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54グナイゼナウ子爵、人間をクビになる

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さて、今日にでも一番末の娘、アーニャを抱こう。鬼畜…グナイゼナウ子爵は今日、自身の娘を暴行するつもりだった。そして、長い間、彼の性のはけ口として使われた上の娘ミラを処分…殺害しようとしていた。しかし、 

「あなた、お父様がいらっしゃいました。お支度をして下さい」 

何故か硬い表情の妻。 

「何? 義父上が? 突然どうしたのだ? そうか! この領地を繁栄させている事をねぎらってくれるのか!!」 

彼は本気で自身の領地経営が上手くいっていると信じていた。しかし実は最悪だ。配下の役人は腐敗し、賄賂を当然のように要求し、私利を肥やす。子爵が無能な事をいい事に、レポートの数値を都合のよいように改ざんする。無論、素人でも見抜けそうなものだが… 

「義父上! 突然どうされたのですか? これはやはり、日ごろの領地経営をねぎらって頂けるのですな!」 

「何を言っておる! 貴様の目は節穴か! 今、どれだけ領民が苦しんでおるか! それだけではない! リーゼロッテから聞いた。貴様! 自身の娘に何をした!」 

「い、いや、わ、私はあの三人に絵本を読み聞かせたり、その、親子の愛情を深めておりました!」 

彼が深めようとしていたのは、地獄に堕とされても仕方がない絆。 

「上の子、ターニャを一体どこへやったのだ? 昨年訪問した時は留守と言っていたが…」 

「い、いや、ターニャは嫁にやりました! あの子も年ごろです。当然でしょう!」 

「祖父の私に挨拶もなくか?」 

「…い、いや、それは…」 

子爵は焦っていた。悪事がバレたか? 彼は婿養子だった。子爵より位が低い男爵の次男坊、その位置は家庭内では低い。義理の父に真実がバレたら、一体どうなるのか? 

「全てはリーゼロッテから聞いた。この子も悩んだのだろう…。だが、人として許される事ではないであろう?」 

「な、何を言っておられる! わ、私には何の事だか、さっぱり! ターニャを黙って嫁にやったのは、申し訳ございませんでした。以後気をつけます。ご容赦を!」 

義理の父はため息をつくと、 

「ターニャは死んだ。お前は彼女をアレの元に送ったのだろう? 調べはついている」 

「ア、アレ…一体何を! わ、私には何の事だかわかりません」 

「これが何だかわかるか?」 

義父は薄汚れた一冊の本のようなモノを懐から取り出した。 

「ほ、本?」 

「……日記だ。ターニャのな……こんなにボロボロなってしまって……たくさんのターニャの涙を吸ったのだろう……私はこれを読んで涙が止まらなかった」 

グナイゼナウ子爵は焦った。このままでは本当の事がバレてしまう! 

「お前は実の娘のターニャを慰みものに…、いや彼女だけでない。他の二人もだろう?」 

「めっそうもございません! そのような事は断じて! 誤解なのです!」 

おろおろと狼狽える子爵。しかし、 

「…お前のした事はミラに話してもらおう。ミラ、出ておいで」 

「ミ、ミラ! 頼む! 私の無実を証明してくれ! 頼む!」 

そんな訳がないだろう。自身のした事がわからないのか? 

「…ミラ、辛いだろうが、言っておくれ。お前はこの男に乱暴されていたのか?」 

ミラは辛そうな顔で、血の気は引いていたが、何かを決心したかのような表情になった。 

「ミ、ミラは毎日のようにお父様に犯されていました…。ミラには隷属の奴隷の魔法がかかっています。逆らえば、激しい痛みと…更に逆らえば…し、死んでしまうとぉ……」 

ミラは腕を前に突き出した。腕には隷属の魔法の証、魔法陣が描かれていた。 

そして、ミラはすすり泣き始めてしまった。惨めな自分が悲しくなったのだろう… 

ミラの証言を聞くと、祖父は大きく目を見開き、歳からは信じられない程の大声で言った。 

「お前の血は何色だ!! お前は人間などではない! お前は! お前は人間をクビだ!」 

「ええっ!?」 

人間をクビってなんだ? と、突っ込まないで欲しい。

「そ、それは一体どういう事で?」 

子爵が恐る恐る、義父の真意を確かめる。 

「お前の実家、男爵家とも話はついておる。お前はアレの元へ送る」 

「や、止めてくれ! そんな無茶な! それでは私が死んでしまうではないですか!」 

子爵は自身が子を殺害した事を失念しているのだろうか? 子の命は軽く、自身の命は重いとでも? 

「お前に最後のチャンスをやろう」 

「い、一体? どんなチャンスを頂けるのですか?」 

普通、こういう時、チャンスである筈もないが、疑う事も無く嬉色を見せる子爵。シンプルに馬鹿である。 

「ミラにお前の処遇を決めてもらおう。お前が本当に全うな親子の絆を育んでいるならば、ミラはお前を助けるだろう。だが、そうでない場合は……」 

子爵は顔色が真っ青になる。流石にここにきて、マジで自身の身がヤバい事を実感した。 

「ミラ、お前が頷けば、この男を殺人鬼の元へ送る。姉のターニャを殺したアレの処だ。アレは貴族社会の闇だ。貴族社会で問題を起こしたものの多くがアレの元に送られる。さあ、どうする? この男の命はミラ! お前の手の内だ!」 

「や、止めろぉ~! 止めてくれ!! そんな馬鹿な! 私がそんな扱いを受けていい筈がない! 私は高貴な身分なのだ! そうだ! こんな事は国王陛下が許す筈が!」 

「陛下の許可はとってある。我が家の恥…外部に晒す訳にはいかん。陛下の許可はとった。さあ、ミラ、頷いたら、この男を地獄へ送ってやろう。ミラはこの男を許せるのか? 許せないなら、ただ、頷いてくれ。本当に済まない。私が気がつかなかったばかりに…」 

ミラの双眸に決意の火がともる。長い間、凌辱され、惨めに扱われてきた彼女の答えは当然。 

ミラはゆっくりと頷いた。 

「さあ、この男を連れていけ! アレに切り刻ませろ!!」 

「ひゃ、ひゃあああああああああああ! ゆ、許して! 許してくれ!!!」 

突然部屋に騎士が乱入してくる。子爵の家の騎士ではない。祖父の私兵だろう。彼らは子爵に皮の袋を頭からかぶせて視覚を奪い、更に両手、両腕を縛りあげ、連れ去っていく。 

「やめてくれぇえええええええええ!!」 

子爵の声がこだまするが、誰も気にしない。 

祖父は孫のミラをしっかり抱きしめて、こう言った。 

「この老いぼれを許してくれ。私がしっかりしておれば…こんな事には…本当に済まない…」 

ミラは20年生きて来て、初めて安堵と家族の愛というものを知った。
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