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第35話 アリシア
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ケルンの街へ戻るとベネディクト達はアーネの葬儀を執り行った。
俺は葬儀に呼ばれなかった。逆に来るなと言われた。
アーネを殺したのは俺の妹だから当然のことだろう......
シモンとベネディクトはこの仕事から辞めることになった。
アーネの死で、パーティを続けることが難しくなったのだ。
それにまた、ベアトリスが出てきたら、二人の命が危なくなってしまう。
本当は俺も逃げ出したかったが、そうすることは出来なかった。
アーネを死なせてしまった責任を取るために、その元凶である妹を何とかしなければいけないと感じたからだ。
兄として、か・・・
エリス、イェスタ、アルベルティーナはアーネの葬儀に参列していた。
商隊の護衛は明日からまた始める事になりそうだ。
取りあえず今日はやる事が無くなった俺はケルンの繁華街をあてもなく歩いた。
注意力も散漫だったのか前を良く見ておらず、誰かにぶつかってしまった。
「すいません」
「ごめんなさい」
その声に聞き覚えがあった。驚いて顔をあげ相手を見ると!
「ア、アリシア」
「レオン!」
俺がうっかりぶつかった相手は俺の幼馴染で婚約者、いや、元婚約者のアリシアだった。
にわかに緊張した。そうだ、ベアトリスがいたんだ。アリシアがいても不思議は無い。
エリアスもいるかもしれないという事だ。
「レ、レオン、どうしてここにいるの?」
「お前に関係ないだろ?」
「そ、そんな......」
アリシアは顔色が悪く、何だか物憂げな表情をしていた。
「レオン、ちょっと来て」
俺は腕を引っぱられそうになった。だが、もしここで連れて行かれたら、そこにはエリアスがいました、なんて事になりそうだ。
「断る」
「お願いだから」
アリシアは必死な表情で懇願してきた。
『どういう事だ? なんだか様子がおかしい』
「来て」
俺は強引に手を引かれて連れて行かれた。
アリシアは路地裏に俺を連れ込んだ。エリアスやベアトリスの姿は見えない。
「何の用だ?」
怒気の含まれていた声で尋ねた。
「......わ、私、あなたに謝りたくて......」
「............」
アリシアが俺に謝る?
今更何を言って?
俺は無言で返した。
今はアリシアを殺そうとまでは思わない。
だからといって、彼女の裏切りを許せる訳ではない。
赦す事は出来たとしても許す事は出来そうもない。
アリシアはなおも無言で下をむいていた。
待っていれば俺から許しの言葉があると思っているのかもしれない。
これじゃ昔と同じだ。最後は俺が根負けした。
「一体どういう事何だ? 今更何を謝るっていうんだ?」
「あなたにしてしまった事! 裏切ってしまった事、奴隷として売ってしまった事! あなたにたくさん言った暴言! 私、何であんな事したのかわからなくて......」
アリシアは昔のアリシアに戻ったのか?
アリシアが俺にした事を後悔している?
本当か?
俺は聞いた。
「アリシアにとっては、今でも俺たちの故郷は大切か?」
「大切に決まってるわ! あなたやベアトリス、アーネ達との思い出がいっぱい詰まったところ! 絶対に忘れちゃいけない、大切な場所!」
アリシアは故郷での思い出が大切だと思っているようだ。
そのことが俺には嬉しかった。ひょっとしたらアリシアは昔のアリシアに戻ったのか?
「俺にとってもアリシアとの故郷での思い出は大切なものだよ。今でも」
アリシアが顔をあげると、一瞬だけ笑顔が垣間見えた。
腰迄伸びた長い髪が美しく揺れて、アリシアの動きに合わせて上質な絹の様に広がった。
アリシアは俺の全身を見るなり、その大きな目を見開いた。
「その腕と目はどうしたの?。一体、何があったの?」
アリシアの瞳から沢山の涙が溢れだしていた。
「お前達が俺を奴隷として売ったからだろ? 俺は奴隷として売られた先で、腕と目以外にも、全身隈なく切り刻まれた」
「そんな、奴隷は脅しだけで、本当は売らないって聞いてたの、そんな、本当に売られてしまったてこと? 噓でしょ?ごめんなさい、ごめんさい、ごめんなさい」
アリシアはひたすらに謝っていた。
そんなアリシアに俺は不覚にも魅入られてしまった。
あんなことがあっても、アリシアはやはり美しかった。
「アリシアは何に謝ってるんだ?」
「私、こんな事になってるなんて知らなくて」
「アリシア、エリアスの言う通りにしてたら、こんな風になるとは思わなかったのか? ベアトリスが言っていたろ、そこじゃ1年も生きられないって。本当に地獄みたいなとこだった。普通ならとっくに死んでいた」
「ち、違う、私、そんな風に思ってなくて、本当に死んじゃうような所だなんて思わなかった。エリアスに言われた通りに、私はただ冷たくすることで故郷に帰ってもらおうとしただけなの、お願い、信じて!」
「信じられる訳が無いだろう。あんなひどい裏切りをした奴の言う事なんか!」
「本当なの! 私、馬鹿だった。一番大切なものは何か、わかっていなかった」
「......」
「レオンがいなくなるなんて考えた事も無かったの。でも、レオンが私の元から離れるって考えたら」
「どう思ったんだ」
「私、生きていけない!」
「じゃ、なぜ、俺が好きだと言った時、好きだと言ってくれなかったんだ?」
「......」
「俺はお前とエリアスの事を知っても、あの時お前が好きだって言ってくれたらまだ信じる事が出来たんだ」
「......」
「あの時、お前の方から離れて行ったじゃないか!」
「......」
「俺の事なんてどうでもよかったんだろ。今更何なんだよ!」
「許して。なんでもするから」
アリシアは必死だった。
だけど今更、謝って済む問題じゃない。
「それなら俺の目の前から消えてくれ!」
「お願い、許して。あなたと別れたくないの。他のことなら何でもするから」
「......」
「私にとって1番大切なのはレオン、あなたなの」
「それなら何故、エリアスとは別れて勇者パーティを抜けないんだ?」
「そ、それは......」
アリシアは顔をあげた。瞳からは涙が溢れていた。でも、俺にはそれが汚れた涙に思えた。
「私、おかしくなってたの。ごめんなさい。ごめんなさい。もう勇者パーティを抜けるから!」
「そんな嘘通用するか、謝っても許されない事だってあるぞ!!!」
「わ、私、私、ああああああレオン!」
アリシアは号泣し始めた。
「結局、二人を天秤にかけただけだろう」
「違う、違う、違う......」
アリシアは泣き続けた......
アリシアは泣き尽くしたあと、長い間、沈黙していた。
「何でもするから。だから......」
アリシアは俺に抱きついてきた。懐かしいアリシアの香り。こんな近くで感じた事はなかったが、暖かい肌の温もり。アリシアの身体は暖かく、柔らかかった。
「アリシア、止めろ」
冷たく言い放つとアリシアの体を離した。
「アリシア、俺はエリアスとベアトリスと、そしてお前を殺そうと思っていた」
『ビクン』とアリシアが震える。
「そ、そんな!」
アリシアが顔を上げる。潤んだ瞳は悲しみに包まれている。
「俺は死線を彷徨った。お前達のせいだ」
「私を殺したら、許してくれるの?」
俺は顔に冷笑を浮かべた。
「許さない」
アリシアはこれまで見た事がない程大きく瞳を開いた
「あ、あ、あ、レ、レオン。私のレオン、私は大切なものを......」
「ああ、お前の知ってるレオンはもういない」
「あああああああああああああああああああああああ!!!!」
アリシアは絶叫した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私、取り返しのつかない事を......」
俺は心にもない事を言った。
俺の幼馴染がどんなに汚れていたとしても、昔の俺なら最後には許してしまっただろう。
だけどもう遅いのだ。今の俺にはエリスがいる。
もう俺の隣にはアリシアの居場所は無いのだ。
「アリシア、故郷の頃が懐かしいと思えるなら、少しは昔の心を取り戻したんだろう? なら、勇者パーティを抜けろ。お前達勇者パーティは、国中の民から商人まで酷く恨みを買っているぞ。早くエリアスの元から逃げ出さないと大変なことになるぞ」
俺はアリシアを残したまま路地裏を出ていった。
俺は葬儀に呼ばれなかった。逆に来るなと言われた。
アーネを殺したのは俺の妹だから当然のことだろう......
シモンとベネディクトはこの仕事から辞めることになった。
アーネの死で、パーティを続けることが難しくなったのだ。
それにまた、ベアトリスが出てきたら、二人の命が危なくなってしまう。
本当は俺も逃げ出したかったが、そうすることは出来なかった。
アーネを死なせてしまった責任を取るために、その元凶である妹を何とかしなければいけないと感じたからだ。
兄として、か・・・
エリス、イェスタ、アルベルティーナはアーネの葬儀に参列していた。
商隊の護衛は明日からまた始める事になりそうだ。
取りあえず今日はやる事が無くなった俺はケルンの繁華街をあてもなく歩いた。
注意力も散漫だったのか前を良く見ておらず、誰かにぶつかってしまった。
「すいません」
「ごめんなさい」
その声に聞き覚えがあった。驚いて顔をあげ相手を見ると!
「ア、アリシア」
「レオン!」
俺がうっかりぶつかった相手は俺の幼馴染で婚約者、いや、元婚約者のアリシアだった。
にわかに緊張した。そうだ、ベアトリスがいたんだ。アリシアがいても不思議は無い。
エリアスもいるかもしれないという事だ。
「レ、レオン、どうしてここにいるの?」
「お前に関係ないだろ?」
「そ、そんな......」
アリシアは顔色が悪く、何だか物憂げな表情をしていた。
「レオン、ちょっと来て」
俺は腕を引っぱられそうになった。だが、もしここで連れて行かれたら、そこにはエリアスがいました、なんて事になりそうだ。
「断る」
「お願いだから」
アリシアは必死な表情で懇願してきた。
『どういう事だ? なんだか様子がおかしい』
「来て」
俺は強引に手を引かれて連れて行かれた。
アリシアは路地裏に俺を連れ込んだ。エリアスやベアトリスの姿は見えない。
「何の用だ?」
怒気の含まれていた声で尋ねた。
「......わ、私、あなたに謝りたくて......」
「............」
アリシアが俺に謝る?
今更何を言って?
俺は無言で返した。
今はアリシアを殺そうとまでは思わない。
だからといって、彼女の裏切りを許せる訳ではない。
赦す事は出来たとしても許す事は出来そうもない。
アリシアはなおも無言で下をむいていた。
待っていれば俺から許しの言葉があると思っているのかもしれない。
これじゃ昔と同じだ。最後は俺が根負けした。
「一体どういう事何だ? 今更何を謝るっていうんだ?」
「あなたにしてしまった事! 裏切ってしまった事、奴隷として売ってしまった事! あなたにたくさん言った暴言! 私、何であんな事したのかわからなくて......」
アリシアは昔のアリシアに戻ったのか?
アリシアが俺にした事を後悔している?
本当か?
俺は聞いた。
「アリシアにとっては、今でも俺たちの故郷は大切か?」
「大切に決まってるわ! あなたやベアトリス、アーネ達との思い出がいっぱい詰まったところ! 絶対に忘れちゃいけない、大切な場所!」
アリシアは故郷での思い出が大切だと思っているようだ。
そのことが俺には嬉しかった。ひょっとしたらアリシアは昔のアリシアに戻ったのか?
「俺にとってもアリシアとの故郷での思い出は大切なものだよ。今でも」
アリシアが顔をあげると、一瞬だけ笑顔が垣間見えた。
腰迄伸びた長い髪が美しく揺れて、アリシアの動きに合わせて上質な絹の様に広がった。
アリシアは俺の全身を見るなり、その大きな目を見開いた。
「その腕と目はどうしたの?。一体、何があったの?」
アリシアの瞳から沢山の涙が溢れだしていた。
「お前達が俺を奴隷として売ったからだろ? 俺は奴隷として売られた先で、腕と目以外にも、全身隈なく切り刻まれた」
「そんな、奴隷は脅しだけで、本当は売らないって聞いてたの、そんな、本当に売られてしまったてこと? 噓でしょ?ごめんなさい、ごめんさい、ごめんなさい」
アリシアはひたすらに謝っていた。
そんなアリシアに俺は不覚にも魅入られてしまった。
あんなことがあっても、アリシアはやはり美しかった。
「アリシアは何に謝ってるんだ?」
「私、こんな事になってるなんて知らなくて」
「アリシア、エリアスの言う通りにしてたら、こんな風になるとは思わなかったのか? ベアトリスが言っていたろ、そこじゃ1年も生きられないって。本当に地獄みたいなとこだった。普通ならとっくに死んでいた」
「ち、違う、私、そんな風に思ってなくて、本当に死んじゃうような所だなんて思わなかった。エリアスに言われた通りに、私はただ冷たくすることで故郷に帰ってもらおうとしただけなの、お願い、信じて!」
「信じられる訳が無いだろう。あんなひどい裏切りをした奴の言う事なんか!」
「本当なの! 私、馬鹿だった。一番大切なものは何か、わかっていなかった」
「......」
「レオンがいなくなるなんて考えた事も無かったの。でも、レオンが私の元から離れるって考えたら」
「どう思ったんだ」
「私、生きていけない!」
「じゃ、なぜ、俺が好きだと言った時、好きだと言ってくれなかったんだ?」
「......」
「俺はお前とエリアスの事を知っても、あの時お前が好きだって言ってくれたらまだ信じる事が出来たんだ」
「......」
「あの時、お前の方から離れて行ったじゃないか!」
「......」
「俺の事なんてどうでもよかったんだろ。今更何なんだよ!」
「許して。なんでもするから」
アリシアは必死だった。
だけど今更、謝って済む問題じゃない。
「それなら俺の目の前から消えてくれ!」
「お願い、許して。あなたと別れたくないの。他のことなら何でもするから」
「......」
「私にとって1番大切なのはレオン、あなたなの」
「それなら何故、エリアスとは別れて勇者パーティを抜けないんだ?」
「そ、それは......」
アリシアは顔をあげた。瞳からは涙が溢れていた。でも、俺にはそれが汚れた涙に思えた。
「私、おかしくなってたの。ごめんなさい。ごめんなさい。もう勇者パーティを抜けるから!」
「そんな嘘通用するか、謝っても許されない事だってあるぞ!!!」
「わ、私、私、ああああああレオン!」
アリシアは号泣し始めた。
「結局、二人を天秤にかけただけだろう」
「違う、違う、違う......」
アリシアは泣き続けた......
アリシアは泣き尽くしたあと、長い間、沈黙していた。
「何でもするから。だから......」
アリシアは俺に抱きついてきた。懐かしいアリシアの香り。こんな近くで感じた事はなかったが、暖かい肌の温もり。アリシアの身体は暖かく、柔らかかった。
「アリシア、止めろ」
冷たく言い放つとアリシアの体を離した。
「アリシア、俺はエリアスとベアトリスと、そしてお前を殺そうと思っていた」
『ビクン』とアリシアが震える。
「そ、そんな!」
アリシアが顔を上げる。潤んだ瞳は悲しみに包まれている。
「俺は死線を彷徨った。お前達のせいだ」
「私を殺したら、許してくれるの?」
俺は顔に冷笑を浮かべた。
「許さない」
アリシアはこれまで見た事がない程大きく瞳を開いた
「あ、あ、あ、レ、レオン。私のレオン、私は大切なものを......」
「ああ、お前の知ってるレオンはもういない」
「あああああああああああああああああああああああ!!!!」
アリシアは絶叫した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私、取り返しのつかない事を......」
俺は心にもない事を言った。
俺の幼馴染がどんなに汚れていたとしても、昔の俺なら最後には許してしまっただろう。
だけどもう遅いのだ。今の俺にはエリスがいる。
もう俺の隣にはアリシアの居場所は無いのだ。
「アリシア、故郷の頃が懐かしいと思えるなら、少しは昔の心を取り戻したんだろう? なら、勇者パーティを抜けろ。お前達勇者パーティは、国中の民から商人まで酷く恨みを買っているぞ。早くエリアスの元から逃げ出さないと大変なことになるぞ」
俺はアリシアを残したまま路地裏を出ていった。
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