる。返事をしようにも声がでない。私が何も応えないままベットにいるとそのまま部屋の扉は開かれた。


「おや、大人しそうに見えて……熱はまだ下がっていないのだから助けもなしに動いてはいけないよ。でも目覚めてよかった、おはよう。名前を聞いても?」

 そこには、黒曜石のような色をした綺麗な髪を結んだ男性が立っていた。男性は淡い水色の瞳を細めて私に笑いかける。


「ぁ、ぅ」
「もしかして喋れないのか。君は高熱で三日ほど眠っていたんだ。ゆっくりでいいから水を飲めるか?」

 男性は扉からベットの横にある椅子に移動し、座る。
 そして手に持っていたコップを私の口もとまで持っていき、そのままふちを私の唇につけると、飲みやすいように傾ける。どうやら、男性は私に水を飲ませようと持ってきていたらしい。手に力が入らないので、このまま甘えておこう。

「けほっ……は、あの……ここは」
 喉が潤い、なんとか声が出るようになった。聞きたいことは沢山ある。

「私の名前はサキシア。私の友人がここまで君を運んでくれたんだけど覚えてないか?」
「運んでくれた……」 
 
 そういえば、なんとなく助けてくれるようなことはあの謎の声が言っていた。謎の声の人とこの人は違うのか。

「意識を失う前だったので曖昧ですが、おぼ、えてます。私の名前はハリシュアルと申します」
「ハリシュアル? 振る舞いが貴族のようなのだけれど、貴族じゃないのか?」
「あ、いや……」
「あぁ、ごめん。気にしないで、ハリシュアル。嫌なことを思い出させてしまったなら謝る。すまない」
「いえ、いいんです。終わったことですし」

 どうしても声が弱々しいものになってしまう。
 そうだ、もう終わったこと。今頃、父様はあることないこと言われて国中の人から嫌われてしまうのだろう。罪人とはそういうものだ。今更、私一人が頑張ろうとしたところでどうにもならない。家族のことだけが気掛かりだけれども貴族に引き取られたのなら殺されることはないわ。飼い殺しと一緒だもの。

「君を助けた男は一階にいる。二階は客室と私とあの男の部屋しかないんだ。店をやっていてね、彼は店番中だ」
「そう、なんですね。お礼を言わないと」

 サキシアさんは私を支えるようにして私の名前は背中に手をあてると、そのままぐっとベットから引いてくれた。

「君の事情はある程度把握しているつもりだ。安心してくれ、酷いことはしないさ。これからのことをちゃんと話そう」
「……はい」

 事情を知っているとは、どこまでなのかしら。
 震えそうになる身体を自分の腕で抱き締める。全て話すことはできないけれども、ちゃんと話さないと。一緒に長くいることは、この人と助けてくれた彼に迷惑がかかってしまう。



 弱くなっては駄目なのに。
 彼らから突き放されることを考えると、とても辛い。
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