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第34話 アーネ

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ベアトリスを取り逃がした俺はエリスたちの援護に向かった。

クラス4の虚数戦士の彼女が負けるとは思わなかったが、俺とは違い人を殺した経験がない。

「エリス、大丈夫か?」

「はい、レオン様。でも、なかなか上手く捕らえることが出来なくて」

なるほど、エリスはこの戦士を捕らえようとしていたらしい。

考えてみれば戦闘系タレント持ちなら何か有力な情報を持っているかもしれない。

「よし、俺に任せろ」

『バインド』

俺は対象者を硬直させる魔法を使った。たちまち効果があった。

「シモンさん、エリス、今のうちに」

「ああ、わかった」

シモンはそういうと敵の戦士を縄で縛り上げた。

この戦士のことはシモンに任せて俺とエリスはアーネの処に向かった。

『アーネ、頼むから生きていてくれ』

俺は祈った。妹がアーネを殺したという事になってしまっては......

「アーネ、アーネ、ああああああああああああ」

ベネディクトの叫びが虚しく響くなか、アーネの命の灯は静かに消えていった。

「アーネ、アーネ!しっかりしろ!」

信じたくなかった。あのアーネがこんな形で死ぬのか?

「そ、そんな、アーネ、死ぬな!」

「もう遅いわ!あなたの化物みたいな妹の所為でアーネは助からなかったわ!」

「そ、それは」

「この化物! あなたもあいつも化物よ。何なのよあの魔法は。あんなの人間が出来る魔法じゃないわ! それに何であいつのことやっつけてくれないの? 妹だから? アーネは死んでしまったのよ。あなたはアーネの仇を討ってくれないの?」

「そ、それは......俺には妹は殺せない。血を分けたたった一人の妹なんだ。それでも妹が本当に済まないことをしてしまって本当に申し訳ない。俺にとっても、アーネは昔からの大事な大事な友達だったのに」

「結局あなたもあの化物の家族なんでしょ? だから私達人間の事なんてどうでも良いのよ」

「そんな事はない。俺はみんなと同じだ」

「そう思っているのはあなただけよ!」

ベネディクトの恋人を失った悲痛な感情が俺の心に突き刺さった。

何より彼女の大切な恋人を奪ったのが自身の妹だという事実が俺の心を痛めつけた。

「ベネディクト、レオンのことは責めるな。レオンだって自分の妹に殺されそうになってたんだぞ。それに、自分の妹を殺せないってのは俺にも気持ちが分かる。例えベネディクトがどんな極悪人になったとしても、俺は結局お前のことを殺すことは出来ないだろう。辛いだろうが分かってやってくれ」

「わかる訳ないでしょ!こんな化物どもの事なんか! アアアアアアアアアーネエエエエエエエ!」

ベネディクトの泣き声が四方に響きわたり、それが俺の心の奥深くに突き刺さっていく。

しばらくするとイェスタ達が商隊ごと移動してきた。

「アーネ、まさか死んでしまったのか?」

アルベルテーナがアーネの死に気がついた様だ。

「ア、アーネ」

ベネディクトの責め苦はまだ続いた。

「あなたたちがそんなに強いなら、何で、だれか一人でも私達のパーティにいてくれなかったの? イェスタさんでもいたら、アーネが死ぬことも無かったのに!」

「そ、それは」

耳に痛い言葉だった。俺達は自分達のタレントを隠していた。

だから交戦前はアーネ達のパーティには一人もおらず、自分たちのパーティで固まっていた。

まさか盗賊の中にハイレベルのタレント持ちがいるとは思わなかったからだ。

「それは、私のミスだ」

アルベルテーナがベネディクトに告げた。

「私はレオンのタレントもイェスタのタレントも知っていた。私もクラス4のタレントを持っている。それらをみんなに隠していた」

「えぇっ、アルベルテーナ様はクラス3のウォーロックでは?」

シモンが驚いて質問する。

「レオンは他者にクラス4のタレントを付与できるのだ。エリスも、イェスタも、そして私も元々のタレントの他にクラス4のタレントを持っている」

「じゃあ、あなた達のパーティにはクラス4のタレントを持っている人が4人もいたの?」

ベネディクトが涙声で話す。

そう、俺達はクラス4のタレント持ちが4人もいたのだ。

「私が悪いのだ。責めるなら私を責めてくれ」

「そ、そんな、アルベルティーナ様を責めるなんて」

「でも、悪いのは私だ」

「違います。悪いのはレオンの妹であり、勇者のパーティです! あああ憎い憎い憎い、この手で殺してやりたい!」

俺もアルベルティーナもどうしていいかわからなかった。

「レオン、本当に悪いと思ってるなら、妹の代わりに痛めつけられても文句は無いわね?」

そう言うと、ベネディクトは俺を杖で殴ってきた。

『ガキン』

嫌な音がした。魔法障壁を持つために、俺には簡単な物理攻撃程度では全く意味をなさない。

ミスリル製の杖は嫌な音をたてるだけで何も俺にダメージを与える事はできなかった。

「こ、この化物めーーーー」

ベネディクトはそう言うと、しゃがみこんでしまった。

俺は妹をどうすべきだったのだろうか?

このまま妹を野放しにしておくことは出来ない。

だが、俺に妹を殺す事が出来るだろうか?

奴隷として売られた挙句に殺されそうになった時は、俺は妹もアリシアも殺してやろうと、そう本気で思っていた。

だが、エリスが俺の心の傷を癒してくれた。

あの時抱いた復讐のドス黒い残忍な気持ちは、今は無くなっている。

俺の腕や目を奪った貴族の娘リリーを殺した時、俺の心の中には確かに復讐の狂気が渦巻いていた。

だが、今はもう人を殺す事に躊躇いさえ覚えてしまう。

あんな妹でさえも......

例え、俺を殺そうとしたとしても、俺にとってはたった一人の妹なんだ。

俺は一人迷路に入り込んでしまった。いったい俺は妹をどうしたいのか?

結局答えは出なかった。
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