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24え? 戻って来い? いやもう遅いです!

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ナディヤ がアルのパーティに加わった頃。 
勇者パーティは 崩壊の危機に瀕していた。ナディヤの脱退が原因で、更に戦力不足に陥っていた。騎士団を5人から7人に増やしたが、ナディヤの治癒魔法や強化魔法を埋める事はできなかった。 

「勇者エルヴィンよ。有力な情報を手に入れた。心して聞け」 

勇者パーティの強化担当、ダニエル侯爵はエルヴィンに重要な話があると呼び出していた。 

「一体、何でしょう? 騎士団を更に増やして頂けるのですか?」 

「違う、そんな小手先の些末な事ではない。有力な情報だ。お前の申し出通り、ナディヤを連れ戻す為、騎士団につけさせたのだが、ナディヤはアルベルトのパーティに合流した。アルベルトは生きておったのだ」 

「はぁっ!?」 

アルベルトが生きている? それは楽しい情報だ。ヤツをいたぶる事ができる。ああ、何故俺はアルベルトをあんなにも簡単に殺してしまったんだ? もちろん誰にでも失敗がある。しかし、俺とした事が…十分になぶり倒した上で、殺すべきだった。 

そうだ、陰でこそこそフィーネを抱くのだなんて生ぬるかったのだ。ヤツの目の前でフィーネを抱くべきだった。いや、ヤツの妹と二人共同時にか… 

エルヴィンの顔に嗜虐心が戻り、その顔には笑みが浮かぶ。 

「そこで、早馬を用意した。今すぐフランク王国の首都に向かい、アルベルトに頭を下げてパーティに戻ってきてもらえ。それしか勇者パーティを立て直す手段はない」 

「な、そんな!?」 

エルヴィンは動揺した。人に頭を下げるなど考えただけで虫唾が走る。しかし、 

「パーティを立て直すにはそれしかあるまい。勇者のお前が頭を下げれば帰ってきてくれるだろう。彼は魔族討伐に心を砕いておった。貴様抜きでは魔族は倒せんからな」 

「わかりました。いくら足手まといとはいえアルベルトを殺そうとしたのはかわいそうでした。私も少し、憐憫の情が湧きました。私が自ら頭を下げれば感激して戻ってくるでしょう」 

この二人はアルが魔剣を有し、魔族を倒せるだけでなく、勇者ヒルデもパーティにいるので、エルヴィンが必要がないという事を知らない…いや、それ以前に厚顔無恥も甚だしい。 

「早速早馬で出発せよ。他のメンバーと騎士団も遅れて早馬車で移動させる。騎士団は20人程つける。試練のダンジョン攻略は中止だ。アルベルトを手に入れて、フランク王国の首都にできたダンジョン攻略を目指せ」 

「試練のダンジョンは良いのですか?」 

エルヴィンは不思議に思った。歴代の勇者は試練のダンジョンを攻略した後、勇者として魔族軍との戦いに赴いていた。それが未攻略のまま魔族軍との戦いに参加するなど、聞いた事がない。 

「国王からの勅命でもある。王都トゥールネのダンジョン攻略にアルザス王国の勇者パーティが苦慮しておる。我が国の勇者は未だ育成中だった為、フランク王国救援は十分なものではなかった。国王陛下はここで名誉挽回したいのであろう」 

「わかりました。アルベルトを仲間に引き戻し、アルザス王国とフランク王国に恩を売ってきます」 

うむとダニエル侯爵は頷く。実はダニエル侯爵は国王に試練のダンジョンは攻略済と報告していた。嘘に嘘を重ねたものの、危険になるのは勇者エルヴィン達である。ダニエル侯爵が危険に晒される訳ではない。香ばしい二人である。 

早馬で僅か3日でフランク王国の首都トゥールネに到着する。アルベルトの宿は既にナディヤをつけた騎士から聞いていた。 

アルベルトをパーティに戻してやったら、さぞかし喜ぶだろう。だが、その代わりに毎日目の前でフィーネとシャルロッテを抱いてやろう。そういえばナディヤはアイツの後輩で、懐いていたな。ナディヤも目の前で慰み者にしてやろう。ああ、楽しい生活がまっているぞ!? 

一体この男の脳細胞はどうなっているのか? この男はアルベルトの婚約者を卑怯な手で我がものとし、見下し、あざけり、挙句に殺そうとまでしたのだ。許す人間なぞいる筈もない。 

何処までも愚かな男エルヴィン… 

エルヴィンは事前にアポイントもとらず、アル達の宿舎を訪れた。 

「アルベルト、お前生きてたんだな、良かったな。喜べ! 足手まといのお前でも、もう一度パーティに引き戻してやる。泣いて喜んでもいいんだぞ!」 

エルヴィンはいきなり現れて都合のいい事を宣う。彼は自身がアルを奈落の底へ突き落として殺そうとした事を軽く考えていた。自身がされたら一生恨むだろうが、他者の痛みなど露ほどにもわからない人間なのだ。 

「悪いけど、喜べって…一体何を言って?」 

アルは本気でエルヴィンの神経が理解できなかった。殺されそうになって、背中を預けるパーティなぞ組める筈がない。そんな常識が無い人間がいるのだなどと思えなかったのだ。 

「何を言ってるんだ! お前はまた勇者パーティに戻れるんだ。これを喜ばないヤツがいる訳がないだろう」 

「……」 

どうも、本気で言っているらしい事を理解して、更に理解に苦しむ。一体どういう神経をしたら、そんなに都合が良く解釈できるものなのか? 

「どうした! 喜びのあまり、声もでないか? 足手まといでも、俺が守ってやるから。だからもっと喜べ!?」 

上から目線で当たり前かのようにエルヴィンは言う。 

「悪いけど、僕は命が惜しいからね。それに僕は新しいパーティのリーダーなんだ。だから君のパーティの事は知らないよ」 

アルの返答にエルヴィンはぽかんと口を開けていた。エルヴィンは本気でアルが泣いて喜んでパーティに帰ってくると思っていたのだ。 

「お前、勇者の俺に久しぶりに会って動転したか? 足手まといのお前を、俺がまた仲間に加えてやると言ってるんだぞ? 泣いて喜ぶべきじゃないのか?」 

「さっきから黙って聞いていたら、一体何様なんだ? 僕がお前のパーティに戻ることなんてある訳がないだろう? 自分のした事を良く考えろ!」 

アルはそう言った。当たり前の事だが、勇者エルヴィンには全く、これぽっちも理解できなかった。 

「あなたいい加減にしたら…アルは私達のSクラス冒険団のリーダーなの、他をあたって頂戴」 

たまたま通りすがったリーゼが見かねてエルヴィンに引導を渡す。 

リーゼを見たエルヴィンはあらぬ誤解をする。脳が性欲を中心とする欲だけで構成されている彼はリーゼの様な美少女がいるパーティにいるからアルは帰ってこないと考えた。 

エルヴィンは少ない知恵で考えた。このままではアルは帰ってこない。帰って来なければアルのパーティステータス2倍の効果を得られない。 

普通簡単に上下関係がわかりそうなものだが、ここに来て、ようやく気がついた。 

「大変、申し訳ございませんでした…お、お願いします! 帰ってきてください! 」  

エルヴィンは迷いなく、頭を地にこすりつけて、土下座した。もう、顔面を地面にこすりつけている。ドン引きのする位、見事な土下座だった。 

「俺のパーティに戻ってください!!」 

いや、普通無理だろう。しかし、エルヴィンが土下座したのは魂胆があった。美少女のリーゼを見て、手に入れたくなった。もちろん、リーゼをアルの目の前で抱く事にも執着していた。 

「俺が悪かった。お前の力を十分評価していなかった!?」 

いや、そういう問題では無い。彼の命を奪おうとした事は? 婚約者フィーネを奪った事は? 

しかし、鼻もちならないプライドを持つエルヴィンとは思えない言葉だった。 

「どうか、お願いです! 俺のパーティに帰ってきてください!!」 

必死に懇願するエルヴィン、しかし彼は一言も謝らない。彼は自身のした事が罪だなどと思っていないのだ。 

「お前がパーティステータス2倍の常時強化魔法を使える事を知らなかったんだ。このままだと魔王軍との戦いが辛いものになるんだ。だから、どうかお願いします!」 

エルヴィンが渾身の土下座を披露するも、アルの心が変わる筈がなかった。 

「今更もう遅いよ」 

そう言って、アルは何処かへ行ってしまった。 

残されたエルヴィンは怒りに打ち震えていた。俺が土下座をしたというのに、聞かないだと? あり得ないだろう!? 

あり得ないのは自分の方だと言う事が未だにわからないエルヴィンだった。
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