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94リナの継母

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アルザスでリーゼの復讐を終えた僕達は、祖国プロイセン王国へ帰還した。 

何せよ、突然僕は姿をくらましていたので、国王陛下にもご迷惑をかけたかもしれず、帰国次第、次第を説明した。もちろん、妹と結婚するのに気が引けて逃げた…というのではなく、仲間のリーゼの貴族復帰の為に尽力したという事にした。 

そして、僕は陛下から下賜された屋敷でみなとくつろいでいたのだが、思わぬ客が訪れた。元貴族のダニエルとその元妻アンドレアだった。しかし、ダニエルは奴隷に落とされて、その妻は離婚して実家に帰った筈なので、少々不思議だった。 

だが、訪問はダニエルの意思ではなく、元妻の意思だった。彼女はダニエルと使用人との娘、リナに謝罪に来たのだ。 

「リナ様、大変申し訳ございませんでした。わたくしは自身の行いを非常に恥じ入っております。わたくしは自身が純潔の貴族であるというだけで、あなたに冷たく接しておりました。しかし、それは貴族として、いえ、人間として間違った行動でした。さぞかしわたくしを蔑んでおられるでしょう」 

「お義母様、リナに様などつけて、どうされたのですか? リナは使用人との子です。お義母様は高貴な身分な方…仕方がない事です…」 

「わたくしごとき、そのような過分な身分ではございません。なにより貴族であるのならば、人に淑女として接すべきでした。わたくしはあなたがわたくしの子より、このダニエルに優しくされているのを見て、嫉妬に駆られておりました。わたくしもわたくしの子も愛されていない…そう思っていたのです」 

リナの義母親はどうも、あのエルヴィン勇者パーティの育成担当の貴族ダニエルに比べてまともそうな人だった。 

「お母様、お父様はリナを愛してなんていません。本当です。それに、リナに敬語を使うのは止めてください。高貴な身分のお義母様にそんな言葉を使われるとリナは恐縮してしまいます」 

「リナ様…あなたはわたくしに対して憎しみを持っていないのですか? あれ程リナ様を低く扱い、自身の子と差別をしたと言うのに?」 

「お義母様はリナが身体の調子が悪い時に、栄養のある食事を与えてくれたり、誕生日の時は少し豪華な食事を与えてくれたり…嬉しかったです」 

リナの義母親は涙を流しながら、リナに謝った。 

「リナ様…ああ、何故わたくしはこんなに良い子に酷い仕打ちをしてしまったの? あんなに自分の子と差別したというのに、それを恨んでいないなんて…」 

「お義母様、もういいのです。それに、リナに様なんてつけないでください。リナはお義母様の娘なんですよ」 

「リナ様…いえ、リナ…本当にリナと呼んでもいいのですか? 義母とて、わたくしはあなたにあんな仕打ちをした女…今は英雄であり、侯爵アルベルド様の婚約者…リナは高貴な身分なんですよ。それなのに、わたくしにあなたをリナと呼ぶ事を許してくれるのですか?」 

そうか、僕って侯爵だったんだな。貴族になったばかりで、実感がなかった。 

「お義母様、リナと呼んでください。リナは本当に良い人とそうでない人の区別位はできます。お義母様は本当は良い人だって、知っていましたよ。そうでなければ、リナの体調に気を配ったり、誕生日をちゃんと覚えていてくれたりしません。お父様なんて何もしてくれなかった」 

「リ、リナ…あなたは聡明な子だったのですね。わたくしはますます恥じ入りました」 

リナの義母親は泣き出して、何度もリナに謝り、都度リナがそれを許すの繰り返しだった。だが、 

「ところでお義母様は何故お父様なんて連れてきたのですか? こんな奴!」 

「この人は奴隷に落とされて、グナイゼナウ子爵の元で働いていましたが、子爵が急病で亡くなり、主人がいないので、わたくしが買い取りました。リナの為にです。わたくしはともかく、リナとこの人は仲が良かったので、せめてもの罪滅ぼしにと思って…」 

「お義母様! お父様は人間のクズです! リナはこの人だけは許せません!」 

リナは目に涙をためて、ダニエルを睨んだ。リナはお義母さんに事情を説明した。リナの父親が保身の為、グナイゼナウ子爵にリナの身体を提供しようとした事、あまつさえ実の父であるダニエルは娘のリナを抱こうとしていた事…びっくりした。初めて聞いて僕も驚いた。 

「そ、そんな…実の娘に…信じられない。そこまで、そこまで…」 

「ち、違うんだぁ! 誤解だぁ! リナは苦労して、多分勘違いをしたんだぁ! ワシはそんな事はしていない! 自分の娘を差し出したり、慰み者にしたりなんて誤解だぁ! リナ? ワシはお前に優しかったではないかぁ!」 

これまで奴隷の身分だったので、黙っていたダニエルが突然自身の釈明を始める。しかし、僕は50/50で多分そうだろうと思った。ダニエルのクズぶりは良く知っているから。 

「証拠ならあります」 

そう言うとリナはポケットから魔法スマホを取り出して、録音していた音声を流し始めた。 

『アル様と婚約できたぁ! 嬉しいよォォォ リナ、大好きなアル様に婚約してもらった、幸せ者! ああ、もうじき夜伽ぃ! アル様をメロメロにしてあげるよう頑張らなきゃ!』 

リナは真っ赤な顔で、無言で一旦スマホのスイッチを切ると、別の音声を流し始めた。 

『はい。リナの事ですな。先程騙して子爵様の私室に連れ込みました。ご自由に使って頂いて結構です。まだ、男を知りません故、たまりませぬぞ』 

『子爵様、しかし、リナを自由にして頂く事に一つ条件がございます』 

『リナを使ったら、時々私にも使わせてください』 

ダニエルは滝のように冷や汗をかいていた。 

数秒無言が続くが、突然リナのお義母さんが切れた。 

「あなたぁ! いえ、この鬼畜奴隷! あなたは自分の娘になんて事をしようとしたのぉ!」 

「ち、違うんだぁ! 本当に何かの誤解だぁ! 神に誓って私はそのようなことはしていない!」 

ダニエルはこの後に及んで未だにそう主張する。 

「とぼけないで! どうなるかわかっているわよねぇ?」 

「お、お、おっ おまえぇぇぇ……あ……こ、これは……」 

ダニエルは流石に狼狽して、もはやきちんと言葉を喋ることさえできなかった。 

しかし少しでも自分の身を守ろうと、涙を流し、鼻水を地面に垂らしながら、頭を地面に擦り付けた。 

「お、お、おゆゆるし……おぉ……!! ア、アンドレアさまぁ リ、リナさまぁあ!!!」 

しかし、そんなことをしても許す者がいる訳がない。 

「あなた、いやこんな男とわたくしはぁ! 汚らわしい! お前のようなモノに情けをかける理由なんてない! お前は警察に突き出します!」 

僕は無論口をはさむつもりはないけど、リナの意思を確認してみたかった。 

「リナ? いいの? 多分だけど、奴隷のダニエルは更に酷い罰を受けると思うよ。陛下は厳しい方だ。家族への性加害未遂なんて…この国の法律だと、多分むち打ち100回位は…」 

お姉さんの鞭と一緒にしないで欲しい、刑罰の鞭は皮がはがれ、肉がそがれ、それは驚く程の痛み、それにちゃんと傷の手当をしないと死んでしまう事もある厳しい罰なのだ。 

「リナはこの人をお父様だなんて思いません。警察に突き出して、後は公正な裁判で処遇を決めて欲しいです」 

「そ、そんなぁ! こ、こうせぇいな…さ、さいばんなんて、そ、そんなばかなものにぃ!」 

クズは公正な裁判が嫌いらしく、公正な裁判を馬鹿扱いだ。驚く程の倫理観だ。 

「リナがそういうなら、問題ないわね。おまえはどこまで腐っているのかしら、情は無用ね。それ相応の刑罰が待っているから腹をくくっておきなさい」 

その場で、リナのお義母さんは警察に電話すると、そのままダニエルは警察に引きずられて行った。 

「だ、だれかぁぁぁ!! たすけてぇ! こ、こ殺さないでぇぇぇッ!!!!!」 

ダニエルの叫び声が響き渡るが、リナもお義母さんも全く聞く耳を持たないようだった。
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