おばあちゃん百合ひとりアンソロジー

飛鳥井作太

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女学園の元ダンス部部長×副部長

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 After

 近代文学で読んだダンスホールに憧れて。私は、自分のダンス教室のホールを、たまに一般開放する。ご自由に踊ってどうぞ、という空間として。それでも、やっぱり来るのはダンスを練習しに来る生徒たちだったりするのだけど。
 でも、その日は違った。
「楽しみね」
「めいっぱい踊らないと」
 おばあちゃん二人が、連れ立って楽しそうにやって来たのだ。二人は、ダンスシューズに履き替え、準備運動を終えるや否や、すぐさま手を取り合って踊り出した。
「ちょっと。ステップ、半テンポ遅れてるわよ」
「いやぁねぇ。歳を取ると足がついて来ないわ」
 もちろん、お年を召しているから足運びがぎこちないところや、よろけるときもある。
 しかし。どちらも背筋を伸ばし、堂々としていた。何より顔がしっかりと微笑んでいる。このホールの中で一番、踊ることを楽しんでいる顔だ。
「やだ、腕がすぐ下がろうとするわ」
「それでもカッコいいんだから、罪ね」
「そっちも。ステップを間違えたって優雅なんだから」
 朗らかに笑い合いながらくるくると舞う老女たちは、このホールで一番美しい花だった。

 ……このあと、壁にもたれて「疲れたわー」と笑い合う様すら、とてもキュートだったことを添えて置く。

 Before

 その日、お二人の踊る姿を見たとき。私は思わず泣いてしまった。
 私以外の部員も皆、静かに涙を流した。
「……」
「……」
 交わす言葉も無く。お二人はただ真剣な眼差しで、ホールを優雅に、かつ勇壮に、縦横無尽に、踊りながら横切っていく。
 真っ直ぐにピンと伸びた背筋。計算され尽くした腕の角度。軽やかでいて、力強さも感じるステップ。
 お二人の息の合った足運びは、こんなにも美しいのに。神様に愛されているかの如き完璧さなのに。
 副部長のお父様は、お二人の踊りを奪うのだ。
『婚約者が出来たというのに、いつまでもダンスなぞ続けるものじゃない』
 と言って、勝手に転校まで決めてしまったという。
 お二人のダンスを見たことがあるのに、よくそんな決断をしたものだ。
 私が憤慨のままそう言えば、顧問の櫨谷はせたに先生がぽつりと言った。
 ……だからだよ。
 先生も悔しそうで、たまらない気持ちになった。
 副部長が転校される前日。
 先生は、お二人に好きに踊るよう言った。好きなように、好きなだけ。
「……」
「……」
 鬼神をも唸らせる美しい舞を、その日私たちはいつまでもいつまでも見つめ続けていた。
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