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96パワハラ勇者カール5

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「何故僕がこんな陰気くさい薄暗い地下牢にいなければならないんだぁ!」 

呪詛を吐くアルザス王国勇者カール・ケーニスマルク。彼はケーニスマルク家の親戚だった。直接侯爵家とかかわりはないものの、侯爵家ケーニスマルク家の麻薬犯罪への加担が暴かれ、同時にカールも捕縛された。しかし、理由は麻薬とは関係ないのである。 

彼が捕縛された理由は…法令違反の騎士達へのパワハラ…アルザス国王もフランク王国救援に成功したカール達勇者パーティを最初は庇っていたものの、流石にカールのパワハラぶりに頭を痛めていた。そして、アル達勇者パーティが魔王を討伐するに至り、カールの勇者としての存在価値は堕ちて、むしろ騎士達への配慮が優先された。それ程騎士達へのパワハラぶりは悪名高く、最近は超人気職業の騎士への登竜門である騎士試験の受験者が半分以下になる始末である。カールの悪行は国民にも広く知られていた。 

しかも、悪名高いカールとは反対に騎士達の健気で、国民へ地味な尽力をする騎士達への評判はよく、悪名高い勇者カールとは対照的だった。 

国内だけではない、アマルフィのダンジョン発生の折には、アル達にあっさり事件を解決されたものの、騎士達は街を清掃し、現地のハイクラスの冒険者や騎士達が減少してしまった為に発生していた、未討伐の魔物などを無償で討伐するという善行…アマルフィの人々はアルザス騎士団にアル達勇者パーティと同様感謝をした事は有名な話だ。 

それに比べて勇者カールは騎士達が善行を行っている間、娼館に入り浸り、酒を飲み続け、遊んでばかり…勇者パーティはあらゆる国で優遇されて、街のサービスは無料…つまり、カールはただでそういった遊びを行い、ドひんしゅくを買っていた。 

「これも、全てあの忌々しいアルベルトの勇者パーティが悪い! 僕の獲物を横からさらったり、魔物を強くして、僕の邪魔をしたり!」 

見当違いの呪詛を吐き続けるカール…カールの言い分は全くの事実無根だ。そもそもアマルフィのダンジョンの謎はアルザス王国からアル達の勇者パーティに依頼されたミッションだった。手柄を横取りしようと考えていたのはカールの方だ。 

魔王軍戦の際にアル達が魔物を強くしてしまったと勘違いしているのも、自分が旗下の騎士を次々とクビにしてしまうから、十分な鍛錬を積んでいない騎士が配属されるに至り、カールのパーティが弱体化したのだ。アル達は全く関係ない。  

しかし、おつむの弱いカールは冷静に判断し、自身のミスを認めるという普通の人間が有している機能を持っていなかった。 
「アルベルトぉ! おまえのせいだ、全部おまえのせいだぁ!」 

「五月蠅い! 静かにしていろ!」 

牢の番人が怒鳴って怒る。 

「貴様! 誰に向かったぇ! お前こそ黙れ! 僕はアルベルトへの復讐のを考える事で忙しいんだ! 殺すぞ」 

手足には枷がはめられ、足の枷には鎖が繋がり、カールが犯罪者として扱われているのは明らかだ。一体、この状態でどうやってアル達に復讐しようと言うのか? そもそも、この男は自身の罪を理解していない。捕縛された際、罪状も言われ、キチンとした説明をされていたが、理解できる脳をこの男は有していなかった。 

捕縛された彼には隷属の魔法が施された、腐った男とはいえ、勇者の才能を持つ男…暴れたり、逃げたりすると危険だ。その為、隷属の魔法が施されている。 

「こんな枷や隷属の魔法をこの僕に施すなんて! なんて不敬なんだ! これも絶対アルベルトの罠に違いない! あいつだ、卑怯なあいつのせいだぁ!」 
やはり見当違いの呪詛を吐き続けるカール。むしろ、アルベルト達を陥れる算段をしていたのはカールの方だ。ただ、彼の足りないおつむで有力な方法を考えつく訳もない。 

そこで、彼は麾下の騎士達にアルベルト達を陥れる策を考えさせた。しかし、流石にここに来て、騎士団達もこのカールに愛想が尽きた。例え貴族だろうと、絶対的な身分の者であろうと、卑怯な方法で人を陥れる、ましてや魔王討伐に成功した敬愛するアルベルト達を陥れるのだなど、考えるだけで反吐が出る。騎士団達の下した判断は国王への報告だった。 

騎士達の報告を聞いた国王は激怒し、直ちにカールを捕縛した。カールは勇者と言えど、人間同士の戦いなら、SSS級の冒険者と対等程度だ。騎士達が味方すれば、逃げおおせる事も出来たかもしれないが、もちろん、騎士達はカールの命令を無視した。国王からの指示は出ており、命令違反には当たらない。 

「アルベルトめぇ! あいつさえいなければぁ!」 

全ては自身が悪いにも関わらず、相変わらずアルのせいにするカール。しかし、彼の元へ複数の看守達が現れた。 

「ようやく無実が晴れて、釈放されるのか? アルベルトの罪が暴かれたのだな」 

一人、見当違いの考えを持つカール、しかし彼に待っていたのは、 

「元勇者カール、これから裁判だ。判決は厳しいものになるだろう。心して裁かれろ」 

「さ、裁判だと? 僕が一体何をしたと言うんだ!」 

いや、だから、騎士達を不当に解雇したり、左遷させたり…それ、法令違反だから… 

おつむの足りないカールには常識が不十分だった。全てが自分の都合がいい様にしか理解する事ができない彼の脳は普通、理解しなければならない罪を理解できない。 

裁判は簡単に進んだ。おつむが足りないカールは罪の意識がなかった為、罪を巧妙に隠す…などという事ができる筈がなかった。 

「私はアマルフィのダンジョンにアルベルド様の勇者パーティの手柄を横取りする為に十分な情報収集ができなかったという理由で、騎士団長をクビになりました。退職金も年金も無くなりました」 

「私は機嫌が悪いという理由だけで、騎士をクビになりました。その場で段ボールを渡されて、私物だけを持ち帰らされて、支給品を返却させられて…その場で泣き崩れたところ…『情緒不安定だな、精神科行ったらどう?』と言われました…」 

次々と暴かれるカールの悪行…その滅茶苦茶具合を聞いていた、アルザス国王は頭が痛くなってきた。ここまで常識がない人間がいるとは思えなかった。また、今となっては、勇者カールを庇ってしまった自身に腹がたった。 

そして、裁判長から判決が言い渡された。 

「元勇者カール、騎士団総長としての品格に欠け、なおかつ法に従わないそなたの悪行は明らか、刑法に乗っ取り、貴族から底辺奴隷への降格が妥当とする!」 

カンカンという裁判官のハンマーが打ち直されると、カールへの刑罰が決まった。 

最期に特別に傍聴していた国王は発言した。 

「このバカモノォォォォ!! アルザス王国の恥を広めるだけでなく、何の罪もない騎士達を不当に処分するとはぁ!! 貴様ぁ! 腹が立ったからクビだと? 精神科行ったらどう? よくもそんな事が言えたなぁ! 貴様が精神科に行ったらどうだ!! 死罪でなかっただけありがたく思えぇ!」 

国王ははらわたが煮えくり返っていた。戦地での事もあり、仔細は中々国王の耳には入って来なかった。カールが高位の貴族である事もあり、みな忖度して国王の耳に入れる事も無かった。 

しかし、勇者パーティの短期間での弱体化を危惧した処、騎士団へのパワハラ行為が明らかになり、幸い、カールの後ろ盾のケーニスマルク家がおとりつぶしになった。 

そしてなにより国王陛下が心を痛めたのは、気の毒な騎士達がカールが悪名を轟かす一方、各地で健気に地元の人々への善行を積み、彼らの評価は極めて高った。国王は異例の発言を行った。 

「騎士団のみなよ、全ては私の責任だ。この責任は私にある。私は第36代アルザス国王の座を第一王子に譲り、王の座を辞す。本当に済まなかった。全ては私の管理責任能力のなさ故だ」 

「そ、そんな国王陛下…」 

「我らの為にそのような事まで…」 

アルザス国王は賢王ではなかったが、愚王ではなかった。何より人としてのまともな心を持っていた。当然の責任を取る事を決意したのだ。 

「不当に解雇された騎士達は再び職場復帰できるように取り計ろう。それが私の国王としての最期の仕事だ」 

国王は騎士達に深く頭を下げた。 

この国王はこれまでそれ程の権威を示す事が出来なかったが、この一件で、アルザス王国史に残る名君として歴史書に記される事になる。この一件より、後の国王は法に従い、不正を絶対許さないという気風になり。エルフの国アルザスのイメージは極めて良いものとなり、長い目で見ると、刹那的に悪事を働く事より、絶えず正しい施政を行う事の方が国の発展に寄与する事を証明するに至ったのである。 

カールの最期の言葉は… 

「お、お、おゆゆるし……を……!!こ、こくおうへ、へいかぁぁぁぁぁさまぁあ!!! お、お許しください!!!!! ど、奴隷だけは!!!!! そ、それだけはぁ、ゆ、許してぇぇぇ!!」 

もちろん彼の言葉に耳を傾ける者は皆無だった。
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