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68ローテンブルクの戦い
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禍々しい瘴気が増し、そいつらは現れた。魔族の一人は無造作に手にしたものをこちらに投げ捨てた。それはミュラーさんと奥さんの亡骸…食べかけの人の肉塊だった。
僕は怒りに満ちた。何故、人と魔族が相容れないのか? 価値観、倫理観が違う、否、それ以前に、彼らにとって、人は食料なのだ。無惨に上半身だけとなりあちこちを欠損しているミュラーさんとその奥さんの遺体を見て、つくづくその事を思い知らされた。
いきなりの臨戦態勢…。
浅黒い肌、赤い目。頭部には角があり、ナーガと同様の姿、そしてその口からは今も咀嚼音が聞こえ、僕達を見て涎を垂らしている。
「うわあ、本当に罠にかかっているよぉ! 本当にこんな馬鹿がいるなんてぇ! 人の事を考えている場合じゃないだろうに! なんで人間って、こんなに馬鹿なのぉ?」
「罠だって?」
僕が魔族の一人の言葉に反応する、耳障りな言葉を吐く魔族だ。真意を確かめたかった。
「殺したヤツの幻影を見せておけば、助けにくる馬鹿な人間がいるんじゃないかって、軽い遊びのつもりで仕掛けたら、本当にこんな安易な罠にハマるなんて、なんておかしいんだ!」
遊び…だと? 人を殺しておいて、喰らっておいて、遊びだと? 人を嘲笑い、嘲笑するのは魔族の特徴。だが、この魔族は良くしゃべる。不快極まる!
「ミュ、ミュラー…奥様も…ゆ、許せない…」
リーゼが小さく呟く。その掌は硬く握られている。
「お前ら…死んだ人まで凌辱するのか? 戦った相手への敬意はないのか?」
リーゼが隣で、頷く。
と、そこで例のよく喋る魔族が、半笑いでまた喋った。
「アッハッハ、ある訳ないよぉ! あいつらはマジだったよ。その癖弱っちくて!」
……ギリリ
僕は唇を噛んだ。決死の思いで戦い…果てた戦士を弱いだと?
「ほんと、ふふっ、ちょっと軽く遊んであげたら、『助けてくれー!』 とか、『死にたくない!』とか、おしっこ漏らしなが言うんだよ! いやーホント楽しかったぁ!」
不快な声だな。全く、なんなんだ、みかけは恐ろしい魔族の癖に妙に可愛らしい話し方…。それにやたらと喋る。腹立たしい……。『黙れ』とそう言いたい。
こいつの可愛らしい話し方は人間を見下して嘲笑いたいからだろう、その方が人への絶望感と無力さをより強烈に印象づける事ができる。とことん人間を見下したいのだ。
「ホントに馬鹿だよね。あの時のあいつら、もうほんとに、くくく、ハァ~~……ほんとみっともなくて可哀想になっちゃった位だったよ」
魔族に浮び始めた残虐な微笑は、静まった場の中をひとり毒汁のように流れていた。
「言いたい事はそれだけ?」
「おおっと、そうだっけ。つい楽しかったからさぁ。大丈夫だよ。今彼らと同じ気持ちを共感させてあげるから。なんなら、自分で命を絶ってもいいよ。僕優しいからさぁ」
「僕も同感だよ。怖い思いをしたくなかったら、さっさと自ら命を絶った方がいいよ」
「はぁ~、たまにいるんだよね。はったりかまして…最後には尿を垂れ流して命乞いをするだけなのに…。人間って不愉快だよね。じゃあ、遊んであげるよ!」
「良くしゃべるね、君?」
「えっ?」
魔族は驚いた様な顔をして、僕がその魔族に突き立てた魔剣を眺めていた。
「な、何、これ? 嘘でしょ? そんな、人間にそんな事ができる訳が…」
ズシャ!!!!!
僕は魔族に突き立てた剣を抜くと、そのまま魔族の首を撥ねた。魔族の首は宙に舞い、くるくると回って、落ちた。
「死にたいヤツは早く自害した方がいいよ。僕、君達に情けなんてかけられないからね」
「人間に一人、強いヤツが混じっているか? なら、後ろの弱いヤツから、へっ、へ?」
その魔族の胸にもリーゼの魔剣が、そして一瞬でその魔族の両腕を斬り落とす。
「あなた? いつまで喋っている気? そんなに命が惜しくないのかしら? 愚かな豚ね」
「う、うおぉぉぉぉぉぉお! そんな、俺の腕がぁあああ! 人間ごときに、人間ごときに! そんな事! ありえねぇ!」
「事実を飲み込んこむ事もできない無能なのね。いっぺん死んでみる?」
リーゼは魔族の胴をあっさりと真っ二つにした。
「あら、ホントに死んだのかしら? 魔族の癖に随分と弱いのね? 驚いたわ」
「こいつら、生きて返すなぁあああああああああ!!!!!!」
魔族の一人がキレる、と同時に僕は瞬歩のスキルで瞬間移動して、一瞬で5人の魔族の手と足を、首を胴を薙ぎ切った。そして、周りを見渡すと、僕と同時に瞬歩のスキルで動いたヒルデ、リーゼ、ナディヤ、ナーガがそれぞれ魔族を切り刻んでいた。
そして、妹のロッテだけが未だ魔族に引導を渡せて…いや、渡していなかった。
「や、止めて! ひぃ! へぐっ! 痛い! あぼん! ああっ、 殴らないで! お願い、止めて! た、助けて、殺さないで、お願い!」
「あなたは命乞いをする人を助けた事があるの?」
「あ、あります。何度もあります!?」
「私、嘘つきは嫌いなんだからね!?」
そういうと、ドカン!! と凄まじい音と共に、魔族の身体は後に吹っ飛んだ。それは、人間に殴られて生じる現象とは思えないようなもので、それこそ女神様の天罰、天変地異級の隕石が着弾したかの様だった。
そして魔族達は、さらさらと黒い灰になって消えた。そして、最後の魔族が取り残された。
最後の一人の魔族が目を見開いて一歩後ずさる。魔族は引きつった笑みを浮かべ小便を漏らしていた。リーゼがカチャリと剣の音を立てる。そして、
「ひっ……」
と小さく悲鳴を漏らす。
人を蹂躙した魔族、いま人に蹂躙されて、人の気持ちがわかっただろう。だが、僕らはコイつら程、魔族を貶めはしない。死して後も蹂躙された人達に比べたらこいつら…。
「お前らの言ったとおりに何でもするから! 頼むは今回は見逃してくれ! 頼む!この通りだから!」
小便を漏らしながら恥も外聞も無く命乞いを始めた魔族…人間にも命乞いをした者がいただろう。だが、彼らが一人も助けなかった事は明らかだ。ならば、と僕が剣を持つ手に力を入れると…!
「何なのこれ?……」
「何? この瘴気?」
みなが突然ゾクりとする程の禍々しい瘴気の濃さに気がつき不安を感じる。
建物の天井付近に、突然転移の穴が現れた。そして禍々しく濃い瘴気が溢れるように、中からどぎつい色の霧が溢れ出してきた。
「魔王様!?」
魔族が喜々として『魔王』という言葉を口にする。魔王? いきなり魔王が現れるのか?
「ああ、魔王様、助けに来てくれたのですね! やはり魔族は偉大で、その中でも特別な存在である魔王様は更に偉大だ。さあ、この生意気な人間達に無慈悲な罰を与えて下さい。こいつらは仲間を10人も殺したのですよ。ふふっ! お前ら、もう命はねえぞ!」
「五月蠅いな…」
「へ?」
「……」
魔族は間の抜けた声を出すと、その姿は一瞬で消滅した。べちゃり、と紫色の液体が流れ落ちて広がっていく。
「さて、五月蠅いヤツは片付けたが、次に死にたい奴はお前らでいいんだな?」
魔王、こんなに早く対峙するとは思わなかったが、僕は念願を叶える事ができるだろうか?
僕は怒りに満ちた。何故、人と魔族が相容れないのか? 価値観、倫理観が違う、否、それ以前に、彼らにとって、人は食料なのだ。無惨に上半身だけとなりあちこちを欠損しているミュラーさんとその奥さんの遺体を見て、つくづくその事を思い知らされた。
いきなりの臨戦態勢…。
浅黒い肌、赤い目。頭部には角があり、ナーガと同様の姿、そしてその口からは今も咀嚼音が聞こえ、僕達を見て涎を垂らしている。
「うわあ、本当に罠にかかっているよぉ! 本当にこんな馬鹿がいるなんてぇ! 人の事を考えている場合じゃないだろうに! なんで人間って、こんなに馬鹿なのぉ?」
「罠だって?」
僕が魔族の一人の言葉に反応する、耳障りな言葉を吐く魔族だ。真意を確かめたかった。
「殺したヤツの幻影を見せておけば、助けにくる馬鹿な人間がいるんじゃないかって、軽い遊びのつもりで仕掛けたら、本当にこんな安易な罠にハマるなんて、なんておかしいんだ!」
遊び…だと? 人を殺しておいて、喰らっておいて、遊びだと? 人を嘲笑い、嘲笑するのは魔族の特徴。だが、この魔族は良くしゃべる。不快極まる!
「ミュ、ミュラー…奥様も…ゆ、許せない…」
リーゼが小さく呟く。その掌は硬く握られている。
「お前ら…死んだ人まで凌辱するのか? 戦った相手への敬意はないのか?」
リーゼが隣で、頷く。
と、そこで例のよく喋る魔族が、半笑いでまた喋った。
「アッハッハ、ある訳ないよぉ! あいつらはマジだったよ。その癖弱っちくて!」
……ギリリ
僕は唇を噛んだ。決死の思いで戦い…果てた戦士を弱いだと?
「ほんと、ふふっ、ちょっと軽く遊んであげたら、『助けてくれー!』 とか、『死にたくない!』とか、おしっこ漏らしなが言うんだよ! いやーホント楽しかったぁ!」
不快な声だな。全く、なんなんだ、みかけは恐ろしい魔族の癖に妙に可愛らしい話し方…。それにやたらと喋る。腹立たしい……。『黙れ』とそう言いたい。
こいつの可愛らしい話し方は人間を見下して嘲笑いたいからだろう、その方が人への絶望感と無力さをより強烈に印象づける事ができる。とことん人間を見下したいのだ。
「ホントに馬鹿だよね。あの時のあいつら、もうほんとに、くくく、ハァ~~……ほんとみっともなくて可哀想になっちゃった位だったよ」
魔族に浮び始めた残虐な微笑は、静まった場の中をひとり毒汁のように流れていた。
「言いたい事はそれだけ?」
「おおっと、そうだっけ。つい楽しかったからさぁ。大丈夫だよ。今彼らと同じ気持ちを共感させてあげるから。なんなら、自分で命を絶ってもいいよ。僕優しいからさぁ」
「僕も同感だよ。怖い思いをしたくなかったら、さっさと自ら命を絶った方がいいよ」
「はぁ~、たまにいるんだよね。はったりかまして…最後には尿を垂れ流して命乞いをするだけなのに…。人間って不愉快だよね。じゃあ、遊んであげるよ!」
「良くしゃべるね、君?」
「えっ?」
魔族は驚いた様な顔をして、僕がその魔族に突き立てた魔剣を眺めていた。
「な、何、これ? 嘘でしょ? そんな、人間にそんな事ができる訳が…」
ズシャ!!!!!
僕は魔族に突き立てた剣を抜くと、そのまま魔族の首を撥ねた。魔族の首は宙に舞い、くるくると回って、落ちた。
「死にたいヤツは早く自害した方がいいよ。僕、君達に情けなんてかけられないからね」
「人間に一人、強いヤツが混じっているか? なら、後ろの弱いヤツから、へっ、へ?」
その魔族の胸にもリーゼの魔剣が、そして一瞬でその魔族の両腕を斬り落とす。
「あなた? いつまで喋っている気? そんなに命が惜しくないのかしら? 愚かな豚ね」
「う、うおぉぉぉぉぉぉお! そんな、俺の腕がぁあああ! 人間ごときに、人間ごときに! そんな事! ありえねぇ!」
「事実を飲み込んこむ事もできない無能なのね。いっぺん死んでみる?」
リーゼは魔族の胴をあっさりと真っ二つにした。
「あら、ホントに死んだのかしら? 魔族の癖に随分と弱いのね? 驚いたわ」
「こいつら、生きて返すなぁあああああああああ!!!!!!」
魔族の一人がキレる、と同時に僕は瞬歩のスキルで瞬間移動して、一瞬で5人の魔族の手と足を、首を胴を薙ぎ切った。そして、周りを見渡すと、僕と同時に瞬歩のスキルで動いたヒルデ、リーゼ、ナディヤ、ナーガがそれぞれ魔族を切り刻んでいた。
そして、妹のロッテだけが未だ魔族に引導を渡せて…いや、渡していなかった。
「や、止めて! ひぃ! へぐっ! 痛い! あぼん! ああっ、 殴らないで! お願い、止めて! た、助けて、殺さないで、お願い!」
「あなたは命乞いをする人を助けた事があるの?」
「あ、あります。何度もあります!?」
「私、嘘つきは嫌いなんだからね!?」
そういうと、ドカン!! と凄まじい音と共に、魔族の身体は後に吹っ飛んだ。それは、人間に殴られて生じる現象とは思えないようなもので、それこそ女神様の天罰、天変地異級の隕石が着弾したかの様だった。
そして魔族達は、さらさらと黒い灰になって消えた。そして、最後の魔族が取り残された。
最後の一人の魔族が目を見開いて一歩後ずさる。魔族は引きつった笑みを浮かべ小便を漏らしていた。リーゼがカチャリと剣の音を立てる。そして、
「ひっ……」
と小さく悲鳴を漏らす。
人を蹂躙した魔族、いま人に蹂躙されて、人の気持ちがわかっただろう。だが、僕らはコイつら程、魔族を貶めはしない。死して後も蹂躙された人達に比べたらこいつら…。
「お前らの言ったとおりに何でもするから! 頼むは今回は見逃してくれ! 頼む!この通りだから!」
小便を漏らしながら恥も外聞も無く命乞いを始めた魔族…人間にも命乞いをした者がいただろう。だが、彼らが一人も助けなかった事は明らかだ。ならば、と僕が剣を持つ手に力を入れると…!
「何なのこれ?……」
「何? この瘴気?」
みなが突然ゾクりとする程の禍々しい瘴気の濃さに気がつき不安を感じる。
建物の天井付近に、突然転移の穴が現れた。そして禍々しく濃い瘴気が溢れるように、中からどぎつい色の霧が溢れ出してきた。
「魔王様!?」
魔族が喜々として『魔王』という言葉を口にする。魔王? いきなり魔王が現れるのか?
「ああ、魔王様、助けに来てくれたのですね! やはり魔族は偉大で、その中でも特別な存在である魔王様は更に偉大だ。さあ、この生意気な人間達に無慈悲な罰を与えて下さい。こいつらは仲間を10人も殺したのですよ。ふふっ! お前ら、もう命はねえぞ!」
「五月蠅いな…」
「へ?」
「……」
魔族は間の抜けた声を出すと、その姿は一瞬で消滅した。べちゃり、と紫色の液体が流れ落ちて広がっていく。
「さて、五月蠅いヤツは片付けたが、次に死にたい奴はお前らでいいんだな?」
魔王、こんなに早く対峙するとは思わなかったが、僕は念願を叶える事ができるだろうか?
応援ありがとうございます!
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