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4王女ブリュンヒルト

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何か、僕が伝説の神級の魔道具を身に付けているとか、変な因縁をつけて来られて、困惑する。僕はそんなもの身に付けていないけど、別に身に付けていても、何処がいけないのだ? そもそもこの魔術師、指輪やネックレスをつけているが、多分、魔力をブーストする魔道具だと思う。何で自分は良くて、僕は駄目なの? おかしい理屈だよね? 

「この卑怯者め、それならこれはどうだ!! 《愚風斬-撃-》! 《土撃斬 -撃-》!! 《氷撃 -撃-》!!!」 

魔術師は次々と違う属性の魔法を繰り出してきた。炎のシュレンとかいう二つ名はどうした? 

僕は襲い掛かる攻撃魔法を手でバタバタとして振り払った。その後も色々な僕の知らない魔法を仕掛けてくるが、全部人差し指で振り払った。なんか、弱すぎて両手を使う気がしない。 

「ハァ……ハァ……な、何なんだコイツ?…………し、仕方ねぇ。これだけは使いたくなかった! 俺の最終奥義! 細胞の一片たりも残らねえから覚悟しろ!!」 

いや、細胞の一片も残さないって、怖いよ。それに、それ殺人だからね!  

魔術師は驚愕の視線で僕を見るが、肩で息をしながら、息も絶え絶え最後の魔法の詠唱を始めた。まるで魔王とでも戦っているかの様な演技だ。どうも最終奥義、この魔術師の最強の魔法だろう。少しは威力あるのかな? 今までがまるでチワワの全力攻撃みたいだったので、ちょっと期待する。 

「求めるは奈落の炎。奈落に巣くう煉獄の魔人、炎を司る餓鬼地獄の魔人よ、炎の神に仕えし炎の管理人よ。魔人エグゾーダスの名において命じる。炎よ! 全てを焼き尽くせ!?」 

ちょっと緊張して待つが、何も起きない。不審に思い、例の女の子を凝視する。か、可愛いな。黒髪に黒い瞳。綺麗な艶やかな髪。でも、彼女の表情は絶望を感じているかの様だった。 

どういう事? あまりのこけおどしに呆れているのかな? 実はこの魔術師、舐めぷしていて、真の力を隠していたらどうしようかな? とも思っていた。 

「……そ、そんな!?」 

女の子が、絞り出すような声で言った。 

へぇ? 僕は周りを見渡すが、何も無い。だが、ギャラリーも女の子も上を見ていた。僕も上を見上げる。そこには真っ黒に蠢く炎で埋め尽くされていた。 伝説の神級の魔法だろう。

「まあ……ビックリしだけど、大丈夫だよ」 

僕は女の子に笑顔を向けると、上空に現出した漆黒の炎を展開している術式に干渉した。 
炎を司る魔人エグゾーダスへの魔力回路を遮断する。そして、手に冷気の魔力を込めて、手をバタバタと振り回して、空に浮かんだ魔法をかき消した。 

「……えええええぇ?」 

何故か魔術師が変な声をあげる。そして、 

「……な、ななななっ、なんなのそれぇ! はぁ!? なんで!? なんでどうすればこんな事になるのぉ!?」 

魔術師が呆けた顔をすると、疲れたのか、その場にしゃがみ込んでしまった。 

「てめえ、何ものだ? お前、本当に人間か? いや、わかった、お前魔族だな? 今俺達がお前を討伐してやる。人間の仲間には指一本触れさせねぇ!?」 

ええっ! 君達悪者だよね? 僕は絡まれた女の子を助ける善人側のサイドだよ。それなのに魔族呼ばわりされて、まさかの人類の敵、『魔族』、悪者側にされている。困惑するしかなかった。 

「俺様の拳闘術の神髄を見せてやる。必ず、魔族からこの街を救ってみせる」 

「いや、僕、魔族じゃないし……」 

僕は気が弱いので、段々自信がなくなってきた。こんなにはっきり魔族だと断定されると、もしかしてそうなのかな? とさえ思えてきた。そんな筈はないと思うけど… 

むしろ、この人達の方が悪人だよね? 

「修練士、拳闘術、我の拳は鋼なり、我の身体の源は無限の闘気なり、我が拳は無敵なり!」 

「いや、待っていられないかな」 

修練士の拳闘術、武技言語、彼らは言霊に乗せて闘気を取り込み、身体能力を数十倍に引き上げる。待っている馬鹿はいないよね? 

僕は素早く修練士に近ずくと、デコピンをくらわした。 

「うぎゃぁあああああああああああ!? い、痛てぇ痛ぇ~」 

「ごめん。ちゃんと加減はしたんだよ」 

僕は素直に謝った。そんなに痛がるとは思わなかったんだ。 

「ぐ、ぐすん、ち、畜生、父親にだってぶたれた事ないのに…」 

修練士は拳で戦う職業にも関わらず、ぶたれた事が無いらしい。ちょっと、驚いた。 

「貴様、この卑怯者!? きさま瞬歩のスキルを使ったな?」 

「えっ? 使っていませんよ? 普通に近づいてデコピンしただけですよ」 

「そんな訳がないだろう? 修練士が武技言語を唱えている時は剣士の俺がお前を見張っていた。俺の目をかすめて動くなど、瞬歩のスキルを使ったとしか思えねぇ!」 

「い、いや、それ使っても、別に卑怯では無いと思うよ?」 

瞬歩のスキルとは剣や前衛職で役に立つユニークスキルで、瞬間移動ができる。あるととても役に立つ、僕ももっているが、使っていない。普通に近づいてデコピンしただけだ。 

僕が次々とこの不良冒険者に因縁をつけられて困惑しているとようやく助け船が来た。 

「あなた達、何をしているのですか? 先程、とんでもない魔力が観測されましたが、まさか街中で、上位魔法を使った人がいるんじゃないでしょうね?」 

振り向くと、事務服を着た。女性がいた。栗色の髪で、中々の美少女だ。 

「やばい、冒険者ギルドの職員だ!?」 

「ずらかるぞ、シュレンをおぶれ!?」 

茫然自失になっていた魔術師を修練士が抱えて三人の不良冒険者が逃げ出した、助かった。 

「あなた達、あの不良S級冒険者パーティ銀の鱗に嫌がらせされていたのね? 可哀そうに、さぞかし怖かったでしょう。もう大丈夫です。冒険者は悪さをするとギルドを除名になります。だから、私が来たからにはもう大丈夫です」 

「あ、ありがとうございます」 

「私からもお礼を申し上げます」 

女の子も頭を下げて、お礼を言うと、冒険者ギルドの職員はその場を去って行った。 

僕は女の子の方を見た。異国の騎士風の戦闘服を着た女の子は帯剣していた。白と青を基調とした衣装に白を基調とした剣。その剣には金銀様々な装飾がなされていた。 

この子、もしかして貴族かな? と思っていた時、彼女が唐突に言い出した。 

「わ、私、別にあなたの勘違いですからね! 初めて会ったのに、一目惚れして、この隙に乗じて、お付き合いしてもらって、恋人なるとか、お似合いの2人になるとか、未来のお嫁さんになるとか、結婚式場はもう予約した方がいいとか! 思っている訳じゃないですからね!」 

「えっと……あの、もしよろしければ僕のパーティに入ってくれませんか?」 

なんか、一目惚れしたとか言っているから、もしかしてパーティに入ってくれるじゃないかなと思い、恐る恐る言ってみる。 

「ええ!? そんな、私の事! 運命の人って、あわわわわわわっわわ!? そんな急に、そ、そんなに急に駄目です! イケないわ。未だ早いわ!? ちょっと待って。あなた! 落ち着いて!」 

いや、落ち着くべきはこの子の方だろう? もしかしてこの子、頭のねじ全部どっかにとんでいる? やはり、病院につれていくべきだろうか? しかし、どこの科を受診すべきだろう? 妄想科? か? 

「私達、そんなにお似合いかしら? ねぇ? 一体どうしましょう? うふふふふっ」  

いや、だから誰がそんな事言ったの? 誰もそんな事言っていないよね? これは緊急修理が必要だよね。スマホやパソコンなら電源ON/OFFでたいてい治るけど、この子に電源スイッチ、無いよね? いっそ殴るか?  

そんな事を考えていると、僕は気がついた。こんな頭のねじが飛んだ子とパーティなんて組めないよね? これ、絶対、逃げた方がいいよね?

僕は彼女に向かって、優しくこう言った。 

「君、上を向いて、目を瞑ってくれるかな?」 

「えっ!? 駄目です。早すぎます。も、もうですか? いえ、わかりました。お願いします」 

何故か頬を赤らめて、女の子は上を向いて目を瞑った。僕はその隙に乗じて逃げた。 
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